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0000 プロローグ①

 西暦2400年 10月12日―


『全システムをシャットダウンします。YES/NO』

 機械的音声が危険を知らせるアラートを流す。


 ここは、メインコントロールサーバー室。

 室内には照明がなくケーブルに繋がれたコンピューターのLEDの点滅の光しかない。

 その点滅するLEDの明かりに照らされた者たちの顔がうつり静かに集まってくる。


 その者達は互いの顔を見合わせ、そして一人の者の顔を見つめている。

 シャットダウンを表示したパネルの前に立つ男は、皆の顔を見渡し、そして頷いた。


『YES』


『シャットダウンまで残り10秒、9・8・7・・・。』

 全員は自然と手を繋ぎ、何かを決意したかのように目を閉じる。


『6・5・4・・・。』


『3・2・1・・・。』




***




 西暦2291年6月23日―


 地球は医療が進歩するに比例して高齢者が人口の9割を占める、超高齢化社会になっていた。このままでは人類滅亡の回避は絶望的とささやかれていた。

 しかも、高齢者を支えるための資金を捻出する為、搾取する税金が高騰し、国民はいくら働いても食べるだけで精一杯の暮らしを余儀なくされ、人類は子供を儲ける余裕がなくなっていた。


 この光景に憂慮した世界政府は子供倍増計画と称し、支援金を投入することを決定、それに合わせるように各国・各自治体が子供を増やさんと様々な支援を発表、子供がいる家庭には税金の優遇、支援金の上乗せと金のばらまきが行われていた。


 しかし、物価高に喘ぐ国民の心理に高給取りの政治家は気づく事すら出来ず、半永久的資金援助、物価を下げる事ではなく一時的な金では何の効果も得られなかった。子供を育てるとなるとなおさら金がかかる。誰にでもわかることだ。一時金は生活の為に消費、貯蓄に回され、結局の所、国民に理解が足らなかった政治家の考えと国民の実生活のズレが生じた為に、子供倍増計画は失敗に終わった。


 このままでは、人類の滅亡は避けることが出来ないと人類が落胆している時に、世界を揺るがすビッグ・ニュースが発表される。


 世界的権威と言われる脳生理学教授シシリア・グレース博士率いるチームが、萎縮した脳の再生技術を開発したという事だった。


 脳再生術―。脳を覆っているくも膜の代わりに細胞活性化薬リリンアソシン酸と脳細胞タンパク質で出来たシートを取り付ける事で脳を再生化するものであり、萎縮した脳細胞が若返るという事だった。


 更に驚くべきことに、脳細胞再生はシートを定期的に取り替えることで何度でも再生出来る。言い方を変えると脳は「永遠に死なない」という事になる。


 この技術開発を世界的コンピューター企業が全面バックアップすると発表をし、治験に至るまで数か月とかからなかった。


 治験は何の問題もなく大成功を収めることになる。ただ、脳は元に戻っても体はガタついた老人のままで、このギャップにいらだちを覚える患者が後を立たなかったと言う結果に終わった。


 その状況を打破すべく手を挙げた人物がいた。名前はジョン・マテリアと言うロボット工学を研究している人物である。


 この人物を知らないロボット工学者はいない程の第一人者、実際に世界中で作業をしているロボットは彼が開発したもので、誰もがその恩恵を受けている。


 例えば喫茶店に行くとしよう。見た目は人間と変わりないロボットのウェイトレスが座席までエスコートをし水とおしぼりを持って来る。最新AIを搭載しているため愛想もよく、正確な接客をするという代物だ。


 何故、このようなロボットが普及しているのか?その実情は深刻な出生率にある。所謂、若者が限りなく少ないのだ。


 若者が少ない→老人が働く事になる→生産量が少ない→価格高騰の為に経済が回らない→納税額が少ないという悪循環を招くため打開策として投入されたのがロボット達である。

ロボットに働かせておけば事業主から税金を人間と同じ額を搾取出来る訳だ。


 しかし、ロボットにも限界があった。

 AIが発達をしたとは言え細かい作業や、いつどのように起こるか解らないイレギュラー対応、仕事の勘などという言わば『人間臭さ』更には人間ならではの発想や感性がどうしてもプログラム出来ない壁である。


 そこでジョン博士が目を付けたのが、治験患者の脳をロボットに移植する所謂、アンドロイド計画である。


 この投げかけられた提案によって世界は二つに割れた。推進派、人権倫理派と昼夜問わず議論に明け暮れるようになり、閣議決定まで15年の時間を費やすことになる。


 結果、推進派の勝利。倫理を謳っている政治家自体が、人間の尊厳と表向きは言うものの本人が老人であるために死が間近に迫っている。故に死が怖い。結果、自己の保身に走ったと言うのが本当の理由。結果的に政治家も自分が最優先で可愛いという事である。そしてアンドロイド計画が発足したのである。


 しかしこのタイミングで世界を脅かすニュースが発表された。

 ロボット工学の権威、ジョン・マテリア博士、心停止が原因の死亡—。

 閣議決定まで時間が掛かりすぎたのだ。


 その反面、奇妙なニュースも流れる。実はジョン博士は生きていると言う。

 どちらが正解なのかと言われると、実は両方正解で両方不正解。ジョン博士は世間に内密に心停止した後の自分自身を使ってアンドロイド手術を実行、成功したと発表があったのであった。


 このニュースにまたもや世界が沸き立つことになり、世界の実業家や政治家がこぞって、アンドロイド手術を受けることになるのだが、特殊な手術とアンドロイド本体が高額な為、一国民には手が届かないのが現状だった。


 その3年後、人類絶滅を危惧した世界政府は一般人向けにアンドロイド手術は保険適用とし、ロボットの部分は世界的インターネット企業が通信を独占するという条件で代金を支払うという大盤振る舞いをしたおかげで、安価で永遠に近い生命を手にすることが出来たのである。


 老人たちがロボットの体を持つことにより、変化と問題が起きた。変化は永遠の生命を手に入れたのだから、神への信仰や宗教がなくなった。さらに問題が発生し、人間の若者への差別が起こった。

 更に生身の人間よりも体力筋力共に優れたアンドロイド達の方が優秀な為に仕事にありつけない若者が急増したのである。


 そして、溢れた若者たちが集まる地域、OFFT(オフトーThe Old Friend Farm a TOKYO)が生まれた。

 Old Friendと言っても『古い知人』という意味ではない。アンドロイドを新しい人類と呼ぶのに対して生身の体の人類は古い人類という意味である。

 実はオフトはTOKYOと言っているが東京都ではなく、群馬県に位置する。このオフトに日本中の若者たちが集まり、自主的に農業などをして生活をしていた。


 若者達は元々、老人介護を生業としていた。

 しかし、アンドロイド計画が進むにつれ介護施設の閉鎖、再就職を試みるが介護以外の仕事の経験はなく、更にアンドロイド達に仕事を奪われてしまったが為に路頭に迷う事になり、希望となるオフトに自然と足を運ぶことになった。


 大人しく農作業をしているのだから、問題はなかった。ないはずだった。


 アンドロイド達は食事を必要としない。


 結果、オフトで作った農産物はアンドロイド手術件数に反比例として徐々に必要とされなくなり、最終的に収入にならなくなってしまった。


 それが原因となり、オフトの収穫物だけでは若者全員がお腹いっぱいになることが出来ず、若者達は日に日に痩せ細る体に反比例をしたかのように不満を膨らませて行き、どうせこのままでは死ぬのだから道ずれを作ってやるとアンドロイド破壊に踏み切った。


 原理は簡単。アンドロイドのヘルメットをはがし、スタンガンで脳をショートさせるだけ。若者にとっては、犯罪とかの意識はなく、一作業に過ぎなかった。


 この日本での暴挙は世界中の若者に支持され、世界各国で若者が住む地域は全てオフトと謳うことになり、世界中でアンドロイド破壊事件が多発することになる。


 この事態を防ごうとアンドロイド達で作られた世界政府は、自分たちは永遠に近い生命を持ったのだから、効率の悪い生身の人間は必要ないという閣議決定に至り、人間虐殺を目的とした大がかりな作戦を発動する事になった。


 余談だが、オフト地域に核爆弾を投下すればよいとの意見が出たが、倫理的に理解できないといわれ、通常兵器のみでの作戦になったのは、まだ人間的理性を捨てていなかったのだろう。




 ある夜—。


 オフト周辺の見回り担当の少年が、向かってくる軍隊を見つける。


「司令部、アンドロイド(奴ら)がやってきます!到着まで、約1時間!」


 司令部と言っても街の中心部にある大きなビルの一角。

 元々は都市としても発展をしていた群馬県であったのだが、高齢者が適切な介護と治療を受けることが出来るようにと、全面積が住宅街となった東京都に一人、また一人と移住して行った為に、群馬市街は廃墟となっていた。


 司令部があるそのビルは「元・群馬県庁」。

 その中には男女含む1,500人が寝泊りをしている。


 皆から総長と言われる少年は司令部本部のマイクに静かに語りかけた。


「いいかお前達、作戦内容はさっき伝えたな。その通りに動くんだ。相手はアンドロイドだ。電気や火には勝てないだろう。皆の無事を願っている。以上。」


 我ら人類に栄光を!




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