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其の69 グレイラットの気持ち

「グレイラット・アグナル・ラミ。良いか、其方がいくら末席といえども、王族たる一員としてその責務は果たさねばならぬ。それを努々忘れるな」

「畏まりました。謹んで拝命致します」


 その話しを聞いた時はなんの冗談かと思ったが、父である王から直々に申し付けられたものだから一笑に付して断る訳にはいかなかった。


 ……全く……余計なことをしてくれた者がいたものだ……。


 執務室を出て、渡された仰々しい書簡に目をやると思わず溜息が出た。


「グレイラット様。貴方様も王より申し渡しをされたのですね」

「やあ、タレス。君もか?」


 部屋の外にいた彼はクレイン公爵家の子女だ。わたしが王に呼ばれて入って行くのを見て、出て来るまで待っていたのだろう。その手を見ればわたしと同じ書簡を持っている。恐らく同じ理由だな。


「はい。父からも、同学年であるグレイラット様とブレンダ家のナイディックと共に、王命を恙なくやり遂げろと申し渡しがありました」

「プレンダ家か……」


 共に任務に当たる者について詳しくは書簡に書いてあると聞いていたがまだ中を見ていない。タレスは既に内容を確認済みなのであろう。

 かの家は子爵にも満たない家柄だが、教の王道派としてその発言力が強く、国政にまで深く絡んでいる。


「……そんな者までもか。これでは胡乱であると捨ててはおけないな……」

「父からは、例え夢物語の様に思えても、事実として受け取り真摯に対応する様いわれております」

「そうか……」


 今や我が国の舵取りをしているといっても過言ではないクレイン公爵の言葉は重い。


「これは講義が始まる前に、一度三人で集まり協議する必要があるな」

「承りました。早急にその準備を致します」

「宜しく頼む」


 直ぐにもお辞儀をしてタレスはわたしの元から離れて行った。


 ……やれやれ……面倒なことになったものだ……。





 


 ……しかし、学年であるとか、継承権も下の方ではあるが王族であるなどと条件的に良いのはわかるが、何ゆえわたしが魔工学などと冴えない講義を履修せねばならぬのだ……。


 多少器用ではあると自負しているがそもそもが全くの門外漢である。共に輩出された者達も同様に困っていた。


 更に我々に対して教鞭を取る者が三学年の生徒だと? しかも共に低い身分ではないか。まぁ所詮は魔法工学。そこは致し方ないが……彼女達にわたしが教えを請えと?


 ……ふざけているのか? 


 王族らしく感情を表に出さず笑顔は絶やさない様、常に心掛けてはいるが、思わず真顔になってしまいそうになった。

 

 しかしまぁ、あの白い髪の者は確か三学年のアリシアといったか? その類稀なる魔法の才や剣術の腕前に、その容貌から才色兼備であるという話しはよく聞いている。あの者ならば致し方あるまい。これを機会に、いずれは正妻は難しくともわたしの側室にでもと考えるならばやぶさかでもないな。

 

 だがそれ以上に面を食らったのは、彼女達が例の術具の製作者だということだ。


 ……手伝いをしていたの間違いではないのか? ……何? むしろカスパー率いる教師陣が手伝い? 特にあの小さいのが中心? 本当か? やもすれば入園する前の歳ではないか!


 …………


 ……大変申し訳御座いませんでした。考えを改めます。立てつく様な真似は致しません。何卒お怒りをお沈め下さいませ……。

 

 一応タレスから事前に話しは聞いていたが、あの小さい……いやいや、ミリセント先生に逆らっては駄目だ。目の当たりにして本能がそう告げている。父の御前に出るよりも緊張を強いられるぞ? 彼奴は何者だ? もしや以前耳にしたクレイン公爵邸で行われた懇親会に於いての惨劇は本当のことだったのか? 眉唾物だと思っていたのだったが……。

 

 何にしても逆らってはいけない存在であることに間違いはない。ここは大人しくいうことを聞いておこう。何も寝た子を起こす真似はしないほうが良い。






 しかし魔工学もやってみれば存外面白いものだ。


 本当にこのままこの道に進むのも悪くないと思える今日この頃だったが……王命による術具の作製が終えてしまったことを少し悲しく思う。アリシア先生にも会えなくなってしまうではないか。

 

 ……え? 新しい術具の制作ですか。へぇ……何やら面白そうなことをするのですね。是非ともわたしも一緒させて下さい!


 留学で来ているアラクもいつの間にか参加して、早速彼女達の手玉に取られてしまっている。それも致し方なかろう。わたし達もすっかり骨抜きにされている。駄目だぞアラク。アリシア先生はわたしのものだ。


 残魔術具はとうの昔に完成していたが、何を測定するのかで上の方で揉めており、実動まで時間が掛かっていたのだったが、丁度アラクがルトア国に一旦戻るのを良い機会とみたのか、とうとう我々に声が掛かった。


 わたしとしては先生方について行き、共に遠征をしながら実験・検証をしたい気持ちであったのだが、王族としての責務は果たさねばなるまい。


 ……放棄出来るものなら放棄したかった……。


 これがとても大変な作業で、更に予想以上に大きな問題となってしまったからだ。


 ミリセント先生の様に素早く大量に魔力を込めるのは本当に大変だ。魔力欠乏により倒れる者が続出。

 それでも懸命に立ち上がり、いや立ち上がらせて何度も検証を繰り返してはその結果を表示するのであったが、その為一時は王宮内の様々な仕事が滞る程だった。

 

 そしてそれは見た者の顔を青くさせる結果となった。


「……今後、この術具の使用を禁ずる。即時破棄するように。またその製作者及び発案者達も同様の処置を行う。これは王命である」

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