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6 通りすがりみたいに出てくる男

「ごきげんよう。マリアベルさんに、クラリスさん。学食で見かけないと思っていたら、こんなところでお昼になさっていたのね。お弁当持参なんて、大変ねえ」


 二人の前に仁王立ちしたクラリスは、口に手を添えて嫌みっぽく笑う。

 アーロンにクラリスの声までは聞こえないが、仲のいい友人などではないことは、その立ち居振る舞いから理解できた。

 さらにクラリスは、お弁当に目を向けると、


「まあ、貧相なこと。まるで庶民の食事じゃない。ああ、お二人は学費も払えない特待生だったかしら。それなら仕方がないかもしれないわねえ」


 と、二人を嘲笑った。

 取り巻きたちも、クラリスの後ろでくすくすと笑っている。

 こういったことも覚悟していたうえに、既に慣れっこのマリアベルは、これぐらいではさほど動じない。

 

「あら、クラリスさん。ごきげんよう」


 と、にこやかに返した。

 マリアベルは、入学直後にクラリスの攻撃魔法をかるーく打ち消している。

 実戦経験の豊富なマリアベルからすれば、不意打ちであろうとも対応は簡単だ。

 クラリスは、そこでマリアベルと自分の実力の差を理解した。

 そのため、マリアベルに絡みはするものの、適当に相手をしておけば悔しそうに立ち去るのである。

 マリアベルは、クラリスに嫌がらせされていることは理解しているものの、彼女はさほどしつこくないと思っていた。

 だから、こうして受け流す。そのうち、飽きていなくなるだろうと。


 しかし、コレットは違った。

 高圧的な態度の伯爵令嬢を前にして、俯いて押し黙る。

 特待生で、平民のコレット・コルケットが、怯えている。

 その事実を感じ取ったクラリスは、気分をよくした。

 普段、マリアベルに相手にされない彼女のうっ憤は、コレットに向けられる。


「あら、これはなにかしら?」

「あっ……! それは……!」


 クラリスが、マリアベルとコレットのあいだに置かれていた小袋を手に取る。

 紙袋に、可愛らしいシールで封をされたそれには、コレットの手作りクッキーが入っている。

 クラリスも、袋の作りなどから、中身はなんとなく察している。

 コレットがハッとして顔をあげ、返して欲しそうに手を動かしたものだから、クラリスの気分はさらに上昇する。

 手が滑ったふりをして落としてやろうとか、そのあと踏みつけてやろうとか、そんなことを考えていた。


――さて、どうしてやろうか。


 にやりと笑うクラリスだったが、ある人物が現れたことにより、動きをとめることになる。


「やあ、ベル。コレット。……それから、クラリス嬢」

「アーロン様」

「あ、アーロン様!?」


 にこやかに、アーロンが登場したのだ。たまたま近くを通りました、みたいな顔をして。

 マリアベルは、あらこんにちは、といった具合で。

 クラリスは、アーロンの想い人――そのデレデレ具合から周知の事実なのである――に嫌がらせをしていた場面を見られたことで、明らかに動揺して。

 みなが、突然現れたアーロンに視線を向けた。

 アーロンは、すたすたと歩を進め、マリアベルたちとクラリスのあいだに割り込む。

 そのついでに、硬直するクラリスからひょいと紙袋も奪い返し、マリアベルの膝におく。

 アーロンは、昼休みの始め頃からマリアベルとコレットを見つめていた。

 だから、このクッキーが、コレットからマリアベルに贈られたものだと知っているのだ。


「割り込んでごめんね。ベルたちに、なにか用だったかな? クラリス嬢」


 彼は微笑んでいるが、目が笑っていない。

 クラリスの前に立ちふさがるアーロンは、「これ以上は許さない」と言わんばかりの圧を放っていた。


「ま、魔法特待の方たちと、少しお話したかったのですわ。……ですが、お昼中のようでしたし、日を改めます」


 そう言うと、クラリスとその取り巻きたちはささっと立ち去った。

 去り際、クラリスはきっとマリアベルを睨みつける。


 クラリスは、入学直後から――いや、その前から、マリアベルのことが嫌いだった。

 マリアベル・マニフィカは、使用人すら雇えないような貧乏伯爵家の娘のくせに、アーロンに気に入られている。


 家の事情で、ほとんど領地から出てこなかったマリアベルであるが、アーロンは違う。

 公爵家の嫡男として、子供同士の交流の場にも出ていたし、各家との繋がりも持っていた。

 容姿端麗、文武両道。武の名門の出で、武闘派だというのに物腰柔らかく、座学の成績も優秀なアーロンは、学院入学前から女子たちの憧れの的だったのだ。

 クラリスも例外でなく、幼いころからアーロンに憧れていた。

 アーロンは強く逞しく、それでいて美形で優しい、女の子たちの理想の王子様のような存在なのである。

 自身が強すぎるために、「アーロン様に守られたい!」みたいな気持ちのないマリアベルの感覚が、ちょっとぶっ壊れているだけだ。


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