表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/39

2 ご縁<<<<<領地の平和と肉

「マリアベル様! 息子が森に入ってしまったのです! 魔物を見たと話す人もいて……。どうか、息子を」


 見回りを兼ねて領地を散歩するマリアベルに、一人の女性が駆け寄ってくる。

 今日は午後から予定が入っていたが、午前の今は空いていた。

 時間があれば、マリアベルは修業か見回りのどちらかを行うことにしているのだ。

 マリアベルを探していたのだろうか。彼女はぜえぜえと息を切らしながらも、息子を助けて欲しいと必死に訴える。

 領民の願いに対する、マリアベルの言葉は、もちろん。


「わかった! 任せて! 息子さんは私が連れ戻すから!」


 であった。

 12歳ほどとなったマリアベルは、積極的に魔物を狩りに出るようになっていた。

 過去に魔物が大量に出て以来、マニフィカ領は他の地と比べて魔物の数が多いままなのだ。

 急いで森に向かったマリアベルは、一般の人でも棒や農具で倒せる雑魚をいなしつつ、男の子を探す。

 このくらいの雑魚ならどこにでもいるものだが、マニフィカ領は、今も強力な魔物の数が多かった。


「どうして龍脈なんてできちゃったんだろうなあ……」


 マリアベルの小さな唇から、はあ、とため息が漏れる。

 そんなこと言ったって、できてしまったものはどうしようもないのだが……。

 龍脈なんてものができなければ、マニフィカ領が困窮することもなかったのだ。

 領主の娘として、苦々しく思うのも当然だ。


 マリアベルが5歳のころ――魔物の大量発生の時期だ――マニフィカ領内の森で、目視できるほどに魔力が奔出する場所が見つかった。

 魔力とは、一部の人間や魔物の中に存在するものとされているが、まれに、自然の中で激しくあふれ出すことがあるのだ。

 そういう場所のことを、龍脈と呼ぶ。

 運の悪いことに、マニフィカ領には龍脈が出現。

 最初ほどの勢いはないものの、時が経ってからも魔力の濃度は濃いままだ。

 魔物は、魔力に引かれて集まり、活発になり、増えやすくなる。

 マリアベルが成長してからも、マニフィカ領は通常以上の警戒が必要な状態であった。


「! 今の……」


 森を歩くマリアベルの耳に、かすかだが、子供の悲鳴のようなものが届く。

 弾かれるようにして駆け出し、声の発生源へ向かっていけば、そこには、イノシシのような見た目をした魔物に追い詰められる少年の姿が。


「マリアベル様!」

「すぐ助けるから! じっとしててね!」


 今すぐ攻撃したいところだが、少年との距離が近すぎる。

 このまま派手な魔法を使えば、彼も巻き込んでしまうだろう。

 マリアベルは、まず魔物の注意を自分に向けることにした。


 短く歌いながら杖を動かし、空中に素早く陣を描く。

 水の球が数個出現し、マリアベルが杖で示した方向へ発射される。

 人間に当たっても害がないほどの低威力に調整された、水魔法である。

 それらをぶつけられた魔物は、ターゲットをマリアベルに切り替えた。


 魔物が自分に向かってくるようになれば、あとは簡単だ。

 先ほどと同じ要領で氷の矢を作り出し、魔物に向かって放つ。

 正式な名称はたしか、アイスニードルだったはずだ。

 矢は魔物に深々と突き刺さり、絶命させた。


 男の子を親元まで送ったあと、マリアベルは森に戻る。

 魔物は危険で迷惑な存在ではあるのだが……中には、食用になるものもいる。

 先ほどのイノシシのような魔物は、肉が美味い。

 貧乏貴族のマリアベルからすれば、貴重な食糧である。

 ナイフを使い、その場で獲物の処理をする。

 一頭まるまるはマリアベルの体格では運べないから、肉を切り出した。

 氷魔法を付与して冷たい状態を保てば、お持ち帰り用お肉の完成である。


「晩御飯ゲットー!」


 領民を救い、食料も手に入れて。マリアベルはるんるんであった。

 



「今日はお肉! 今日はお肉! お父様! お肉をとってきました!」


 ご機嫌なマリアベル。歌うように元気にマニフィカ邸の玄関をくぐった。

 マニフィカ邸には、長年仕えた執事以外の使用人はいないから、出迎えなどない。

 なので、まあ誰もいないだろうなーと思っていたのだが。


「ひっ……!?」


 同年代の男の子と、その従者と思われる者が、そこにいた。

 おそらく、これから会う予定だった令息だろう。

 マリアベルの姿を見て、小さく悲鳴をあげて顔をひきつらせている。

 まだ約束の時間にはなっていないはずだが、どうやら少し早めに到着してしまったようだ。


「あ、あー……。ロベルト様、お初にお目にかかります。わたくし、マリアベル・マニフィカと申します」


 血に汚れたまま披露されるカーテシー。

 片手は肉の入った袋や毛皮でふさがっているため、それっぽい動きをしただけである。


「う、うわああああああ!」


 血濡れのご令嬢は、お坊ちゃんには、ちょっとだけ刺激が強かった。

 ロベルトと呼ばれた赤髪の令息は、悲鳴をあげて逃げ出した。


「これは破談ね」


 ロベルトが逃げ去る様子を眺めながら、マリアベルはぽつりとこう口にした。

 魔法の研究と魔物退治に明け暮れるマリアベル。これくらいはもう慣れっこである。

 まあこんな感じで、大体の令息はマリアベルから逃げ出していく。

 だが、一人だけ。マリアベルが血に濡れていようが、獲物を手にしていようが、普通に接してくれる人がいた。


お時間ありましたら、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆で応援いただけますと嬉しいです…!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ