其の82 功罪
……え?……
驚きながら、目の前にあったわたしの両腕が写っている二枚の写真を取り上げ凝視しました。
手術前に撮影されたレントゲンの写真と見比べて見ても、今は綺麗に骨が付いていることしか分かりません。他には骨を固定するためのプレートなる物が見えるだけです。
「……特に問題なく見えますが……」
我ながらよく奇麗に付いているように見えます。
「大有りです! よく見て下さい! 本来骨が付くには数ヶ月を要するのですよ? それを踏まえた上でプレートで固定し、良好であれば半年後程で再手術をしてプレートを取り除くのですが、今回貴女は光の魔法を使いましたね? それも桁外れに強い魔法を行使ししましたね? そのお陰で取り外す予定のプレートが骨と肉の部分に完全に固着してしまっています! これは術後数年経過しているのと同じ状況です! これでは外すのが困難なのです!」
そもそも再手術するにも前回の手術から日数があまり経っていないのもあり、再度傷口を開くのには体力的にも不安だし、また肉体的にも傷痕が残る恐れがあるから躊躇してしまうとことでした。
……骨が早くくっ付くけとばかり気にしていましたから、他のことまで気が回っていませんでしたね……。
これはイザベラやアリシアだけでなく、わたしの失態でもありますから誰も責められません。
お医者の説教を漫然と聞いていると、「どうしたんだ?」レニーが現れ、わたしのレントゲン写真を拾い上げるとそれを見て感嘆のため息を漏らしました。
「ほう! これは見事だ。こんな短時間で綺麗に付いているとは! 凄いじゃないか。腕はもう完治したのか!」
流石だ! と褒めてくれましたがお医者は良い顔をしていません。
「旦那さま……これだとプレートの摘出が叶わないのですよ……」
「うん? しかし確か彼女には結構良い魔石を使っていたはずだ。なら構わないじゃないか」
「何を仰るのですか! この娘は騎士ではなくご令嬢ですよ! 傷跡が残るのにも細心の注意を払って切開したというのに、このまま異物を入れっぱなしにしておくだなんて……」
お医者とレニーがいい争いを始めてしまいました。
それに口を挟むのも何ですから、聞きたいことは頭の中にいる方々に訪ねます。
(これはどういったことでしょう?)
(お医者さまはね、ミリーちゃんは女の子だから、なるべく傷が残らない様にするべきだし、余計な物は身体の中に入れておかない方が良いといってるのよ)
(恐らくはレニー本人も、その腕等に同じ様な物を入れておると思うがな、己の身体を補強する為に、敢えて魔石で加工した添え木を入れておく武人は昔しっからよくおったぞ。そこに魔力を込めれば刃物なんぞ通さんからな)
(えっ! ナニそれカッコいー! アタシも入れたかったー!)
(一先ず格好良いかは別としましても、そうなるとお医者さまはわたしのことを可憐な令嬢として扱い、お養父さまは武人や騎士として扱っているということですかね?)
(そうじゃないかしら。ミリーちゃんはどっちが良いの?)
そんなことは考えるまでもありませんが、わたしが二人に口を出すよりも先にホルデかやって来て雷を落としました。
「お二人とも、静かにおし!」
二人のいうことは共に最もだが、現状優先すべきはわたしの回復。更に今後の為にも何かあるかわからないから、予防の為にもこまま入れておくのも構わない。それも踏まえて良質な魔石を使っている。それにわたしも入っているのだとホルデがいうと、お医者はまだ不満があるといった顔でしたが、レニーは誇らしげです。
しかしホルデはそんなレニーを睨み付け言葉を続けました。
「それで、貴方がそこまで仰るのでしたら、光の魔法を併用したことで他にも弊害があるのですね?」
ホルデがお医者ではなく、わたしに向いて睨みました。
「はい奥さま。実は……」
両腕に関してはこのままで構わないなら特に問題は無いが、問題は脚なのだそうです。
「予想以上の促進により、リハビリをしないまま既に定着してしまっていますので……」
脚の故障箇所は膝になりますので可動域です。その部分の剥離骨折になるのですが、本来であれば、完全にくっ付く前に筋肉の部分や軟骨等を動かして固着しないよう気をつけるのだそうです。
なのでわたしの右足は、今後多少は曲げられる様になっても、以前の様には稼働しなくなってしまうとのことでした。
「お嬢さまは今後、もちろん走ることは論外ですが、普通に歩いたり、しゃがんだりすることもままならなくなります」
───やってしまいました!
これには一応専門家だったイザベラも想定外のことだったらしく、気まずそうにしています。
(……ミリーちゃん程の、強くて豊富な魔力で光の魔法を使った事例なんて知らなかったわ……ごめんなさいね……)
これは誰も悪くはありません。責任があるとすればわたしにこんな仕打ちをした輩です。
ホルデがお医者といい合っていますが、敢えてそれに遮り口を挟みます。
「お医者さま、お養母さま。わかりました。不便になることは致し方ありません。それについてはわたしの勇み足でしたが後悔はしていません。早く治ることの方が先決です。甘んじて受け入れましょう。それで、もう脚の方も大丈夫でしたら、この生えている棒は早々に取って頂いても宜しですよね?」
そもそも命が有っただけでも儲けもの。
今後不便になることよりも、固定のために脚から生えている金属棒の方が気になります。サッサと外して下さい。煩わしくてしょうがありません。
わたしがその話しを聞いて泣き崩れるとかでも思っていたのか、お医者は呆気に取られていました。
「……承りました……」
彼はすぐさま部屋を出て手術の準備に取り掛かりに行くのでしたが、その際「……あれは武人かもののふか……何にしてもなんとも豪傑な……」などと、とても令嬢に対して例えるには相応しくない言葉が聞こえて来ました。
……こんなうら若き乙女を捕まえて、失礼しちゃいますね……。
脚から生えている固定用の金属棒の切除、諸々の箇所の抜糸も済み、既に寝台からも降りることが出来、未だ万全な体調とはいえないものの、もう自分で動くことが出来る様になりました。食事も通常通りです。
更に期待に満ちた目付きでわたしを見る者も多くなって来た様な気がします。
……さて、あまり時間もないことですから、そろそろ本格的に動かなくてはなりませんね……。
その準備の為にも久々に学園へと赴きましょう。
馬車を用意してもらってわたしがカーティス家を出ようとする際、見送りに来ていたレニーから杖を渡されました。
「本当なら、まだ松葉杖の方が良いのだろうけどね……」
それでは見栄えも、いざという時の動きも悪くなるので辞退しました。その代わりの物を用意してくれたのです。
「コレは、わたしが若い時分に倒した大型の魔獣の骨から削り出した物なのだがね……」
記念に祖父へ贈った物なのだそうですが、その者も既に鬼籍に入っている為、使用する者がいないそうです。
(え? ナニナニ? 仕込み杖?)
「お養父さま、有難う存じます。アリシアが仕込み杖なのかと、興味津々ですよ」
「ハハハ、残念ながら普通の杖だ。但しとても軽くて頑丈だぞ。祖父が気に入って、腰が曲がっても使い続けていたものだから、どんどんと短くなってしまってな……」
その都度、祖父に合わせて先を切るのに硬くて苦労したものだと笑っています。今や贈った時よりもだいぶ短くなってしまい、最早長さ的に使える者がいないそうです。頭の中からわたしにお似合いだと笑い声が聞こえてきました。
……みなさん、覚えてらっしゃいな……。
しかし物に罪は有りません。有り難く頂戴するとレイを伴い馬車に乗り込み、先ずは懐かしき柳緑寮へと向かいます。
「では、暫し行って参ります」




