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マチアスが設立した『王立デュカス療養所』で心と体の傷を癒している彼らであったり彼女たちは、快方に向かっていく中で社会貢献活動を始めるものが出てきた。

貴族の世界が変わる、という空気が彼ら入所者の快方を後押ししているのだろうか。マチアスが思うよりも速くそして多く、そうした活動を行うものが出てきたのだ。

彼らにとって貴族の世界に戻るにしても戻らないにしても、この貢献活動は社会復帰するためのリハビリテーションの様なものでもあるかもしれない。

しかもこの活動は主に孤児院の子どもを支援することや、希望する大人にも所謂簡単な勉強を教えることであったり、神殿が行うバザーに寄付するものを作ったりと、活動している彼らからすれば、珍しいことや難しいことでは決してない。入所中の彼らにとって活動する敷居が低かったというのも、取り掛かりやすく良かったのだろう。

こうした活動は平民に、特に神殿に保護されているものであったり孤児であったりに還元されていくので、「『王立デュカス療養所』が出来たことによって、貴族の世界が変わり、“自分たちの世界”も変わるのではないか」と希望を見ていく。

自分たちの行動で誰かが希望を持つという姿を見て、この療養所で過ごす彼らも希望を持ち活動にも力が入る。いい循環が生まれていると言う。


マチアスが先頭に立って行動したと言うのは多くの者が知るところだが、しかしその多くは──平民であるから、なのかもしれないが──実際に会っていない見ていないものよりも、実際に見たり会ったものに想い(・・)を向ける。

そしてこの療養所のきっかけとなったデボラと息子のカナメは、二人が持つ色や見た目も相まって、この療養所を中心として救われていく彼らが想いを向けるには──言い方は良くないが──ちょうどいい存在(・・・・・・・)なのだ。

美しい社交界の白薔薇と、彼女と同じ色を持つ美しい青年。なんともおあつらえ向きの“象徴的存在”ではないだろうか。


だからカナメがデボラにくっついて活動をしていると聞いた時、マチアスは思ったのだ。

──────これはなんとなく、いや、なんとなくではない。確実に面倒なことが起きる。なんとも言えないが、嫌な予感がする。

超弩級ブラコンサシャがいるので、警備的な問題(・・・・・・)という意味では嫌な予感は一つもない。

王子につく以上の警護をカナメにつけている気がするほどに、サシャはブラコンなのだ。この辺りの心配をする方がおかしいのである。

それに王太子妃となるカナメには諜報部の護衛もついている。

もっと言おう。カナメについている二体の精霊がなんであれ、カナメを傷つけるものには容赦がない様な気がするとマチアスは思っていた。

以上の点から、万が一もないだろう。

そうではないところで、マチアスは思ったのだ。

──────カナメが卒倒する様な、何かとんでもない(・・・・・・)名前で呼ばれるのではないか。

なにせ誰の目から見ても丁度良い象徴的存在(・・・・・・・・・)なのだ。デボラもカナメも。

しかしデボラにはすでに『社交界の白薔薇』と名がついている。これがあまりに浸透しているのでこれ以上は増えないだろう。

デボラが自身の婚約式で見せたあまりの美しさは、あれから随分経った今でも語り種だ。

彼女が他国の高位貴族の血筋を持っていることなどもあり、どちらかといえば(・・・・・・・・)大々的になってしまった婚約式は、人の注目も関心も集めた。そこで本来の美しさを見せたデボラ。

これは貴族界に大きな衝撃をもたらしたほどの生まれ変わり(イメージチェンジ)だった。

そして彼女が見せた婚姻式の美しく儚くけれども不思議と凛とした姿は貴族界以外にも衝撃を与え、彼女をイメージした香水や服や装飾品、はてには芸術家と研究者が共に開発し()までも作られたほどだ。流石にあれ以降デボラの新色(・・)は登場しないが、香水や装飾品はいまだに『社交界の白薔薇』をイメージしたものが登場する。

そのデボラを今更『社交界の白薔薇』以外の名にするのは不可能だし、新しく作ったとしてもそれを超えることは不可能だろう。

だからマチアスは考えた。


──────となると、彼らがつけるのであれば、その息子だ。


「思った以上に早かったな」

「私はもう少し早くこうなる(・・・・)のでは、と思っておりました」

「……そうか?まあ遅かれ早かれこうなったとは思うが」

二人で黙った。

あんな偉人に例えられていると知ったカナメがどうなるか。

マチアスにもアルノルトにも簡単に想像できてしまう。

人前ではもうそんなカナメ(・・・・・・)にはならないが、家族や自分たちの前できっと混乱状態になる。

あわあわとしてくれるだけならまだいいが

「カナメ様ですから……泣いて大騒ぎになりそうな気がいたします」

マチアスは無言で頷く。その様子は簡単に想像できた。


「なんでもいいが、うまいこと(・・・・・)しばらく隠す様にしなければなるまい……」

「ギャロワ侯爵家のみなさまはカナメ様の耳に入らない様にするでしょうから……それ以外から守らなければいけませんね」

「この件については、サシャと相談するしかないな。まいったな……気が重い」


サシャ様の予定を聞いておきます。

そう言った同じ思いのアルノルトは、サシャの友人であるリンス・アントネッリが頭と胃を抑えている姿が頭に浮かんだ。



ちなみにご存知かもしれないが、『社交界の白薔薇』のもう一人の息子であるサシャは『黒薔薇』と言われている。

この黒薔薇の前には『冷徹』とか『氷雪』とか、とにかくクールそうな、冷たそうな言葉がついてくるのだが、とにかく『黒薔薇』とひっそりと呼ばれている。

ひっそりとはいえ本人には当然バレていて「息子の私の色が黒だから黒薔薇……驚くほどにひねり(・・・)もないんですね」とのたまったという。

弟以外には基本、とことん冷たい男である。

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