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マチアスは翌日、カナメに話した。

この国はセーリオと神としているが、王族はセーリオの双子であるカムヴィも神としている事。

そのカムヴィは時折神託(試練)を出し、それが王宮神官長によって国王に伝えられる。そしてその神託の内容は王妃だけにしか打ち明ける事が出来ない事。

神託は、試練の内容、そしてそれを誰に与えるのか、と言うようなものらしい(・・・)事。

試練を与えられたものにも、試練の内容は一生涯言えない事。

今の所ここまでしか国王である父から教えられておらず、もしかしたらまだこのカムヴィに関する重要な事が何かあるかもしれない事も。

「それと、もし本当に神託だったとして、もう何代も神託を受けたと思われるような王族はいない」

この王弟がそうであるのなら(・・・・・・・・)彼が最後だと思う。とマチアスはあの本をカナメに渡した。



カナメは少しだけ考えたい、そう言って昼前から部屋に篭りっきりだ。


王族がカムヴィという大聖霊も神としている事。その神が神託を下す事があるという事。

それらを含めマチアスが本を読み考えた事、本に書いてある範囲で感じた事をカナメは聞かされ、また、王族しか読めない本だから婚約者である今は読め(・・・・・・・・・・)ない(・・)と言ったマチアスに、無理を言って読ませてもらった本でカナメも多少は理解した。

まだ信じているとかそういう次元ではないけれど、それでもマチアスの言っている事や本に書いてある事は分かったつもりだ。

もしマチアスの考えが当たっているとすれば、マチアスにはなんらかの試練が課せられているのだろうという、それも。



カナメはベッドに腰掛け、髪を揺らしたりカーテンを揺らしたりする精霊を咎める事もなく、ただ両手で顔を追い項垂れていた。

今日も天気が良くて、今日はどんな事をしようかと思っていたのに全て台無し(・・・)で、またこの先の未来を考える羽目になったのだ。

(離宮ではこんなことにならないって……嘘つき)

心で罵った後、思い出す。

(勉強はしないって言っただけだ……勉強じゃないから、嘘じゃないのかも)

カナメはベッドにうつ伏せになった。

両足をバタバタと動かし、それもやがてパタリと止まる。

そっと顔を横にすれば、窓からの光がベッドの端を照らしていた。

「ほんと?ほんとうなのかな……そうなんだろうな……信じられないけど、そうなのかな……だってアル様が言うんだから、そうなんだろうな」

マチアスは、自分の中でそうだと信じなければ言わない、こんな大切な事であれば尚の事言わない。それをカナメはよく知っている。

それもマチアスのいいところだとカナメは思っているから。

きっとどこかでまさか(・・・)と思っていた事を、この離宮で確信に近いと感じて、そして自分に打ち明けてくれたのだろうと。

内緒にしたままでもいいはずなのに話したのはカナメを思うからこそで、試練にはカナメも関係しているとマチアスが踏んだからだろうとも、思う。

どれだけ頭の動きが鈍くなっていても、自分に起きた突然の変化を考えればあれ(・・)が試練が始まる合図だと思い至る。

マチアスを王太子にする。これが始まりだと。

一体どんな試練が用意されていて、どんな神託だったのか、カナメには見当もつかないしマチアスも同じようだ。

でもそう思えばカナメもすとんと納得するものがある。

何がなんでも自分が王太子妃となり、王妃にならなければいけないのだと王に命じられた事だ。

ロドルフはそう言わなかったが、言ったも同じだろう。


「なんで、おれを巻き込む(・・・・・・・)ような神託なんだろう」


マチアスが王太子になる、なんて試練でなければ自分はこんなに苦しい思いをしなかっただろうに。どうして大精霊は自分を巻き込むような事を言ったのだろうか、とカナメは神に文句の一つも言いたい。

言ったところで神であればなんとも思わないだろう。いや、もしかしたら神に逆らうとは何事だと天罰があるかもしれない。

どちらにしたって「なんで」とカナメは思って当然だ。


もし試練の内容が『マチアスが国王、カナメが王妃となる』と言うようなものであれば、結局マチアスが試練を乗り越えても、カナメには試練が続く(・・・・・・・・・・)のだ。

側妃という試練(・・・・・・・)がカナメに待ち受けている。

国王になったマチアスには彼の子供が必要で、自分はそれを受け入れなければいけない。

(王族にのみ試練が与えられるって事は、もし『マチアスが国王、カナメが王妃となる』って試練ならアル様は国王になってその時おれが王妃になってたらおわりだよ。でもさ、おれはどうなのさ)

マチアスの試練が終わっても自分には試練が待っている。今だってこんな気持ちになるのに、なんとか立ち向かうのだと奮い立たせても悩んで悲しんで泣く事もあるのに、実際そうなったらその時の自分はどうなるんだろう。

カナメはそう思うと試練なんて乗り越えなくっていいのに、と思ってしまった。

けれどそのカナメを貴族のカナメが引きとどめる。それはいけない、と。マチアスの婚約者である限り、覚悟をしていたのではないかと現実を突きつけてくる。


「おれ、頑張り続けられるかな……」


マチアスと婚約者でいるのだと、王命だろうがなんだろうがではなく、自分の意思で続ける(・・・・・・・・・)と決めてもカナメは今も不安で怖い。

本当に自分は最後まで、マチアスの側妃が子を産み育てその子が次の王になっていく姿を見守っていくというその最後まで、自分(・・)でいられるのかと恐怖と不安が湧き上がる。

マチアスを思う気持ちも、婚約者でい続けると思う気持ちも、どの気持ちも嘘偽りなく本当だ。

けれどもどうしても不安で立ちすくむ自分がいる。

その自分を蹴り飛ばして「ほら、先に進むよ!」と追い立てる自分が生まれてくれない。

「おれ、自信がないよ……アル様、どうしたらいいの?」

こんなにも弱い自分が王太子妃という重責を担っていいのだろうか。カナメはまた一つ現実を見た。

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