0002 OFFT オフトーThe Old Friend Farm a TOKYO
金田悟。年齢にして15歳だった少年。
「だった」と言うのは、アンドロイドになった時の年齢で、今となっては何歳になったのかも数えていない。
年齢が若い=元・オフトの住民だ。
彼は、ある部隊の副総長をしていた。
戦争の際に不意打ちをされ、やむなく降参をしたという経緯がある。
総長の名前は山本司。悟よりひとつ年上の16歳だった。
総長は要注意人物とされ、記憶を消されID(戸籍)も変えられ、違う人物として生きているのだろうと思う。だから、今会ったとしても、お互いに誰かわからないだろう。
オフトには、様々な人間がいた。全部で1500人位。
中には小学生の兵士もいたし、元々は大企業の社長令嬢もいた。
その中の大半が、記憶を消されてしまった。
元・オフトの面々は何をやっているのかと言えば、刑務所に入らない代わりに、現実社会でブレイン・ワーカー達の栄養剤の補充やバッテリーの点検などの仕事を半ば強制的にさせられている。
no brain 能(脳)無しの扱いを受けているが、その作業もすぐに終わるので、こうやって自由の国ジパングにログインしている訳だ。
金田は奈良の大仏前の東京タワー下で腕組みをしながら何やらブツブツ言っている。
金田の願いは元・オフトの人間たちと再び出会う事なのだが、現実社会では強制的に付けられた肉体の為に誰が誰だかサッパリと解らないし、ジパングの中では余りにもの大人数の為に出会うのが奇跡に近いのだ。
だが、金田は諦めようとはしなかった。
オフトの連中は能無し認定を受けているはずだから、ジパング内でも余りいい仕事にありついていないだろう。そんな者達に救いの手を差し伸べたいのだ。
とはいうものの、金田自身もいい待遇の仕事をしている訳ではない。彼自身の目標はオフトの再建、そして誰もが笑って暮らせる事だ。
その為には何をすればいいのか?それが彼がブツブツ言っている原因である。
とりあえず、給料のいい仕事を探すか?いやいや、オフトってだけでろくな仕事がもらえない。
では仕事の掛け持ちをするか?これは給料は期待できるが、活動時間が限られてくる。
う〜ん、どうしよう・・・。そう考えていると上空の空に飛行船が飛んでいた。
この飛行船は今日の天気がどうのとか、役に立たない情報ばかりを表示しているだけの物であるのだが、今日ばかりは違った。
『ゲームデザイナー募集。身分、経歴不問。』
これだと思った金田はすぐさまに連絡をとることにしたら、すぐに面接をするから会社まで来るようにと言われた。
履歴書は?と聞くと、IDがあるのでそれで十分なのだという。金田は言われるがまま指定の時間に会社に行くことにした。
会社に行く途中にクレープ屋を見つけたので、飲み物と一緒に購入。味はするんだけど、歯ごたえがないんだよ。飲み物もストローで吸ってるって感じがないんだよなと思いながら食事を済ませ、足早に面接会場に向かった。
面接会場に着いた金田は、驚くことになる。
会社名『キュービックアイランドエレクトロニクス』。この世界Infinity worldを作ったゲーム会社だ。そんな一流会社が一般応募をするとはラッキーのような、裏があるような・・・。
一階の受付嬢に面接会場を聞き、55階の会場に入ったら、沢山の応募者でごった返していた。ここにいるのは多分、今の生活や扱いに不満を持つ者ばかりだろうと思う。
試験は面接のみ。5名ずつ呼ばれては話をしているようだ。
待つこと2時間。やっと、金田の順番が回って来た。
白色一色の空間には何もなく、辺りを見渡していると部屋の中心に一人の中年男性の姿をしたホログラムが現れた。
『今日はお越し頂き、ありがとうございます。私は面接官のジェフ・カールトンと申します。実際、私は英語で話しているのですが、皆さんの耳には日本語で届いているかと存じます。これはゲーム内でも使われているシステムで、我々の自慢だとも言えます。さて、前置きはさておき、面接を開始致します。面接と言っても、質問は一つだけ。どんなゲームを作りたいですか?それを言って頂くだけで結構です。』
同じように面接を受けている人達が順番にアイデアを話している。賭博の還元率を上げるとか、マイホームを自らの手で作るゲームとか、それぞれがもっともらしい答えをだしていて、いよいよ金田の順番が回って来た。
「僕は復讐が出来るゲームがいいです。」
『ほう、復讐とはどんな風にですか?』
「私はオフトの人間です。オフトと言うだけで差別対象にされ、まともな仕事にも付けません。ですので、我々をこき使っている人達に勝つ。そんなゲームがしたいです。」
『なるほど、分かりました。今日はご足労さまでした。合否は追って知らせます。』
面接が終わりビルから出るとメッセージが現れた。もう一度、会場に来て欲しいとの事だった。
なんだ、また罵詈雑言でも受けるのかと肩を落として会場に入ると、そこには数人のスーツを着た人達のホログラムが座っていた。
『やあ、金田君。さっきの話を聞いて面白いと思ったよ。是非ともわが社で働いてくれないか?』
はあ?何言ってんだ、この人。からかってるのか?
「あの、俺を馬鹿にするのは止めてくれませんか?」
すると、席に座っている人達、全員が笑い、本当にこの会社で働いてほしいと言っていた。決め手は、今時にないサクセス・ストーリーだからウケる事は確実だとも言っていた。
『ゲコクジョウ、ナイス!』『反骨主義、エクセレント!』とほめちぎっている。
「あの、本当にいいのでしょうか?私はオフトの人間ですよ?差別とかしないのですか?」
おかしい、誰もがオフトと言うだけで犯罪集団だと思っているのが当たり前だ。だからろくな仕事に就けない。それが普通なのに、この人達はその感じが全くない。
『全く、問題ないですよ!むしろ、君のような人が世界を回す人材なんだよ!自信を持って、これから我々に協力してほしい!』
「はあ、そういうことなら・・・。」
『よし、では早速、仕事に取り掛かろう。専門的な事は今からインストールするから問題ないよ!後は、君の思い描いたことを話して欲しい』
こうして金田は働く場所を獲得した。