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マチアスにはマチアスの、人を惹きつける魅力がある。

保守派(・・・)と言われている“嫡男至上主義”の貴族たちの無作法な発言を八つ裂きにせんとする口撃をしても、それでも人が魅了されてしまうのは彼が国王たる素質のようなものを持っているからだろう。

最も、保守派の人間は自分たちの意見を古いと言い改革しようとし反撃してくるマチアスに魅了されることも、魅力を感じることもないだろうが、中立派や改革派、あとは、言い方は非常に悪いが何も考えていない(・・・・・・・・)子息子女などは惹きつけられている。

彼ならばきっと。そう思わせる力で。


そして婚約式からカナメにも不思議なファン(・・・)がついた。

今まではカナメの取り繕った(さま)とあの容姿に魅了され「好き!」と目を輝かせる者たち──こちらも男女問わずである──はいたのだが、このファンは少しそれらと立ち位置が違う。

それにファンができたと同じ理由で、若干恐れられるようになってしまった。

恐れられる、とは“若干”をつけてもどこか強い表現になりそうなのだが、そう言う状況になっているのことは事実だ。

この物語の終わりに向け、ここではそれを書いておこう。




婚約式に招待されたひとり、ノア。

ハミギャ国ミューバリ公爵家ノア・ディディエ・ヴィヨン。公式の場では現在バグウェル伯爵と呼ばれる彼。

彼の国は精霊から恩恵を受けることができると周知の事実で、彼は生まれてすぐに光と闇の精霊から加護を与えられたと知られるように──あちらでこのことを公表したのはマチアスとカナメの婚約式の前である──なった。これはハミギャ国において初めての出来事である。

また彼の精霊からの祝福が異常(・・)であることは今現在伏せられている状態だが、彼の魔法への、特に精霊魔法の才能は並外れていると言われており、そのことから「精霊に好かれ過ぎている……愛されているのでは?」とまことしやかに囁かれていた。

そのノアが、あの婚約式で誰に聞かれてもいい、いや、むしろ「聞かれて広がってくれればいいな」と思う節があったのではないかと勘ぐりたいくらいの声で言った言葉がある。

──────まるで、大精霊セーリオ様とそのご令弟様がお二人の婚約を、そして未来を祝福しているようですね。

ノアは本心でそう言ったし、そんな気がするなあという心持ちであった。

しかしそれを、この国の信仰を知る他(・・・・・・・・・・)国の王太子の婚約者(・・・・・・・・・)という立場のノアが軽々しく、人に聞かせるように口から出す事ではないだろう。実際、彼の言葉は「ですね?」と誰かに意見(・・)を求めるような言い方ではなく、「ですね」と肯定しか認めない(・・・・・・・・)というような声音だったのである。

──────ノアのような立場の人間が、軽々しくあのように言うだろうか。

そう考えた者たちは、こうも考えた。

──────彼が言うのならもしかして?本当なのではないか。

あれをあの場で口にしたノアがここまでを想像したかどうかは定かではないが、この件がカナメにファン(・・・)がつき、そして若干恐れられるようになってしまった原因である。



ちなみに、そのご令弟様(・・・・)には悲報であろうが、このノアの発言は発言からたったの数日(・・・・・・)で『まるで、大精霊セーリオ様がお二人の婚約を、そして未来を祝福しているようですね。』と変化を遂げていた。

どうやらこの国の神である名前(セーリオ)ばかりに人はとらわれ、ご令弟様(カムヴィ)の名前が人を返す事に存在感を失い、しまいには消えて行ってしまった様だ。



当然カナメはノアのこの発言を知り「ひいいい」と思う存分引いてから、ノアに恨み言の一つでも言いたくなった。

軽々しく言ったらダメでしょ。と言う気持ちもあるし、同時に「そんな不確定なことで注目を浴びることになるの?俺、精霊魔法初心者だよ?いまだに精霊を使役するっていうの、よく理解していないのに!?」というビビリの虫が騒いでだ。

カナメが沢山飼っているビビリの虫がいくら騒ごうと泣きじゃくろうと、一度人の口に上がってしまった噂や推測(・・・・)は収束してくれない。

頼みの綱(・・・・)のサシャは「確かにそうかもしれないな。いや、カナメはどんな神にも祝福されて当然だろう。今更騒ぎ立てることでもないだろうに」ととんでもないことを言い出して当てにならない。彼は実に真顔でそう言ってのけた。

寧ろきっかけとなったノアをさすがと褒め称えている。カナメは知らないが、贈り物まで送っていた。

兄サシャのことは大好きだけれど、大好きだからこそ、自分の思いを汲んで話を終結させてと思うカナメは崩れ落ちた。

サシャを筆頭に

──────家族はダメだ。当てにならない。まったく当てにならない!!

それに気がつくのは簡単だった。悲しいくらいにすぐに理解できたのだ。

その上、全て(・・)を知るマチアスは然もありなん──マチアスがそう思っていなくても、カナメにはそう見えたのだ──、で否定の声をあげなかった。

マチアスが肯定もしないと言うスタンスでいる事自体、実はカナメを慮っての行動だけれど、この行動も超好意的(・・・・)に取られ「肯定しないのは真実であり、真実だからこそカナメ様の負担にならないように肯定をしない。否定しないのがその証拠」となってしまった。

これにマチアスも絶句したようで、以降尚更マチアスはもう何も言うまいと口をつぐむを選択した。

この件で下手に何かを言えば、10倍もしかしたら20倍になってとんでもない形のものが返ってきそうだと思ってである。だから否定も肯定もできない。

マチアスは、カナメからすれば役立たず(・・・・)の立場に身を置く事になったのだ。

当然この結果にカナメは泣いた。そしてそれを見つかり「泣いてない!」と否定して、サシャに泣きついた。

そのあとは想像できるだろう。サシャは女性が卒倒しそうな美しい笑顔でマチアスに迫ったと言う。

やはり不敬という言葉は、カナメを前にすると()以上に軽くなるようだ。

下手をすると「不敬?それはカナメを前にすれば空気より軽いと認識しているが、何か問題でも?」言いそうなところが、サシャの恐ろしいところである。


兎にも角にも、このような理由でカナメは獲得したのだ。

まず、カナメに何かしたらセーリオらからの神罰が降るのでは怯える、甘い汁に敏感な後ろめたい気持ち(・・・・・・・・)を持つがために、カナメに恐れをなしているもの。

そして、ファンという名の、信者(・・)を。


その筆頭がエティエンヌの婚約者(・・・・・・・・・・)、リンドマン侯爵家長女シェシュティン・ホールリン。


ブラコンサシャが筆頭ではないのかって?

彼をカナメの信者にしてしまったら、信者と呼べる基準が高(・・・・・・・・・・)くなりすぎる(・・・・・・)ので彼はカウントされていない。

彼は正しくただの超弩級のブラコンである。


話を信者たちへ戻すが、このシェシュティンというなんとなく可愛らしい響きの名前の彼女は、セーリオとカムヴィから祝福を受けた──カナメの気持ちや精神状態にお構いなしで、もはや決定事項の状態となって国を駆け巡りつつある──カナメに並々ならぬ敬愛という感情を向けており自ら「わたし、カナメ様信者ですの!」と名乗った(・・・・)第一号だ。

元々シェシュティンは、カナメのこの国では珍しい色と彼の容姿、そして何事も真摯に取り組む姿に「カナメ様、素敵です」という憧れの様なものを持っていたのだが、それがあの事件(ノアの発言)こう(・・)なった。

そして第二王子婚約者の肩書を持つ彼女がいうのなら、自分も名乗ってみようかな。人をこういう気持ちにさせ、信者だと声を上げるものが出てきている。

しかも彼女は「エティと婚姻した暁には、美人で格好良くて、頭のいい子をたくさん産みます!カナメ様、ご安心を!マチアス殿下に側妃などという不届ものをグチャッ(・・・・)と黙らしてみせますわ!」と公言してやまない。

ちなみに「グチャッてなんだ」と聞けたものは今のところいないようだ。しかしシェシュティンがこの発言をした時、現場に居合わせた人物の心の言葉をこの場で公表させてもらうと「なんとなく空恐ろしかった。背筋が凍った」そうだから、きっと恐ろしい事をした効果音(・・・)だったのだろう。


こんな彼女が筆頭となり、カナメ信者がそこかしこで(・・・・・・)誕生した。


シェシュティンに面と向かって「わたし、信者ですの」と言われたカナメはどうだったかといえば。

引き攣りそうになる表情も悲鳴も何もかも飲み込んで、「ありがとう」というだけで精一杯であったが相手はなにせ信者だ、気にしない。

むしろ信者でいる事を許可してもらえたと判断され、彼女は同年代を中心に“入信者募集活動”、いや布教活動(・・・・)に励んでいる。

これで生まれる信者が彼女の同世代だけならまだ良かった──何が良かったかって、カナメの平穏のためにである──のだろうが、信心深いものはどこにでもいる。

そうした彼らまで信者と化している場合もあるので、老若男女の様相である。

デボラがカナメを心配するほどの状態で、カナメは夜会でとある貴族男性に「カナメ様はセーリオ様に愛されているに違いありませんな。いや、じつはわたしも妻も信者と言われるアレでして」と小声で言われた時には気絶したくなったそうだ。

本当に気絶せず踏ん張ったカナメの努力と気合は、素晴らしいものだったと自信を持ってここに記しておけるだろう。

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