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其の73 レイチェルと寮の仲間たち

「レイ! ミリーの目が醒めたって!」


 マリアンナが叫びながら自室の扉を開くのと同時に、フランツィスカと一緒に雪崩んで来ました。


「本当ですか?」

「今、アリーの母親から連絡が来ました。意識もハッキリとしているとのことです」


 フランツィスカが笑顔のまま涙を浮かべています。


「では急ぎませんと! みなさんにも連絡を?」

「さっき、デリア嬢に伝えて、みんなにも回してもらってる。あ、全員で行くと迷惑になるから、一先ずあたしとツィスカ、レイだけで行くっていってあるわ。他のはまた今度ね」

「わかりました。今すぐ出ます」


 机の側に立て掛けてある自分の剣を手に持ち、それを腰に佩くと出口に向かいました。

 

 先に廊下に出ていたマリアンナ達が、わたしの腰の剣を見て緊張しています。それもその筈、今学園内は不穏な空気に包まれていて、それを調べてくれたのは彼女達なのですから。


「準備はイイ?」

「はい。いつでも対応出来ます。念の為、わたしが先頭に立ちますので後から着いてきて下さい」

「宜しくお願いしますね」


 この時ばかりは寮監であるデリアに寮内を走っても咎められず、急いでアリシアの家、カーティス家に向かいました。






 それをわたしが知ったのは、丁度闘技場にいて剣術の講義中でした。


 突然轟音と共に地響きが起こり、周りの者達はみなとても驚いていたのですが、さすがここに居るのは剣術を志す者ばかり。騒ぎ立てる者はいなく、みな冷静に状況を伺っていました。

 程なくしてそれが魔工学の講義棟の崩れた音だと知り、嫌な予感がしましたので、学園内では安易に魔法は使ってはならないことは百も承知ですが、すぐ様アリシアに連絡を取ろうとし試みたのですが返事は返って来ません。幾らわたしの魔法でも学園内に居れば届く筈です。もちろんミリセントに送らなかったのは彼女は魔法を使えない為敢えてです。でも常に二人一緒にいるのですから同じことですよね。


 これはもしやと思い、予想が外れて欲しいと願いながら直ぐに講義棟まで駆けつけました。


 現場に着くと二次災害の恐れありと既に規制線が張られ、近づくことが出来ません。

 しかし建物が崩れたのはつい先程のこと。有事の際になんと手際が良いものだと感心しましたが、今にして思えば事前にわかっていたからこその早い対応だったのでしょう。


 ……あの時、規制を掻い潜ってでも、瓦礫をどかせていれば……。若しくは魔法巧者を連れて来て、無理矢理にでも急いで瓦礫をどけていれば……と思うと夜も寝られません。


 程なくして先生方がやって来ると、一つ一つ慎重に瓦礫を退かすのでしたが、それをもどかしく見ているだけしか出来ないでいました。


 暗くなっても明かりを灯して作業は続きます。


 気が付けば寮内の者達がみな集まり、あの中にいてくれないことを祈っていました。

 その中にマリアンナ達の姿を見掛けたので、どこかでミリセントとアリシアを見掛けなかったと尋ねましたが悲しそうに首を振るだけでした。僅かな希望が崩れ去った瞬間です。

 

 絶望を抱えたまま作業を見守っていると、夜中になりやっと一人の作業員の叫ぶ声が聞こえました。


「人がいたぞー!」


 この時ばかりはみな規制線を掻い潜り、止める警備の者を振り切って駆け寄ります。


 しかしそのあまりの惨状に我が目を疑い、胸が張り裂けんばかりになりました。


 アリシアの見事な純白の髪は、血や埃にまみれて見る影もありません。変わり果ててしまった頭部を含め、変形していない箇所を探すのは難しく、その有様には誰もが諦めざるを得ません。

 駆け寄った者達の中には、直視することが出来ずに顔を背けながら涙する者も多く、暫くの間、嗚咽混じりの泣き声が深夜の学園内に響き渡りました。







 ミリセントが命を取り留めることが出来たのは、その身体の小ささやアリシアが覆いかぶさっていたのもありましたが、一番の要因は彼女の眼鏡にあったのでしょう。


 ミリセントの普段掛けているあの眼鏡は、魔力を注ぎ込んでいる間は決して壊れることのない魔術が刻まれています。以前、仲間内で遊んでいる際、どれだけ倒れずにその眼鏡を掛けていられるか、本当にどうやっても壊れないかと遊んだものでした。今となってはもう二度と出来ない懐かしい思い出です。

 そして運良く横倒しになっていた為、頭部は眼鏡に守られ致命的な損傷を免れたのでした。


 アリシアの身体をのけてまだ息のあるミリセントを瓦礫の中から救出すると、すぐにも学園内の医務室に運びこもうとしたのですが、それをマリアンナ達に止められてしまいます。


「何をするのですか! 今は一刻を争う時ですよ!」

「詳しくは後で。ミリーのことはカーティス家にお願いしましょう」


 普段とは打って変わって真面目な顔をしながら、既に彼等を呼んでいると、ミリセントを託しました。


「大丈夫だ。ウチにも優秀な医者がいる」


 生存者が優先なのはわかりますが、アリシアの養父・養母であるレニーとホルデは、アリシアのことを一瞥しただけで、急いで戻っていってしまいました。


 ……あの時は、養女とはいえなんと薄情な……とも思いましたが、今にして思えば断腸の思いでミリーを優先したのですね……。


 その後わたし達はアリシアの無残な姿になった遺体を丁寧に掘り起こすと安置所に置き、寮に戻った時には既に陽が登っていました。


 みな疲れ切って涙と埃まみれで汚れているにも関わらず、お風呂にも入らずに泣きながら自室に戻る者ばかりでしたが、わたしはマリアンナを捕まえると、先程の行動について問いただしました。


「如何にカーティス家の主治医が優秀であろうとも、学園の医師も優秀な者が揃っています。一刻を争う事態なのに何故あのようなことを!」


 その答えを聞いて、我が耳を疑いました。


「今の学園は信用ならないの」


 ミリセント達が出掛けた後から、学園内に不穏な空気が漂い始めたのに気が付き、調査を重ねていく内に、どうもミリセントとアリシアにの身に危険が迫っているかも知れないということがわかったのだそうです。


「なら、今回の件は……」

「事故ではなく、人為的なものでしょうね……」


 既にその証拠は片付けられたのか見つからなかったそうですが、周りに被害が無いように建物が中心に向かって落ちていくような不自然な倒壊の仕方などからして、まず間違いがないとのことでした。

 

「それに老朽化というにも、まだそこまで古い建物でもないし……」


 それとあの棟は普段からミリセントが維持の為に魔力を込めていました。ならば半年やそこら供給しなくとも勝手に崩れるはずはないとの見解です。


「あたし達がもっと早く忠告していれば……」


 その時に見せた彼女達の苦渋に満ちた表情は未だ忘れることが出来ません。






 幸いなことに、健診な治療と介護のお陰で、意識は以前戻らないまでも命には別状がない程までミリセントは回復しました。


 その間にアリシアの葬儀は済みましたが、一月経った今も寮内はおろか学園中がお通夜状態になっています。


 そんな中での朗報でした。


 何を置いてもわたし達はカーティス家に駆けつけます。

 

 屋敷の中を走り回り、「ミリー‼︎」と叫びながら扉を開けると、そのまま寝台に駆け寄って行ったのでしたが、彼女のその変貌振りを見て、驚きのあまり足を止めてしまいました。


 未だ傷が癒えず、身体中に巻かれた包帯や足から生えている金属の棒、点滴に繋がれている姿が痛々しくもあり、一月程寝台の上に寝ていたものですから頰もこけて人相が変わっていたのもありましたが、それ以上に全身から醸し出される雰囲気が様変わりしており、それに驚かされたからです。


 それは怪我のせいで弱っているというよりも、むしろ以前よりも力強く輝いて見えました。


 その様子に圧倒されてしまい、思わず唾を飲み込み声が上ずってしまいます。


「……ミ、ミリー?」

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