表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/39

8 早く婚約したい男と、囲まれる妖精姫

 マリアベルが女子の標的となっていることには、いくつかの理由がある。


 1つは、貴族の娘なのに貧乏で、学費免除の特待生であること。

 この時点で、わりと特異な存在である。

 そのくせ急にきれいになって現れて、男子にちやほやされ始めた。

 マリアベルはあまり意識していないが、男たちは「妖精姫」にメロメロで、婚約者もいない彼女をなんとかランチデートにでも誘えないかと苦心している。

 マリアベルが異性からの「学食奢るよ」を受けたのは、アーロンただ一人である。


 それから、ちょっとした演習でもわかるほどの、魔法の才。

 彼女は短い歌を詠唱とし、簡素な魔法陣を描いて魔法を発動させるが、これは並大抵のことではない。

 本来は、高等な術になればなるほど詠唱は長くなり、複雑な魔法陣を必要とする。

 他の学生であれば、長い長い詠唱を口にしながら、間違えないよう気を張りつつ陣を描かなければいけない術を、マリアベルは歌い踊るように発動させるのである。

 丸の中に、三角を二つ。それから、サラマンダーのつもりのにょろにょろを描きながら、歌――それも5音ほどである――を歌い、大きな火の渦を作り出したときには、教師も唖然としたものである。


 妖精姫とまで呼ばれる美貌を持つ彼女の歌声と軽やかな動作、その圧倒的な才に心奪われる者もいるが、やっかむ者だって当然存在する。


 女子に嫌われる理由として、最も大きいかもしれないものが――みなの憧れの存在であるアーロンに、寵愛されていることだ。

 アーロンがマリアベルにご執心なことは、この学園では有名だ。

 彼がマニフィカ領に通っていることを知る人は多かったが、入学後、その愛しっぷりはさらに有名になった。

 なんたって、婚約すらしてないのに、わざわざ送迎するほどだ。

 寮もあるのにそんなことをするなんて、幼馴染だから、領地が近いから、だけでは説明できない。

 アークライト領とマニフィカ領は近いが、馬車で移動すればそれなりに時間がかかる。

 アーロンは、今までより早く起き、遅く帰り……。自分の時間を削ってまで、マリアベルとともに登下校しているのである。


 みんなの憧れの令息が、「鮮血」なんて二つ名を有していた貧乏暴力娘にご執心。

 他のご令嬢からすれば、「なんでよ! 私のほうがあの人にふさわしいじゃない!」といった具合である。

 




 マリアベルとコレット、女子二人のランチに、それっぽい理由をつけて混ざることに成功したアーロン。

 二人に「すごいお弁当ですね」なんて言われて苦笑しながらも、愛しのベルとの婚約話を、早く進めなければと考えていた。

 アーロンとて、マリアベルとともに登下校する自分を見る女子の視線や、今日のクラリスの態度で、彼女がいじめられる原因の1つが自分にあると気が付いていた。

 もちろん、自分が女子に人気のある物件であることも理解している。

 婚約もしていないのに、アーロンがマリアベルを特別扱いするから、彼女は他の女性に敵視されているのだ。


 婚約者でもないくせに、と思われるのなら、婚約してしまえば問題ない。

 結婚の約束さえしてしまえば、アーロンは今まで以上にマリアベルのサポートもできるだろう。

 学食を使う費用や弁当を受け取ってもらえるかもしれないし、ドレスや装飾品も「婚約者へのプレゼントだ」と言って堂々と渡すことができるようになる。

 今は制服通学をするマリアベルだが、上手くいけばアーロンが贈った私服で登校してくれる可能性だってある。

 そんなの、考えるだけでもう最高である。



 婚約の話は、現在調整中。

 突然のプロポーズをかましてしまいました、と正直に白状したうえで、正式に話を進めたいとアークライト家に……当主である自身の親に掛け合っているところだ。

 アークライト公爵家は強さを重んじる家系だから、おそらく、マリアベルと婚約したい旨は了承されるだろう。

 いずれ、マニフィカ家に正式に婚約を申し込むことになるはずだ。

 だが、今すぐに、とはいかない。

 婚約者として彼女を守れないこと、堂々と隣に立てないことが、歯がゆかった。



 まあとりあえず、このままお弁当仲間にはなれそうだから、昼休みはマリアベルの安全が確保されるだろう。

 

――明日は、昼休みに入ったら速攻で教室までベルを迎えに行こう。


 そんなことを思いながらも、アーロンはマリアベルとコレットとのランチの時間を楽しんだ。




 翌日、アーロンは「なにかの競技に参加中ですか?」と聞きたくなるような早歩きで、一年生の教室へと向かった。

 もちろん、昼休み突入と同時にマリアベルを迎えにいくためである。

 身体能力が高く、足も長い彼は、走ってはいなくともすぐに目的地にたどり着く。


「ベル! 今日も一緒に、おひる、を……」


 笑顔で一歩教室に入った彼が、そこで見た光景は。


「マリアベル様、一緒に学食に行きませんか?」

「魔法を教えて欲しいんだが、昼休みを少しもらえはしないだろうか。マリアベル嬢」

「実は俺も、魔研に入ろうかと思ってて……」


 そんなことを話す男たちに囲まれる、マリアベルの姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ