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0016 新天地への旅立ち

ウィンドリーフの街は、再び活気に満ちていた。新たなアップデートが発表され、冒険者たちの間には興奮と期待が広がっていた。

今度のイベントは、「新天地への旅立ち」と名付けられていた。


ギルド支部には、無数のプレイヤーが集まっていた。

彼らの目は、ギルドマスターのカリンが掲示した告知板に釘付けだった。


「新天地への旅立ち。そこには未知のエリアと強力なモンスターが待ち受けている。この挑戦に成功した者には、特別な報酬が用意されている。」


その告知を読み終えた斬撃は、静かに微笑んだ。「新天地か…、これが次の挑戦だな。」


エミリーが斬撃に近づき、興奮した表情で話しかけた。「斬撃さん、新しいエリアですよ!未知の土地での冒険、ワクワクしませんか?」


「もちろんだ」と斬撃は答えた。「新たな冒険には、常に挑戦と可能性が伴う。それが冒険の醍醐味だ。」


イベントの開始当日、ウィンドリーフの中心広場には多くの冒険者が集まっていた。

ギルドマスターのカリンが壇上に立ち、皆に向かって話し始めた。


「冒険者たちよ、今日は新たな旅立ちの日だ。新天地へのゲートが開かれた。そこには、これまでにない挑戦と発見が待っている。準備はいいか?」


冒険者たちは一斉に歓声を上げた。その中で斬撃も静かに頷き、心の中で決意を新たにした。


ゲートが開かれると、冒険者たちは次々と新天地へと足を踏み入れていった。

斬撃もその一人として、ゲートを通過した瞬間、目の前には広大な新エリアが広がっていた。


新天地に足を踏み入れるためには、斬撃は特定のNPCたちを護衛するクエストに挑む必要があった。

そのNPCたちは、牧師、大工、鍛冶師、料理人といった、新天地での生活に欠かせない存在たちだった。


ウィンドリーフの広場で、斬撃はその護衛依頼を受けた。

ギルドマスターのカリンは彼に詳細を説明した。「斬撃さん、この馬車には新天地での開拓を担う重要なNPCたちが乗っています。彼らを無事に新天地まで護衛してください。」


その時、あるプレーヤーが疑問を口にした。「普通は新天地の街はすでに出来上がっているんじゃないのか?」


カリンは微笑みながら答えた。「それでは、リアリティにかけてしまいますもの。新天地では一から街を作ってくださいね。」

カリンは続けて、「クエストが護衛だけだと、皆さんがつまらないでしょうから、隠しクエストも用意いたしました。では、クエストを楽しんでくださいね。」


斬撃は頷いた。「任せてくれ、カリン。必ず無事に届ける。」


しかし、斬撃は内心焦りを感じていた。護衛任務はソロで活動している自分には向いていないと感じていたのだ。

これまでの経験では、自分一人の身のこなしで切り抜けてきたが、今回は他の命を預かる重圧があった。


馬車には牧師のエルナ、大工のロイド、鍛冶師のバルト、そして料理人のミリアが乗り込んでいた。斬撃は彼らと簡単な挨拶を交わし、護衛の準備を整えた。


「皆さん、しっかり捕まってください。道中には危険が待ち受けているかもしれませんが、俺が守ります」と斬撃は力強く宣言した。


馬車が出発すると、斬撃は周囲の警戒を怠らず、馬車の周りを常に確認しながら進んだ。

道中、様々な障害や敵が現れたが、斬撃はその都度冷静に対処した。しかし、心の中では「これでいいのか?もっと効率的に守る方法があるのでは?」と悩みが尽きなかった。


そんな中、一匹のスライムが現れた。斬撃はすぐに双剣を抜き、スライムを簡単に討伐したが、次の瞬間、森の奥から大量のスライムが湧き出てきた。


「こんな数、相手にしてられない!」

斬撃は馬車の馬の尻を叩き、「逃げろ!」と叫びながら馬車を走らせた。


その時、システムメッセージが表示された。


『護衛対象者と離れすぎています。30秒以内に護衛可能区域まで戻ってください。30…29…28…』


『ゲームオーバーまで10…9…8…』心臓が高鳴り、焦りを感じる。『7…6…5…4…』


時間が迫る中で斬撃は何とか馬車に追いついた。


『護衛可能区域に戻りました。』


再び護衛体制を整えた斬撃は息を整えながら、再度周囲の警戒を強めた。


道中、モンスターが襲い掛かって来た。逃げようもない状態。

斬撃は戦う判断をした。その時、システムメッセージが表示された。


『護衛対象者と離れすぎています。30秒以内に護衛可能区域まで戻ってください。ゲームオーバーまで、30秒…29…28…』


30秒以内でモンスターを討伐し、馬車の所まで戻らなければならない。斬撃は焦りながらも、全力で戦い、次々とモンスターを討伐していった。


戦いを終えると、斬撃は息を切らしながら馬車に駆け戻った。


『護衛可能区域に戻りました。』


再び護衛体制を整えた。しかし、モンスターとの戦いで斬撃は疲労困憊だった。

「こんな所は、リアルなんだよな」と愚痴をこぼしながらも、疲れている斬撃は休憩をとることにした。


「少し休憩しよう。皆も疲れているだろう」と斬撃はNPCたちに声をかけ、馬車を止めた。エルナが癒しの魔法で斬撃の傷を癒し、ミリアは温かいスープを用意してくれた。


「これで少しは楽になるだろう」とミリアが微笑みながらスープを差し出すと、斬撃は感謝の意を込めて受け取った。


「ありがとう、ミリア。助かるよ」と言いながら、斬撃はスープを飲み、体力を回復させた。


ロイドとバルトも、それぞれの仕事に取りかかりながら、休憩をとっていた。

ロイドは馬車の点検をし、バルトは武器の手入れをしていた。


「斬撃さん、休憩が終わったらまた出発しましょう。新天地まであと少しです」とエルナが声をかけると、斬撃は頷き、「了解だ」と答えた。


十分な休憩をとった斬撃は、再び護衛の体制を整え、馬車の出発準備を整えた。


「皆、準備はいいか?もう一踏ん張りだ」と斬撃が声をかけると、NPCたちもそれぞれ頷き、前を向いた。


再び出発した一行は、さらに険しい道を進みながら、新天地への期待を胸に秘めていた。


ある地点に差し掛かった時、斬撃はふと視界の隅に光るものを見つけた。

それは不思議な青い光で、森の中に誘うように漂っていた。

斬撃はその光に興味を引かれ、エルナに話しかけた。


「エルナ、あの光を見てくれ。何か知っているか?」


エルナは驚いた表情で首を振った。「あれは見たことがありません。でも、何か重要なものかもしれません。」


斬撃は一瞬考えた後、エルナたちに馬車で待つよう指示し、光の元へと進んだ。光を追っていくと、やがて石碑の前に赤いドレスを着た少女が立っているのを見つけた。


「騎士様、どうか私の母をお救いください」と少女が訴える。


『クエスト 竜の涙 受諾しますか? YES/NO』


斬撃は驚きつつも、これが隠しクエストかと、すぐに応じた。「もちろん『YES』だ」と言い、同時にシステムメッセージが表示された。


『護衛対象者と別行動が可能になりました。』


斬撃はリリィを連れて、洞窟へと向かおうとした。その時、牧師のエルナが駆け寄ってきて言った。「私も一緒に向かいます。」


しかし、斬撃は首を振った。「ありがとう、エルナ。でも、これは俺一人で十分だ。君がいると動きが制限される。」


エルナは少し心配そうな表情を浮かべたが、斬撃の決意を見て理解した。「わかりました。どうか気をつけて。」


斬撃はエルナに礼を言い、リリィと共に洞窟へと進んだ。洞窟の入り口にたどり着くと、足元に『松明』というアイテムが落ちていた。斬撃がそれを手に取ると、松明に明かりが灯り、洞窟内を照らしてくれた。


「これで洞窟の中も安心だ」と斬撃は呟き、松明を掲げて先へ進んだ。


洞窟の入り口は大きく口を開けており、その奥には暗闇が広がっていた。途中、広い空間があるので休憩をすることにした。斬撃はふとリリィに話しかけてみた。


「リリィ、この洞窟にはどんな罠があるか知っているか?」


「…。」リリィは何も答えない。


斬撃はさらに質問を続けた。「洞窟の奥にはどんなモンスターがいるんだ?」


「…。」またしても、リリィは答えなかった。


そのやり取りを続けるうちに、斬撃はリリィの返答に一定のパターンがあることに気づき始めた。しかし、それを確かめるよりも、彼は楽しみながらリリィに様々な質問を続けた。


「リリィ、君の夢は何だ?」


「私の夢は、お母さんが元気になって、再び一緒に森を歩くことです」とリリィは少し寂しそうに答えた。


「好きな色は?」


「…。」またしても、リリィは答えなかった。


斬撃はリリィとの会話を楽しみながら、洞窟の中を進んでいった。途中でふと、「リリィ、竜に勝つための手段を知っているか?」と尋ねた。


リリィは一瞬ためらってから答えた。「その情報は提供できません。でも、あなたのスキルを信じています。」


「じゃあ、竜の弱点は知っているか?」とさらに尋ねた。


リリィは再び同じ答えを返した。「その情報は提供できません。でも、あなたのスキルを信じています。」


その答えに斬撃は少し呆れたように笑い、「やっぱりこの辺はNPCなんだな」と思ってしまった。


「ありがとう、リリィ。さあ、行こう」と前を向いた。


リリィは斬撃の手を取って、手を繋ぎながら洞窟を歩いて行った。斬撃はNPCと手を繋ぐのがうれしかった。何故なら、ゲーマー現役時代には、会話は勿論、手を繋ぐなんて不可能な事だったからだ。


その時、斬撃は松明の明かりが小さくなっていることに気が付いた。松明をよく見ると『燃焼時間残り30分』とあった。


「急がなければ!」と斬撃は焦りを感じ、さらに歩みを早めた。


やがて、広大な地下湖にたどり着いた。湖の中心には美しい青い光が輝いていた。


「ここが、伝説の湖か…」斬撃は感嘆の声を漏らした。


「これで、お母さんの病気を治せる!」リリィが駆けようとした。「バカ!、やめろ!」


斬撃の制止を聞かなかったリリィが湖に近づくと、突然巨大な影が現れた。それは竜だった。竜は鋭い眼差しで斬撃とリリィを見据え、低い唸り声を上げた。


「ここは私の領域だ。侵入者は容赦しない」と竜は咆哮した。


斬撃は双剣を構え、竜に立ち向かう決意を固めた。「リリィ、君は後ろに下がっていてくれ。ここは俺に任せてくれ。」


リリィは頷き、斬撃に祈りを捧げるような目で見つめた。


斬撃と竜の激しい戦闘が始まった。竜の強力な攻撃を巧みにかわしながら、斬撃は鋭い一撃を繰り出していく。竜の炎を避け、翼の一撃を受け流し、その隙を突いて攻撃を続けた。


戦いは熾烈を極めたが、ついに斬撃は竜の弱点を見抜き、致命的な一撃を加えた。竜は轟音とともに倒れ、その身体が湖に沈んでいった。


「これで終わりだ…」


しかし、斬撃はその場で立ち止まり、疑問の表情を浮かべた。竜があまりにも弱く、手ごたえがほとんど感じられなかったのだ。さらに、通常ならばドロップアイテムがあるはずなのに、何も見当たらない。


「なんだ、これは…」斬撃は呟き、湖を見つめた。「あの竜、本物だったのか?」


その時、斬撃はふとリリィの方を振り返った。すると、リリィの姿が急速に変わり、巨大な竜へと変身していった。竜になったリリィは大きな口を開け、強烈なブレスを吐いた。


「しまった!」斬撃は叫んだが、その炎に焼かれた瞬間、視界が真っ暗になった。


気がつくと、斬撃はウィンドリーフの宿屋に戻っていた。彼は深く息をつきながら、ベッドから起き上がった。


『クエストに失敗しました。』


斬撃はそのメッセージを見つめ、しばし考え込んだ。「一体、何が起こったんだ…?」彼は自問しながら、新たな決意を胸に、再び冒険に立ち向かう準備を始めた。





***





CIE(キュービック・アイランド・エレクトロニクス)の会議室にて。デザイナー、エンジニアなどが、大きなモニターで、ゲームの状況を見ている。スタッフの一人が、「金田さん、いやらしいサブクエストを作りましたね。」


金田は微笑みながら答えた。「これはピンポイントでソロプレーヤーと言う自信とプライドを持っている斬撃さんを苦しめるためのクエストですからね。斬撃さんが頭が柔らかければ、クエストはすぐに終わりますよ。早く、気づいてもらいたいものです。」


新天地での冒険は始まったばかりだ。斬撃の冒険は、まだまだ終わることなく続いていくのだった。


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