13 クラリス・グラセスは気に入らない 2
始業前。授業のあいま。昼休み。
そういった時間――アーロンがそばにいないタイミングだ――を狙って、クラリスはマリアベルへの嫌がらせを続けた。
あるとき、マリアベルとコレットから、お菓子でも入っているのであろう小袋を奪い取った場面をアーロンに見られてしまったときは、肝が冷えた。
以降、彼がマリアベルたちと一緒にお弁当を食べるようになったのは、おそらく、自分のようにマリアベルに突っかかる人間を追い払うためだろう。
それまで、アーロンはマリアベルとは別に昼食をとっていたはずなのに。
クラリスのやったことが原因で、アーロンはさらにマリアベルにべったりになってしまったのだ。
魔法の腕ではとても敵わないし、言葉で攻撃しても、さらにアーロンとマリアベルの距離を縮めるだけ。
マリアベルを傷つけようとする場面を見られた今、正攻法でアーロンの気持ちを得られるとも思えない。
アーロンから見れば、クラリスはきっと、大切な人を傷つける悪い女だ。
その証拠に――
「あ……」
移動教室の途中、クラリスは、前方からアーロンが歩いてきていることに気が付いた。
「あ、アーロン様、あの……」
すれ違いざまに声をかけてはみたが、彼がクラリスに言葉を返すことはなく。
一瞬だけクラリスに視線をやると、すたすたとその場から立ち去ってしまった。
学院入学前だったら、顔を合わせた際、「やあ、グラセス伯爵は元気かい?」ぐらいのことは言ってもらえた。
それが今では、その程度の会話すらしてもらえない。作り物の笑顔すら、向けてはもらえない。
アーロンは、彼の大切な人を傷つけようとしたクラリスを、嫌っている。
幼いころから憧れ続けてきた、理想の王子様のような彼への恋は、もう実を結ぶことはない。
考えてみれば、当たり前だ。
クラリスだって、誰かがアーロンを傷つける場面を見たりしたら、その人のことを嫌いになる。
アーロン様になんてことを、とんでもない人間だ、話したくもない。そんなふうに思うだろう。
彼が大事にする人……マリアベルに手を出せば、アーロンに嫌われるのは当然のことだったのだ。
あの優しく穏やかなアーロンに無視されるようになって、ようやくその事実に気が付いた。
けれど、もう遅い。
時は巻き戻らないし、自分の過ちも、なかったことになんてならない。
クラリスは、自分自身の手で、アーロンに選ばれる可能性を完全に叩き潰してしまったのだ。
クラリスの行いについて、マリアベルやアーロン、コレットが吹聴するようなことはなかった。
だが、幼いころから好きだった人に嫌われ、恋が成就する可能性も失ったクラリスは、すっかり意気消沈してしまって。
入学直後のように、マリアベルに絡むような元気は、なくなっていた。




