表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/238

其の79 みんなの思惑

 一先ずは寮内の者達だけでもまとまっていることを良しとしましょう。そうとでも考えなければこの状況を受け止めきれません。


 ……頭の中の三人! 笑い声がうるさいですよ!


「……お二人共、少し落ち着いて下さい。今まで通りの対応でお願いします……」


 すると二人はすくっと立ち上がり、いつも通りの笑顔に戻りました。


「わかったわ、ミリー」

「わかりました」


 ……相変わらず如才ない方々ですね……。


「……それで、わたしがどうこうする以前の問題として、現状情勢はどの様になっているのですか?」


 このまま行けば、春先にも小競り合いから大戦にまで発展する恐れありとのことでした。


「わかりました。それまでにはわたしも心を決めますので……」


 今は各所からの情報を集め、寮内のみんなで団結し、その時を待つ様お願いしました。


「今、寮内のまとめ役をレイにお願いをしています。お二人は彼女の支援に回って力になってあげて下さい」


 ……みなさん聞きましたね? なるべく早くこの身体をどうにかして下さい!






 頭を抱えたくなる様なことを聞かされてしまいましたが、残念ながら腕を動かすことは出来ません。悶々としながら次に入って来る者を待っていましたが、マリアンヌ達と入れ替わりで入って来た者に開口一番、寝台から逃げ出したくなることをいわれてしまい、身動き出来ない今の自分を呪いました。


「ミリセント、もしや今の貴女の中には、アリシアが居るのではないですか?」


 ───お養母さまー!


「な、何故そのようなことを仰るのでしょうか……」

「わたしが魔力に対して敏感なのを忘れましたか? 魔力の質はそう変わらなくとも、明らかにあの娘を貴女の中から感じます」


(みなさーん! これ、どうしますかー!)


 三人共「任せる」と投げられてしまいました。


「……実は、これには深い訳が……」

「貴女が俗にいわれる黒髪の乙女ということですか? それについてはある程度は存じております。これでも昔はそれなりな機関に所属していましたからね」


 ……そういえば、彼女もわたし達と同じ柳緑寮出身でしたね……。


 未だ現役なのかは知りませんが、どこぞの諜報員所属で、かつその生き残りということですか。


 ……これは迂闊なことはいえませんね。


 わたしが黙り込んでいると、優し気な顔で「そんな心配することはありませんよ」そういいながら近付いて来ると、わたしの頭を優しく撫で始めました。


「良いですか? 何を気に病んでいるかは凡そ知れますが、わたしにとっては貴女も実の娘同様と以前いったではないですか。よくぞ生き残ってくれました。それもあの娘を携えて。わたしにはそれだけで充分です。それ以上は何も望みません」

「……お養母さま……」


 その言葉だけで救われた気持ちになり、自然と涙が溢れ出て来ました。

 彼女はそれを指で掬いながら暫く微笑んでいたのでしたが、徐々にその顔が変貌して来ます。


「……この娘をこんな目に合わせるだなんて……」

「……お養母……さま……?」


 ……淑女が心の底から義憤に駆られると、一瞬で周りが凍りつくのですね……。


 明らかに怪我のせいではなく、全身の血の気が引くのを感じ、身も心も震えて来ました。


「お、お養母さまは何処までご存知なのですか?」

「先程待っている間に、手の者からの報告を受けております。今し方貴女が聞いた話については、全て存じていると思って頂いて結構です」


 後輩達もよく働いているようで何よりです。と笑っていますが、明らかに目は笑っていません。


「全ては貴女がやりたいようなさい。この国を滅ぼしたければそれもまた良いでしょう。その為の助力は惜しみません」


 昔し取った杵柄だ。腕が鳴るなどと、なんとも勇ましいことを言い出す始末。


「……その件につきましては、身体が癒えてからゆっくりと……」

「何をいうのですか! 兵は拙速を尊ぶと申します。貴女が動かない、いえ動けないのであれば代わりにわたしが!」


 今にも飛び出しそうな勢いの彼女を、言葉だけで抑えるのは本当に苦労しました。


 ……アリシア? 呑気に笑っていますが、彼女は貴女のお養母さまなのですよ?







 最後にレニーの番なのですが……もうこの辺りで十分なのではないでしょうか。ずっと寝たままでしたが、とても疲れました。

 

 ホルデと入れ違いになる時、互いに目配せしていたのが気になりましたが、予想通り彼もまた既に色々と状況を承知していましたので話しが早く済みした。


「私はそれなりに歳を重ねているのもあるが、かつて就いていた役職柄この国に於ける古い謂れについてはそれなりに知っている……」


 それもあってわたしが黒髪の乙女であることは薄々気付いていたそうですが、先程ホルデと視線で会話をした際、全ての事情を察した様子です。


「君の役目はとても重いと思う。しかし、彼の者は国に反映を促す者であって、それは決して戦乙女などではない。君が無理をする必要はないんだぞ」

「……お養父さま……有難う存じます……」


 また涙腺が緩んできました。


 先程から泣いてばかりですが、唯一まともな対応で、今最も望んでいる言葉をもらってしまっては、泣かずにいられないのは仕方がないと思います。


「しかし、以前約束していたアリシアと三人で酒を酌み交わす約束が叶わなかったのは残念だったな……」

「そうですね……。ですがお察しの通り、今彼女はわたしの中にいます。わたしが呑み食いすると、中にいる者もそれを味わえるみたいですよ?」

「そうか。なら君が全開した暁には、またゆっくりと酌み交わそう」

「はい。喜んで!」


 頭の中でアリシアも嬉しそうに頷いています。


 ……他にも余計な者も居ますが、それをいうのは無粋でしょうね。


「それと、私の娘として、もう一つだけ約束して欲しいことがある」

「なんでしょう?」


 この際一つといわず何個いって頂いても即座に頷きたい気分です。


「仮に……仮にだ。もしも君が立つというのなら、この老体、命は惜しまない。是非とも一番槍に使ってくれ」


 ……わたしの周りは、なんでこうも交戦的な方ばかりなのでしょうね……。






 これで各々の思惑は違えども、方向性は定まりました。

 いざ、目的に向けて邁進するだけなのですが、事前に備えは必要です。みんなを部屋に呼び戻しすとレイの戻りを待ちました。


「レイ。お願いした物は持って来て頂けましたか?」

「これとこれで宜しいですか?」


 先ずは何はなくとも眼鏡です。普段の眼鏡は魔力消費が激し過ぎますからお医者から止められていました。そうでなくとも今は一刻も早く身体を治す為に余計な魔力は使いたくありません。


「有難う存じます」

「それと……取り敢えず、この木箱一つで良かったの?」


 レイ達に使い方の説明をするのと、カーティス家に置いてておく分の為に一箱部屋から持って来て貰いました。残りは寮で使います。


「はい。これで大丈夫です」

「しかしこれはなんなのでしょう? 見たことありませんね?」


 レイが不思議がるのも無理ありません。これはアリシアと共に、道中手慰みに即興で作った術具になります。


「術具の一つなのですが、護身用というか、みなさんに念のため持っておいて頂きたい物なのです」


 使わないに越したことはありませんが、何かと物騒になっていますので念の為、わたしの周りの者達には渡しておきたいのです。


「これは、わたしが鞭を使っているのを見て、アリシアが思いついた物なのですが……」


 魔石の大きさで効果範囲は異なりますが、起動させると、辺り一面に己が持つ魔力に対して痛くするモノが散らばります。


「コレはわたしの魔力を元に作ってありますので、ここにいるみなさんや、寮の者達、カーティス家の方々はわたしの魔力を帯びていますから問題ありませんが、それ以外の者が触れると一種の麻痺状態になり、行動不能に陥ります」

「……これってもしかして、郷里でミリーが悪漢共を懲らしめてたヤツと同じモノ?……」

「ご存知なのですか?」


 流石マリアンナ、一端の諜報員ですね。あんな遠くの出来事まで知っているとは驚きましたが、ホルデも知っている様で目を剥いています。しかしこれは説明が省けて助かりますね。


「それと同じ様な物と思って頂いて結構です。道中何かと物騒でしたので、アリシアと一緒に何か便利な物をと考えて作ってみた次第です。その時に丁度魔石も沢山手に入りましたからね」


 ……あの時は事情を知りませんでしたから、二人とも魔石が大量に確保出来て喜んでいました。あんな機会は滅多にないですからね。


 そういいながらニコリと笑い周りを見渡すと、レイ以外の者が複雑そうな顔になってしまいました。

 フランツィスカなどは顔を引き攣らせてしまい、手に持っていた中位の術具をゆっくりと箱の中に戻すとわたしをジッと見つめてきます。


「どうされましたか?」

「……そうなると、この中に入っている魔石は……」

「採れた個体によって様々ですね。……そうそう。特別大きな魔石で作った物も二つほどありますが、それは寮と、ここの家に置いておきましょうか?」


 例の襲って来た大型の魔獣から採れた魔石です。その効果範囲を伝えると、レニーとホルデから丁寧に自体されてしまいました。

 

 ……流石に街中で使うには問題がありましたか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ