表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/39

7 初めてのジェラシー

 大好き、という気持ちがだだ漏れのアーロンと、そんな彼との婚約を受け入れたものの、どうしたら彼に応えられるのかも、彼の言う「好き」の意味もよくわからないマリアベル。

 二人の関係に「婚約者」という名前がついたことを除けば、二人の関係はあまり進展していないようにも思えた。

 しかし、転機は突然訪れる。


 1・2年生合同での魔法実習の際、マリアベルは、アーロンと親し気に話す女子に対して、嫉妬した。

 感情の種類はすぐに理解できなかったものの、「むむ」と思ったのだ。

 

 これまでのマリアベルは領地にこもりっぱなしで、アーロンに会うときは二人のことが多く。

 王立学院入学後も、自分に笑顔を向ける彼ばかり見ていた。

 そんなことだから、彼が自分抜きで他の女性と話す場面は、あまり見たことがなかったのである。

 マリアベル・マニフィカ。今年で16歳。初のジェラシーであった。

 


 合同授業は、2年生が1年生に魔法の使い方について指導をする形で行われる。

 1年生は、同じ苦労をした先輩からの指導を受けることができ、2年生は、他者に教えることで自身の理解を深めることができる。

 毎年好評で、こういった授業は毎年複数回行われている。

 マリアベルは1年生だから、本来なら教わる側。しかし、魔法特待生のマリアベルとコレットは、指導をしたり、実技を披露したりする側にまわっていた。


「魔法陣を簡略化する際は、そのぶん自分の中のイメージをしっかり固めて……」

「正式な手順での発動を何度も繰り返してから、自分の感覚に従って陣や詠唱にアレンジを……」

 

 マリアベルの説明に真剣に耳を傾けるのは、1年生の中でも魔法関連の成績がよい者たちだ。

 それぞれの成績や特性を考慮して、班が決められているのだ。

 アーロンは2年生で、剣技が目立つが魔法の腕も優秀なため、もちろん指導側。

 同じく指導にまわるマリアベルとは、別の班だった。

 婚約者と班が分かれたことなど気にしていなかったし、彼を目で追ったりもしていなかった。

 授業も中盤に差し掛かったころ、女生徒の歓声に誘われて顔を上げ、彼女らの視線の先を見てみれば。そこには、実技を披露するアーロンの姿が。

 剣に炎をまとわせてふるう、彼らしい魔法の使い方だ。


――かっこいい。


 それが、マリアベルの素直な感想だった。他の女生徒も同じ気持ちなようで、きゃあきゃあと黄色い悲鳴をあげている。

 剣技と魔法を融合させた技を披露し終えた彼は、班員の元へと戻っていった。

 その時点で、自身の班に意識を戻そうとしたマリアベルだったが――そのタイミングが少し遅れたために、見てしまった。

 アーロンが、他の女生徒と親し気に話す場面を。


 彼はいつだってにこやかだが、今の彼が浮かべているものは、普段の笑顔とはちょっと違う。

 上手くできただろ、とでも言いたげに、ふふんと悪い顔をしていた。

 相手の女性も、ただの同級生や後輩、といった雰囲気ではなく。

 得意げにするアーロンをおちょくるように、くすくすと笑っていた。


 マリアベルは、二人が醸し出す特別感のある空気に驚き、目を離せなくなってしまった。

 続けて、近くにいた女子たちの「あの二人って、婚約者候補だったこともあるんでしょ?」なんて言葉まで聞こえてきてしまい、マリアベルはぽろりと杖を落とした。


 特別親し気な、元・婚約者候補たち。

 どくん、とマリアベルの心臓が変な音をたてる。

 二人が仲良さげに話すのを、嫌だ、と感じた。

 その人じゃなくて私のほうを見て、とも思う。


「……?」


 それは、これまでの彼女が知らなかった感情だった。

 自分が置かれた状況が自分で理解できず、マリアベルは戸惑う。

 アーロンに対して、他の女性と話さないで、なんてふうに思ったことはこれまでなかったのだ。


「マリアベルさん?」

「どうした、マニフィカ嬢」


 硬直してしまったマリアベルに、班員の一年生たちが心配げに声をかける。

 ハッとしたマリアベルは、きっちり授業に参加する方向に気持ちを切り替えて、なんとかその場を乗り切ったのであった。

 

 しかし、その後の座学では集中を欠いて。

 昼休みも、せっかくのみんなでのお弁当タイムなのに、どこかぼうっとしていた。


「ベル、どうかした? もしかして、体調が優れない?」


 そうアーロンに声をかけられても、


「いえ、そういうわけでは……」


 ぐらいの返ししかできない。

 アーロンを見ると、なんだかもやもやする。

 合同授業のとき、他の女性と話していた場面を思い出してしまう。

 元婚約者候補、という言葉も何度もちらついて。

 最終的に、マリアベルは自分を心配する彼から視線も顔もそらし、そっぽを向いてしまった。


――ごめんなさい、アーロン様。


 マリアベルに無視されてショックを受けた様子のアーロンを横目に見つつ、心の中でだけ彼に謝罪した。

 こんな気持ちになるのは初めてで、マリアベル自身、制御ができなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ