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カナメが部屋に篭った一方、マチアスは離宮の温室で目を閉じジッとしていた。


今までの王族としての教育で知り得た事、そして本で読んだ事をもとに、自分が考えある程度の確信を得たからカナメに伝えた。

カナメが試練に関わっていなかったら言わなかっただろうけれど、カナメが思ったように、カナメが関わっているから伝えたのだ。

けれどもそれは「カナメも関わりがあるだろう試練だから一緒に頑張ってほしい」、と思ってではない。決して。

こんな王族のよく分からない事に巻き込んでごめん、と言った雰囲気が強い。どちらかといえば、事情説明のようなものだった。

全てが終わってから事後報告するよりも、「こういう理由で今こんな事になってるみたいだよ」と言ったような、現状が生まれただろう原因を話しておこうと思った、案外と軽い思いだ。

なにせ試練は自分(王族)が乗り越えるものだ。カムヴィは王族に試練を課す(・・・・・・・・)のであって、その婚約者にではない。

(しかし……俺が国王になるとなれば、どうしたってカナメにだって試練が……いや、現にそうなっているじゃないか。カナメは試練を与えられる王族ではないのに)

カナメが側妃だの子供だのと落ち込み泣いて苦しんでいるそれが、自分に与えられた試練なのではないか。そうマチアスはふと思ったりもした。

カナメを、彼の心を壊さず守り抜くという、愛しているからこその試練なのではないか、と。

王太子になったからこそ始まった試練。正直カナメ(婚約者)の心を守るという試練なのかと思うくらいに、カナメが苦しんでいる。


なぜならカナメの事がなかったとして、王太子になる事についてだけであるのなら、マチアスはなんとも思っていない(・・・・・・・・・・)からだ。

一応、自分よりも弟のエティエンヌの方が今の時代の国王として良いと思っているし、自分はどちらかと言えばそうではない(・・・・・・)と思うからその辺りについては思うところもあるけれど、それらを一切考えなければ、マチアスは自分が王太子となる事について、なんとも思っていない。


だってマチアスは王子だ。頭の片隅ではもし(・・)を忘れないようにしていたし、彼は正しく王族(・・・・・)である。

王太子になる覚悟も、国王になる覚悟も、持ち続けた王子がマチアスだ。

ただ実際にそうなるとは思わなかったし、その万が一のその時(・・・・・・・)、自分はカナメをどうしたらいいのか、までは考えていなかった。それは彼の“若さ”だろうか。

(むしろ、俺にとって国王になるなんかよりもずっと──────、そう、ずっとカナメを守る事の方が俺にとってはよっぽども試練だ……、いや、もういっそそれ(・・)だと言われた方がよっぽども納得する)

何が乗り越えなければいけない試練なのかマチアスには当然判断出来ないけれど、自分が王太子になるのも国王になるのも、幼い頃から王族たるものはと考えていたマチアスにとっては試練というほどの試練ではない。

(試練というのが何かは知らないが、俺がそうなる事は別に試練だと自分が感じるような事ではないじゃないか。もう、それ(・・)どうでもいい(・・・・・・)のではないだろうか)

彼が決める覚悟は、王太子になる覚悟や国王になる覚悟ではない。

カナメの心を守り抜く覚悟だ。苦しむかもしれないから逃す。そういう事はもう考えない。苦しむカナメを守り抜く覚悟だ。

その方がよっぽども試練だと思い至ったマチアスは一層分からないのなら、今自分がしたい事を守りたいものを一番に考える事にした。

ともかく、マチアスは覚悟し足掻くと決めたのだ。

カナメの心を守り、国王(父親)の命である王太子になるのだと。



目を開けると、こんな時でなければ目を楽しませてくれただろう植物が温室には溢れている。

少しは気持ちが落ち着くかと思ってここを選んでみたが、全くその効果はなさそうでマチアスは椅子の背もたれに体を預けた。

考えれば考えるほど、ロドルフのあの様子、そして離宮行きを決めたと言ってもいい神官長の態度。あれは自分に関する神託がおりたのだと思う気持ちだけになっている。

(与えられた試練から逸脱するような事を、はたして国王(・・)は許すだろうか……)

試練を乗り越えたれなかったものの末路というのは、実は書物に殆ど残されていない。

それでも乗り越えられなかったものの末路が書かれているとされる(・・・・・・・・・・)書物や、カムヴィと彼の試練について教えられた際に父であるロドルフから聞き及んだ限りだと、心を病んだとか、死んだとか、そう言うのはあるという。

しかし国が傾いたと言うような事はなかったと、マチアスは記憶している。

そしてロドルフは国を取れる父親(・・・・・・・)だ。

今までの試練を乗り越えられなかったものの末路が、その個人に対してだけだったとしても、これからは不明。

もしかしたら今後は試練を乗り越えられなかったがために、国が傾くという可能性だって考えるのが、国王ロドルフ(・・・・・・)である。

そのロドルフが試練から逸脱するような事や、乗り越えられていないと判断される可能性がある事を許すとは、マチアスには到底思えなかった。

神託の内容は秘匿。そしてそれを乗り越える手助け(・・・・・・・・)は可能であっても、それはあくまで乗り越えるためのツールを提供する程度で決定的な──────いわば最終兵器のような何かや、どこに向かえば良いのかなどという地図は提供出来ない。となっているはずだと言う事も、なんとかマチアスは思い出した。

(つまり、俺は子供を作らない、側妃は持たないと言っても、かまわないのではないだろうか)

あの時、マチアスはロドルフに言った。

──────万が一俺が覚悟を決める事が出来たら、前例を作ってもいいですね?

(その意味を父上は気がついていたはずだ。気がついて国王として(・・・・・)頷いたはずだ)

なるほど、自分はもう一つ覚悟を決めなければいけないのだとマチアスは立ち上がる。


彼は決めた。


「試練が何だか知らないが、側妃は持たない。国王と王妃になるが子供はエティから養子をとろう。エティにまず、王家に残るように説得をしなければ。いや、その前に、カナメに話をしなければいけないな」

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