其の77 覚悟
わたしの話しを聞いて、暫しみんな黙り込んでいました。
レイ達からは「そんなことで、ここまでするの?」と懐疑的かつ驚きを隠せない声が上がって来ましたが、レニーは重々しく頷きながら「そうか……」と、納得した模様です。
「……これも、ここだけの話にしておいてほしいのだが……」
そして先代の王と其の息子、今の王について語り始めました。
「わたしが仕えた先代の王は、竹を割ったような明快な方だったが、思慮深いというか謙虚なお人柄でな……」
特に目立ったことを成し遂げた人物ではないが、内政に力を入れ、常に民の言葉に耳を傾け拾い上げることをしていた為、民にとっては名君であったということです。
また彼の口癖は「所詮この地位は預かり物の仮初めのものに過ぎない。いずれお返しするその時まで、民に寄り添い共に国を維持していければ良い」だったそうです。
しかしてその君主らしからぬ父の背を見て育ったその息子、今の王はそれを是とせず、国を富ませる為には国力を上げて国土を広げるべきだと野心的な考えを持ちながらも、父とは違い子供の頃から細かいことを気にし過ぎる小心者だとか。
「そんな者であるから、今の王位に固執するあまり、暴挙を起こさないとも限らんな」
過ぎた力を持つ者が現れた時、自身で制御出来ないならば簡単に排除しようとするだろうと。その表情はわかりませんが、ホルデもそうだといわんばかりに頷いています。
この国は暫くの間平和過ぎました。小人閑居して不善をなしたのでしょうかね。もっと他にやるべきことがあると思うのですが……。
ともあれこれで理由に動機が出揃い、この件の首謀者はほぼ確定したとは思いますが、さて、相手が相手です。これはどう落とし所を見つければ良いものか。
この件は既にわたしとアリシアだけの問題ではありません。今生き残っているわたしに関わる者は、この国に住んでいる限り何かしら被害を被ることになるでしょう。かといって、我が身大事にわたしの首を差し出した所で、その場ではその者の命は助かるかも知れませんが今後とも安泰であるとは限りません。むしろ早々に排除されることでしょう。
気が付けばみな、どうするのか不安そうな表情でわたしを見つめていました。わたしは暫し目を瞑り頭の中の者達に語り掛けます。
(みなさん。お話しは聞いていらっしゃいましたね? それでは今後のことについてですが……)
(ワシは特に構わん。お主の好きにせい)
(あたしもミリーちゃんに任せるわ)
(アタシもアタシもー!)
……みなさん、考えるのが面倒だからではないですよね?
わたしに一任というか放り投げれました。
……ここは覚悟を決めますか。
目を開けると、視線だけで周りを見渡し口を開きます。
「……ではみなさま、一旦お一人ずつ、今後についてお話しをさせて頂いても宜しいでしょうか?」
わたしの提案にみんな頷くと、まずはレイチェルが残り、他の者は一旦部屋を出て行きました。
「レイ。この度はご心配をお掛けして大変申し訳御座いませんでした……」
「本当よ! どれだけ心配したか! ……ウッウゥ……」
今まで気を張っていた反動でしょう。ここに来てわたしが無事なのを目にし涙腺が一気に緩んでしまったらしく、立ちすくんだまま下を向いて泣いてしまいました。
しかし悲しいかな。そんなレイチェルの頭を撫でて慰めることは今のわたしには出来ません。なので代わりに頭の中のアリシアにお願いします。
(アリシア。風の魔法をつかって、レイの涙を拭ったり優しく頭を撫でて下さいますか?)
(オッケー!)
流石見事な魔法の行使。そんな抽象的で難しい注文でも難なくこなし、レイチェルが驚いています。
「えっ? ミリー? 今のって……」
「その件については追々お話し致しましょう。それよりも落ち着きましたか?」
「うん。大丈夫」
「では、本題に入らさせて頂きますが……」
「待って。わたしは何も聞かない。黙ってミリーに着いて行くわ」
「……まだ何も話していませんが……」
「どうせ何かやるつもりなんでしょ? それでわたし達に迷惑が掛かるかもって。でも、今ここで聞いても全て話してくれる訳でもないんでしょ?」
……聡い娘ですね……。
正確にはまだどうするか具体的に決めていないだけですが、確かに方向性は決まっています。
「……これは、後々ご家族にもご迷惑が掛かるかも知れませんよ?」
「そうかしら? 詳しくはわからないけど、おおよそ何をするかは検討つくわ。でも、ミリーは我が家の状況は知ってるでしょ? なら、父もそれを知ったらむしろ応援してくれるかも」
「宜しいのですね?」
「そうね。わたしはまだ誰にも誓いを立ててないもの。なんなら今ここで、ミリーに騎士の誓いを立てる?」
腰の剣に手をやりながら笑顔を向けてきましたが、その顔は緊張を隠し切れていません。手も少し震えているように感じます。
「……わかりました。ですがそれはせめてわたしが手を動かせる様になってからにして下さい。これでは剣も持てませんから……」
一先ずこの件は先送りにして、改めてレイチェルに向かいます。
「レイチェル・クラウゼ嬢。わたくしミリセント・リモが命じます。今から貴女には柳緑寮内生徒に対して総括責任者の任を与えます。少なくとも年が明けて雪解けの時期になるまでの間は寮生達のことを頼みましたよ」
「はい! ……えっ? ということは、卒業までには戻って来れそうなの?」
(イザベラさま、どうでしょう?)
(アリーちゃんが頑張ってくれれば大丈夫じゃないかしら?)
(そうですか。ではアリシアも宜しくお願い致しますね)
(うん! 任せて!)
「……なんとか、なりそうです」
「えっ! どうやって?」
「……コレもまだ秘密です……」
色々と聞きたそうなレイチェルでしたが、一旦寮に戻って予備の眼鏡とか、持ってきてもらいたい物があり、それと、他の寮生に配布してもらいたい物などを細々と指示すると次の者に代わってもらいました。
「お一人ずつとお伝えした筈ですが……」
「あたし達は二人一緒でいいわ。ねぇ、ツィスカ?」
「そうですね。構いません」
「……わかりました。では単刀直入に聞きます。お二方はどちらに組みする方になるのですか?」
そういって二人をジッと見詰めると、視線を外さず二人とも見つめ返してきました。
二人共、男爵令嬢で商人の娘とのことですが、その情報通過ぎる所からも、流石にそれだけでないことはわたしにもわかります。
初めはこのラミ王国の諜報機関の者かとも疑いましたが、それにしてはそのことについてわたしに一切隠そうとする素振りが見えませんでしたし、わたし達にとても協力的です。ならばルトア王国やゼミット国辺りかと思いましたが……。
「予想通り、あたし達はニカミ国とラャキ国の諜報員よ」
……ちょっと外れましたね……。
その二つの国はラミ王国の西側に隣接し、南北にあるルトア王国とゼミット国に挟まれている形になります。正直あまり大きな国とはいえないそのニ国とは同盟国ではありませんが、現在係争中の間柄でもなく、ゼミット国同様、隣国としての付き合いがある程度の位置付けです。しかしそれはどうもラミ王国側から見た考え方だった様です。
「ミリーはあまり詳しくないかも知れないけどね……」
現在、この大陸の端で平和で呑気に構えている国は、ここラミ王国くらいなものらしいのです。
ニカミ国とラャキ国には、ラミ王国と反対側に隣接する国のパンラ王国があり、この国は最近南部にあったラハス王国を武力で制圧。属国として、更に東側の国へもちょっかいを掛けている最中なのだそうです。
「ウチの国とラャキ国、ゼミット国の三国は魔石の鉱山を抱えているから、それが狙われてるの。それで今は彼の国とどう対処するかでどこもその対策に追われていててね、その為に今やこの国は各国の諜報員で溢れかえってるわ。もちろんパンラ王国の諜報員も入って来ているの。特に出先機関でもある学園内では日夜諜報員同士が……」
……え? え? ちょっと待って下さい。一体何のお話しですか?
予想だにしない方向へと話しが転がってしまい混乱して来ました。




