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其の72 ナイデイックとタレス

「ナイデイック。お前達は何やらコソコソと動いているらしいな。暫くの間、寮を出て自室で大人しくしていなさい」


 父にわたしがタレスと頻繁に合っていることを怪しまれ、屋敷にて軟禁状態にされてしまった。


 ……教の同志から、騒動が起きた後の後日談などは入ってくるのだが、現在のアリシア先生方の動向については、無線機の術具を取り扱っているタレス殿頼りであるというのに……。


 無線機の術具は本人登録をしていて、他の者には使えない仕様になっているのだが、三号機はわたしにタレス、グレイラットの三人が登録されていた。タレスの代わりにわたしに操作させてくれても良いのにと思ったが、やはり位の順になるのだろうか。この時ばかりは父の爵位をうらめしく思ってしまった。


 先生方はどうされているのかと悶々とする毎日だったが、タレスとの橋渡しを買って出てくれる者が現れその問題は多少改善された。


「姉上、本当に宜しいのですか?」


 父に知れたらことだ。それを承知の上で頼まれてくれるのだという。


「わたくしもアリシア嬢には是非とも生き延びて頂き、今の誤った教を是正して導いて貰いたいのです」


 ……身近な者に賛同者が存在していた幸運をアンナ様に感謝します!







 タレスには許嫁がいる。わたしの妹であるエイミーだ。

 彼女は普段学園内にある教会堂に足繁く通っていた。そこにはタレスも顔を出しているのだが、婚姻前の男女だけで会うのは外聞が悪い為、常に姉のベスもそこに同席する。その際に手紙をやり取りしてもらう算段だ。


 連絡手段の確保を出来たのを喜んでいたのだったが、協力者からの報告書を読んでいて頭が痛くなってしまった。


 ……これをそのままタレス殿に報告しても良いものか……。

 

 もちろん、やる方もやる方で問題があるのだが、それ以上に彼女達は規格外だった。無事なのを知れたことに安堵すると共に背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 教の内部には、他の派閥と水面下でやり合うための暗殺など汚れ仕事を担う部隊があるのだが、先ず、その者達の多くが王都を離れたとの報告だ。もちろん彼女達を狙ってのことだろう。

 案の定、次に来た報告は闇夜に紛れて彼女達を襲撃をしたとあった。しかしアリシア先生の手によって軽々と撃退されたともある。


 ……流石です!


 更にその翌日、戦力不足だったとみた彼等は、その配下の主だった者達と集まると再度襲撃を試みたそうなのだが、その後の消息は不明。恐らく返り討ちに遭い全滅してしまったのだろうとある。しかも王宮内の魔術使いとの合同作業でもあったのだが、そちらも消息を掴めないそうだ。


 ……これは全て亡き者にされたと見るのが正しいのだろうな……。


 その凄惨な状況を想像してしまい、震えながら暫し思案していたのだが、この事実を一人で抱えていられる程わたしは気丈ではない。心の重荷を少しでも減らすべく、得られた情報を包み隠さずにタレスへ送ることにした。








「渡してきました。代わりにこちらはタレスからです。読後即焼却処分する様にとのことでしたよ」

「姉上、有難う存じます」


 早速中を開いて確認する。


 中身はここ数日、彼女達の道中で行われたアラクスルとの交信の内容だ。


 先ず、王都に繋がる街道の橋が落ちていた為、山中を進むことになったとあった。


 ……あ……コレは工作員の仕業だな。


 彼女達を、自分達の仕事のし易い山中へと誘い込んだのだろう。報告書の内容とも合致する。


 次の内容には少し頭を痛めた。何故なら「山中で不調法者が現れてちょっかいを掛けられた。アラクスルもこの辺りに来る機会があるのなら気をつけた方が良い」との内容だった。


 ……まるで子供の悪戯にでも遭ったかのような台詞だな……。


 気を取り直して読み進める。


 その翌日は、昨晩の不調法者の仲間達が意趣返しに来たのだが、その際にアリシア先生が暴走してしまい、ミリセント先生が困っていたとある。戦場に於いて兵士が暴走した場合、アラクスルの国ではどう対処するのだろうと質問をされて、彼は返答に窮していたそうだ。


 ……同じ状況である筈なのに、協力者から上がってきた報告書とは随分と温度差があるな……。


 更にその翌日、また次の日、そのまた次の日の交信内容は大体同じ様な内容であった。


「日々これ平穏なり。ただ毎日ミリセントが小言を言って困っている」


 丁度今し方上がって来た協力者からの報告書と照らし合わせて見て、頭を抱えてしまった。


 ……先生方にとっては何でもなかったことなのか……。


 闇討ちを試みた翌日、その場に居た主だった戦力を全て投入したのだったが、全て消息不明になってしまった為に、それに慌てた教と王宮内は、手を汚す専門家達の中でも特に手練れの者を逐次投入していったのだったが、結果として一人として戻って来る者はおらず、こちら側では大混乱になっているとこのことだった。


 交信内容を見るに、かの者達は彼女達にとって脅威になり得る存在ではなかった様子だ。旅の道中遭遇した野犬を退治したことと同列に考えている姿を想像してしまい、思わず乾いた笑いが出てくる。


 ……亡くなった者は可哀想だが、アイツらの吠え面を是非とも拝みたいものだ……。


 しかも完全に消息不明になっているということは、その都度しっかりと後始末済みなのだろう。

 

 報告書を読みながら、ふと頭をよぎった。


 ……わたし達が先生方を心配するのは、おこがましいことなのではないだろうか?


 わたし達にとっては大事でも、彼女達にとってはなんともなく思える。


 ……これは役者が違う……。


 改めて彼女達の恐ろしさを実感し、上の連中が必死になって排除しようとする気持ちもわからなくないと思えるようになってきてしまったが、慌ててそれを否定する。


 ……それでは権力に固執したアイツらと同じ考えではないか。


 自身では理解出来ない大きな力を目の当たりにした時、その対応でその為人がわかる。願わくはかの者達の様に小人にはなりたくないものだ。


 今読んでいた書類の束はすぐに暖炉の中に放り込むと、急いでタレス宛の手紙を認め始めた。今わたしが知りうる情報と、今後彼女達とはどう付き合っていけば良いのか、自身の見解を併せて書き溜めた。


 ……やはりアリシア先生は、ただの人ならざる存在であったのだな……。


 思わず、今この時に彼女に巡り合わせて頂いた幸運をアンナ様に対して感謝の祈りを捧げた。







 しかしそのタレス宛に書いた手紙は彼の元に届けられることは叶わなかった。


「お前達、わたしが良いというまで屋敷を出ることを禁ずる。無論学園に行くこともだ」


 父の一声で、完全に外部との連絡手段を断たれてしまった。時期的に先生方が王都に戻って来る時であったことから、これは本腰を入れて全てを闇に葬る用意が整ったのであろうと想像出来た。

 そしてこの時期を境に、協力者からの接触もなくなってしまった。


 ……一体、何が起きるのだ……。


 悶々とした日々を待つまでもなく、それは程なくして判明した。


「学園内に於ける一棟が崩壊しました。現在被害状況を確認中」


 父の元に風魔法で連絡が入ったのを偶然同席していたわたしの耳にも入った。


 それを聞き悪寒が走る。

 

 父に、すぐさま学園に赴きことの詳細をわたしがこの目で確認させて欲しいと申し出たのだが、素気無く却下されてしまう。


「余計な者が現場に入ると場が混乱する。大人しくして時報を待て」


 しかし流石に父もその報告を聞いて穏やかではなかった様子だ。

 慌てている隙に監視の目を掻い潜ると学園内にいる協力者宛に風魔法で連絡を試みる。


「先程学園内で倒壊した建物の名称及び被害状況を簡潔に求む」


 やきもきしながら待っていると程なくして返答が来たが、それは想像していた中でも最も最悪なものだった。


「倒壊したのは現魔工学講義棟。被害者は二名。共に女性教師。生存確率極めて低し」


 それを聞き、絶望に打ちひしがれて、こうなることがわかっていながらも何も出来なかった己を諌め自然と涙が溢れ出て来た。


 ……わたしにもっと力があれば……。


 今のわたしに出来ることは祈ることだけだった。


 ……どうぞ、お命だけでも無事であります様に……アンナ様、お助け下さいませ……。

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