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15 クラリス・グラセスは惚れ込んだ

 その日は、気持ちよく晴れていた。

 日の光は降り注いでいるが、強すぎることはなく、心地よい程度にほどよく風も吹いており。

 外で食事をとるには、いい日だった。

 普段通りであれば、想い人とその友人とのランチタイムに笑顔を見せるアーロンであったが、この日ばかりは違った。


「……ベル。この状況は、一体……?」


 目の前に広がる光景に呆然とし、笑顔が失われている。

 その理由は――。


「ベルお姉さま、コレット。こちらも食べてみませんか?」

「じゃあ、少しもらおうかしら」

「わあ……! 美味しい……!」

「本当! 流石グラセス伯爵家ね」

「そんな……。ベルお姉さまとコレットのお弁当だって、とっても素敵ですわ」


 私も自分で作ろうとしたけれど、難しくてできなかったの。

 そう付け加えると、突如加わったメンバー……クラリスは、照れくさそうに笑った。

 アーロンの混乱の理由。それは、マリアベル、コレット、アーロンのいつものお弁当メンバーに、何故かクラリスが加わっているからである。

 しかも、今日が初めてだというのに、すっかり溶け込んでいる。

 女子2、男子1だった比率が、女子3、男子1となり、アーロン・アークライトは彼女らのきゃっきゃとした雰囲気に入り込めず、置いてきぼりにされていた。



 クラリス・グラセス伯爵令嬢は、マリアベル・マニフィカを嫌っていた。

 そして、名門公爵家の嫡男である自分には、好意を抱いている様子だった。

 ……はず、なのだが。今は、アーロンには目もくれず、マリアベルたちと笑い合っている。


 説明を、説明をして……! なにがあったのか教えて……!


 和気あいあいとする女子たちを前に、アーロンはくっとなにかに耐えるような顔をした。




 今日もアーロンは、1年生の教室までマリアベルを迎えに行った。

 そして、マリアベル、コレット、アーロンの三人が、敷物の上でお弁当を広げ始め、いつも通りのランチタイム、となったころ。

 どうしてか、そこにクラリスが現れて。


「あ、あの。ご一緒してもよろしいでしょうか……?」


 ぽっと頬を染め、もじもじとしながらマリアベルに聞いた。

 彼女は小さなバッグを持っており、中にはお弁当が入っているようだった。

 マリアベルとコレットは、「もちろん」とクラリスの参加を快諾。

 女子三人の空間を作り始め、今に至る。

 アーロンが知っているクラリスは、マリアベルとコレットをいじめの標的にしていた。

 それがどうしてこうなったのか、学年もクラスも違うアーロンにはさっぱりである。

 マリアベルのことを「ベルお姉さま」と呼んでいるのも、気になって仕方がない。

 家の事情で領地にこもりっきりだったマリアベルに、新しい友人ができたのなら、それは喜ばしいことだ。

 だが、いくらなんでも突然すぎる。


「あ、あー……。ベル。いつの間にクラリス嬢と親しくなったんだい?」


 盛り上がる彼女らにも届くよう、少し大きめの声でアーロンが問う。


「ベルお姉さまとコレットは、私の恩人なのですわ!」


 彼の疑問に食い気味に答えたのは、マリアベルではなくクラリスだった。



 クラリスが言うには、マリアベルとコレットが、彼女を危機から救ったらしい。

 魔法の実習授業中、他の生徒の魔法が暴走。

 大きな土人形が暴れ始め、多くの生徒はすぐに逃げたものの、ぼーっとしていたクラリスは逃げ遅れて。

 このままでは、踏みつぶされる。

 そう思ったとき、クラリスの周囲には防御結界が張られ、それとほぼ同時に、複数の大きな水の弾が土人形にぶつけられた。

 水を浴びて脆くなったところに、追加で水の刃が放たれて、土人形はぼろりと崩れ去った。

 そうしてクラリスを守ったのが、魔法特待生のマリアベルとコレットだったのである。


 魔法が当たったり、土人形の残骸を浴びたりして怪我をしないよう、コレットに防御の指示を出したのもマリアベルだったそうで。

 クラリスは、自分を救ってくれたその人に、惚れ込んだ。

 嫌がらせをしていた相手だというのに、迷うことなく助けてくれたものだから、なおさらだろう。


「それから、マニフィカ領についても調べてみて……。ベルお姉さまは、魔物の被害に苦しむ領地と領民のためにずっと頑張っていたんだってわかって……。なんてかっこいいお方なのだろうと、そう思ったのです……!」

「……なるほどね。ベルに助けられて……」

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