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其の81 困った人たち

 そうともなれば気になるのが他の生徒達です。


 新たに確認をするまでもなく、アラクスルは未だルトア王国内にいます。このご時世、留学どころの話ではないでしょう。あの子の立ち位置は今後重要になってきますので今は大人しくしておいて欲しいものです。


「グレイラットは今どうしているのでしょうね?」


 定時報告に来た寮友にふとこぼした所、意外にも即座に返って来ました。


「グレイラット王子ですか? 彼は未だ軟禁中にとのことですよ」


 答えてくれた彼女は今は亡きラハス王国の諜報員でしたから、すぐに答えてくれるとは思わず驚いてしまいました。なんでもこの件については仲間内で有名な話しであるとのことです。


「アリーとミリーの処遇について、王にその場で進言したことにより軟禁されたそうですよ」


 それは申し訳ないことをしたと思いましたが、彼女に同情は不要だといわれてしまいました。


 その訳は「彼の心意気は見上げた立派なものだが、周りの状況を顧みることの出来ない直情径行で蒙昧な振る舞いによる結果でそうなつたのだから」だそうです。王族ならば周りに手を回すとか他にもやりようがあるだろうに情け無いことだ。というのが仲間内での評価だそうです。厳しいですね。


 それに付け加えて、「彼は今後ミリーの手を煩わせる存在にもなり得るかも知れないから、今の内にその父親共々処分しましょうか?」などと庭木の剪定をするかの様に爽やかな顔でいい捨てられたのですが、彼女はわたしに一体何を求めているのでしょうね?

 

 しかし最近では彼女達の言動にも慣れてきました。その為、その返答には諌めるよりも呆れながら返します。


「一見不要に思える枝であっても、後に役立つこともあるのです。不用意に手折ることは控えなさい」

「畏まりました。貴方さまの尊大な御心のままに」


 彼女たちは万事がみんなこんな感じです。


 初めはその度、頭の中の三人に笑われては、わたしが怒って声を荒げていたものですが、これか何度も続くと、次第に茶化す声は聞こえなくなり、むしろアンナなぞ当然の様に頷く始末。それにわたし自身も気にしなくなっていきました。環境とは人を育むものなのですね。慣れというものは怖いです。


 



 わたしが目覚めてから一月もすると、件の報告員の他にも何処からか噂を聞き付けたのか、カーティス家にやってくる者が度々現れました。

 その殆どは家主であるレニーとホルデに門前払いされてしまうのですが、中には困った来客もいて悩まさせられました。


(アリシア、わたしはどんな顔をして会えば良いのでしょうか……)

(ん〜アタシが時期を見て手紙でも書こうか? あ、その時は代筆ヨロシクね。今はうまく誤魔化しといて!)


 アリシアの実の両親がやって来ました。流石にこれには合わない訳にはいきません。

 

 二人共、既にアリシアが亡くなっていることは知っていた様子です。

 状況を知りつつもわたしを責めることはなく、寧ろわたしが無事であったことをとても喜び、元気になったら是非また遊びに来て欲しいと涙ながらの笑顔でいわれてしまったのですが、それをみて少し胸が痛みました。


 ……色々と申し訳御座いません……。


 他には何度も足を運んでいながらも、その都度レニー達が頑として譲らなかった方がいます。

 わたしとしては会う位ならば構わないと思ったのですけれども……。


「ブレームさまは、アリシアの養兄にあたる方なのですよね? お養父さま達にとっては実子にあたる方なのですから……」

「アヤツは既に独立して自身で家を構えておる。それに今は現王族の近衛を務めておるのだから、そんな者を家に入れる訳にはいかん。職を辞するまで敷居を跨ぐことは許さんといってやった」


 ……確かに王族絡みで様子見に来たのかも知れませんから用心は必要ですよね。


 そうやって徹底して護られながら月日が経ち、その間に各国の情勢も変化して来ましたが、わたし自身の身体も変化しました。


「な……なんだコレは! 信じられない!」


 お医者がわたしの診断結果を見て驚愕しています。わたし本人も驚いていますから仕方がありませんね。


(しかしコレは随分と凄いのですね……)

 

 こんなにも早く骨が付くとは思いませんでした。


(でしょう? 頑張ったのよ! もちろんアリーちゃんもだし、元々ミリーちゃんの魔力が凄いのよ!)

(ホント、ミリーの魔力量ってスゴイよね! コレならなんでもデキそう!)


 褒められるのは嬉しいですが、それについての見返りはそれなりにあリましたから手放しには喜べません。思わずアンナに恨み言の一つもいいたくなりましたが、今回、飽きっぽい妖精達に対して、アンナが目を光らせて無理矢理働かさせていたのを知っていますから強くはいえません。


 ……みなさん、有難う存じます……。


(それにしても良い環境よねー)

(本当ですよ。いくら秘密裏に治療するからと、まさかお養父さまが移動健診車まで用意してくれているとは……)


 お抱えのお医者もさることながら、流石のカーティス家の財力にため息が出て来ます。


(それもそーだけどさ、まさかこの世界にレントゲンまであるとまで思わなかった。この世界って、意外に医療が進んでるよねー)

(それは以前、お主の世界から元女医達を沢山呼んだからの)


 衣食足りて礼節を知るではないですが、ある程度文明が進んでも医療が伴わないと国の繁栄が望めないからと、医療技術に関してはアンナが力を入れていたものの一つなのだそうです。


(それなら、CTとか、MRIとかもあるの?)

(エム何ちゃらは知らんが、シーテーとやらは、何かいっておった者がいたような気がするが……)


 時代的に、その時期の者達は少ないそうです。


 ……イザベラが懸命に還していましたからね……。


(だからかー。アタシにとってはこの世界って、色々とちょっと古くさく感じるんだよねー)


 アリシアが一人納得している様ですが、わたしにはさっぱりです。


(なら、アリシアがそれ等を作ってみたら如何ですか?)


 医療技術が発達するのであれば願ったりです。しかし残念ながら畑違いだと断られてしまいました。


(門外漢なのだけど、他にも気になることはあるんだよね……)


 この世界は、あまり武器や兵器の類が盛んでないことに不思議に思っていたそうです。


(確かにね、魔法や魔術があるから要らないっちゃ要らないとも思うけど、使えない人もいるんだし、これだけ争いごとがあって、そこそこ文明が発達しているなら、もう少し発達しててもおかしくないと思うんだよねー)


 なんとも物騒な話しですが、アンナ曰く簡単なことらしいです。


(ここいら一旦の国々は、昔っからラミ王国を中心に回っておる。要は最先端じゃな。それでワシが呼べるのは黒い髪の女だけじゃ。お主の様に元でも構わんが……。女で兵器や武器に詳しい者が、あまりおらなんだっただけじゃよ。それともお主、詳しいのか?)


 アリシアは、理屈はわかっても原理はさっぱりだと笑っています。


 ともあれアリシアのせいで、剣呑な世界になることは避けられそうなので安心しました。


 そんな話しをしていてお医者のことをすっかり忘れていましたが、いつの間にか目の前に検査結果の用紙が積まれており、彼がわたしを睨んでいます。


 ……なんでしょう?


「……良いですか? ちゃんと聞いて下さいよ! これは両腕の写真になりますが、単純骨折とはいえ、この短期間にこうも見事に付くことはあり得ないのです! ……お嬢さま、わたしに内緒でやりましたね?」

「な、何か問題が御座いましたか……」


 光の魔法自体は別に秘密の魔法でも何でもありません。教の神殿では社会奉仕活動の一環としてよく使われている医療行為です。主に医師に掛かれない貧しい層が使っているのですが。

 わたしが知らないだけで、彼には外科医としての何かしらの矜持があるのでしょうか? または魔法による医療と一般医療とでは棲み分けがあり、双方の間に亀裂でもあるでしょうか? 


 わたしが訳がわからないといった不思議がそうな顔をしていると、お医者はため息を吐きつつ、広げていた写真を指刺しながら更に難しい顔でわたしを睨んで来ます。


「お嬢さま、これは取り返しのつかないことをしてしまいましたね……」

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