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其の89 登城

 朝が来て鐘が鳴り、いつも通りに目が覚めました。


 今日は一段と冷え込みますので、いつもの制服の下に何を着込もうか考えていましたら、扉を叩く音と共に返事をする前に木箱を抱えたマリアンナ達が入って来ました。


「おはよー、ミリー。さ、お着替えよ!」







 昨晩の内にカーティス家と連絡を取り合い、今朝早くに運ばれて来たそうです。お世話をお掛け致しました。


「……これはまた随分と豪華な衣装ですね……」

  

 アリシアが、見たことある! といっていましたので彼女のお古なのでしょう。わたしの体型に丁度良い大きさですので、彼女のいつ頃のものかは聞かないでおきます。


「ほとんど袖を通していないみたいよ?」


 わたしが登城すると知ったホルデが、ならばこれをと寄越したそうです。


 白を基調とし艶やかな刺繡に彩られたその豪華な作りは、まるで花嫁衣装か高貴な神職か、わたしでは衣装に見劣りしそうに思いましたが彼女達の反応は異なりました。


「ステキ! まるで女王さま!」

「決まってるわーっ! これなら押し出しも効くわよ!」

「とても似合ってますね」


 ……アンナさま。笑い声が漏れていますよ……。


 更には普段はしない化粧までも施され髪も丁寧に纏められて、首や胸には宝飾品、腰には短剣まで下げさせられて完全装備です。頭に宝冠がないのが不思議な位ですね。


 ……しかし、ここまでやる必要があるのですかね?……


 その格好でマリアンナ達に連れられて下まで降り食堂をを通り掛かったのですが、これではみんなに見られて嘲笑の的なってしまうと身構えるも、予想に反し静かでした。


「……お待ちしておりました……」

「……今日この日をどれだけ待ち望んだか……」

「……尊い……」


 わたしが通り掛かるとみんな膝を付き、わたしに向かって拝み出します。


 ───勘弁して下さい!


 涙する者の姿までいました。居た堪れなくなり、その場を直ぐに逃げ出したくなりましたが周囲は何か一言でも喋らないと帰さない雰囲気です。仕方なく周りを見渡しながら口を開きました。







 気が付けばいつの間にか馬車の中。


 隣の席にレイが居るのはいつものことですが、目の前には予想だにしない方がすわつていました。


「……お養父さま……いらしたのですね……」

「宣言通り、わたしも共に行くぞ!」


 目の前には正装に身を固めたレニーの姿が。流石に槍までは持っていませんが剣を携えています。


「わたしは何も荒事に行くわけではないのですが……」


 実際、例の玉座の確認の為に登城するのです。


 レニーは、わかっとる! と笑顔で返してきますが、わたしの乗る馬車の他にも、後ろに何台も隊列を作って付いてくる馬車が気になってしょうがありません。


 ……あそこには一体誰が、それとも何が乗っているのでしょうかね……。


 不安を胸に抱えながら王城へと向かいました。






 城には国旗が掲揚されていました。王が城内にいる印です。しかしわたしの用は彼に会うことではありません。


 馬車は城門を潜ると正面玄関前に着きました。


 先に降りたレニーの手を取りながら下車すると、彼に今日来た目的を改めて伝えます。


「今日来た目的の場所は、初代女王さまが座っていたとされる石造りの玉座なのですが、場所はご存知でいらっしゃいますか?」


 彼は頷きながらもちろんだといい、その証を示しに行かれるのですね。と続けましたが、それには笑顔で返すだけで明言は控えました。


 彼に手を引かれたまま大きく豪華な扉の前に立つと、音を当てて内側から勝手に開きました。中には大広間が見え、左右には従業員達が整列し、恭しく頭を下げています。

 足を踏み出すのに躊躇してしまう光景で目を見張って驚いていましたが、そんなわたし達の前にレニーよりも年嵩ですが、背筋の伸びた身なりの良い紳士が現れて深々とお辞儀をして来ました。


「お帰りなさいませ。お待ち申しておりました。私めに何なりとお申し付け下さいませ」


 思わず挨拶を返そうかと思いましたら、レニーがそれを遮る様にスッと前に出てその執事風の男の前に立ちます。


「かの場所に参るそうだ。用意を頼む」

「畏まりました」


 その者を先頭にレニーが続き、レイに手を添えたわたしは城の奥へと進むのですが、背後からは、後ろの馬車から人が降りて来て順にわたしの後へと続く複数の者の気配がしてきます。とても気にはなりますが、それを実際に確認してしまうと気が滅入りそうな予感がしますので、敢えてそれを無視して歩みを進めました。








 その場所は城の最奥地にありました。


 道すがら執事らしき者から「重要な場所なので一番奥にあるのです」と、(他所には移せんから、城を建て増ししたんじゃ)アンナからの説明がありました。


 何にしても重要な場所ですから厳重な管理の元に置かれているかと思っていましたが、その場所の前には門番が二人だけ。


「入れる者は限られますし、そもそも手を出すことは出来ませんから」


 とのことでした。


 ……部屋自体にも状態保存の魔術が掛けられているのみたいですね。


 わたし達が着くと門番は恭しく道を開け、執事らしき者が鍵を取り出し扉を開きます。


「それではごゆるりと。私どもはこちらで待機しておりますので、何か御用が御座いましたら何なりと」


 レイの手を離し一人中に乗り込むと、扉が閉められました。


 ……緊張しますね……。







 中に入ると自動的に明かりが灯り、周りを見渡すと全体が石造りの部屋になっていました。


 大きな石をくり抜いて作ったのか、壁際には窪みが作られ棚の様になっており、書類らしき羊皮紙の塊の様な物が積まれています。そして中央には件の玉座が見えました。

 

 何の変哲もない無骨な石で出来た背もたれのある椅子です。


 もっと威厳があるかと思っていたので拍子抜けしましたが、アンナ曰く間違いないそうなので早速確認をするべく向かおうとしたのですが、イザベラがソワソワし出し止められてしまいました。


(ねぇねぇ、ミリーちゃん。アレを確認する前に、アッチを先に確認しない?)


 わたしが椅子の研究に夢中になれば、当然時間が過ぎるのを忘れる程に没頭してしまいますので、その前に壁際に置かれている大量の羊皮紙達の確認をして欲しいそうでした。


 ……仕方がありませんね……。


 一刻も早く確認作業に入りたい所ですが、頭の中で落ち着かなくされてしまっては気が散ってしまい集中出来なくなります。それにわたしが読まずとも床に広げてでも置いておけば勝手に読んでくれますので、そう手間でもありません。なのでそちらを優先することにしました。







(……これは例の塊と同じですね)


 片手で持てる大きさに一纏めごとにされている物や、ひと棚全体であったり違いはありましたが、それらは全て羊皮紙が重なった物で、状態保存の魔術が掛けられていました。

 どれもアンナの魔力が登録されていましたので中を見ることは問題はありません。片っ端から解除すると中身を確認していきます。

 

(……これは人の名前や歳、家族構成に住所でしょうか……)


 どうも住民基本台帳の様です。


(確かに重要な物には違いがありませんが……)


 他には税金の関係や契約書、国境の締結関係の書類など、お固い書類ばかりでした。


 まるで役所の金庫室の様相を呈していましたが、ふと疑問が湧きます。


 ……ここにある全てに状態保存の魔術を掛けてアンナの登録がなされているみたいですが、これでは他の者に読むことが出来なくなるのでは?


 アンナに確認した所、ここにあるのは原本で、写しは外にあり、そもそも台帳は当時の物だし、亡くなった後もここに出入りしていた時は度々更新して機能していたから問題はなかったそうです。


 ……確かに、一番新しそうな日付は例の騒動辺りまでですね。


 そのままあらかた確認をした所、わたしには必要のなさそうな物ばかりでしたのでここらで終わりにしようと思いましたが、イザベラから不満そうな念が届きましたので、彼女が納得するまで確認作業を続行します。

 

 結果として、頑張って確認作業を続けた所、最終的にはイザベラを満足させる物が発掘され彼女は大喜びでした。これはわたしというよりも彼女の執念ですね。しかしこれでわたしも一つ腑に落ちました。


 ……道理でおかしいと思いましたよ。確かに劣化しやすい羊皮紙を保存するのに状態保存の魔術は適しているとはいえ、公的な物にまでわざわざアンナさましか解除出来なくする必要なんてないですからね。

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