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其の66 出立

「では、わたしたは学園に戻りますが、みなさん怠けぬ様日々研鑽し、己を鍛え続けるのですよ」[

「はーい!」

「えー。もーいっちゃうのー?」

「ミリねぇ、もう少しいてよー」


 ……あら可愛らしい。そんなことをいわれてしまうと離れ難くなってしまいますね。


「明日から魔力込めるのめんどくさいなー」

「ミリーがいると、色々と仕事が捗るのに……」

「卒業したらすぐ戻って来るのか? お前がいると領民達の揉め事も……」


 ……兄様方、お父さま。わたしに仕事を押し付けるのはやめて下さい。


「学園を卒業しても、まだ王都でやらなければいけないことがありますので、帰郷はその後になるかと存じます。みなさん、それまでお元気で」


 色々と思惑が透けて見え微妙な気持ちになりましたが、小さいことは気にせず笑顔で別れの挨拶を交わしアリシアと共に出立しました。






 季節もそろそろ秋が終わり冬になります。

 ここは雪深い地域になりますから、雪が積もってしまうと王都まで戻れなく恐れがありますので、名残惜しいですが実家を後にして王都へ戻ります。


「御者さん。随分とお待たせして申し訳御座いません。帰りもよろしくお願い致します」

「いや〜、いい骨休めになったよ」


 戻りは道中観測作業は行いません。一日一度、休憩の時に定時連絡をするだけです。


「CQ CQ、こちら一号機アリシアになります。どなたか聴こえていますか? どうぞ」

「こちら二号機アラクです。どうぞ」

「わたし達は現在学園に戻っている最中です。アラクは相変わらずルトア国内なのですか? どうぞ」

「はい。そうなんです。まだラミ王国の王宮内がごたついている様で、越境の許可書の発行が出ないのです。先生方からも、グレイに早くしろと言ってもらえませんか? どうぞ」


 それを聞き、アリシアと顔を見合わせてしまいました。


「あれをまだやってるのですかね?」

「時間かかってるねー」


 グレイラット・タレス・ナイディック三人のわたし達の生徒は、現在王室案件である残魔術具を使用して目下検証中のはずです。これは国家の過密事項になりますので、他国の留学生であるアラクスルを学園に近づけない様、敢えて処理を遅らせているのかもしれません。しかしそれを当人にいう訳にもいきませんので、また今回も誤魔化すしかありませんでした。


「ミリセントです。最近は三号機もナイデイックしか交信に出ず、それもたまにです。向こうも忙しいのでしょう。大人しくお待ち下さい。どうぞ」

「わかりました。のんびり待ちます。ではまた。どうぞ」

「はい。ではまた後日。交信終了」


 変わり映えのしない交信をしながら、一路王都に向けて進んでいます。

 

 基本的に宿場から宿場までの距離は馬車で進めば一日程の距離になりますので、それに合わせたのんびりとした工程なのですが、ある日異変が起きました。


「嬢ちゃん方、今聞いてきが、しばらくは復旧しないそうだ。どうする?」


 とある田舎道で、大きな川を渡る橋が落ちてしまいました。

 復旧まで待つと最悪来年になるかも知れないとのことで、ここまで来た者の殆どは元来た道を戻ってしまっているとのことです。


「迂回する道はないのですか?」

「あるにはあるが山道だ……そうなると、暫く野営が続いちまうが……大丈夫かい?」


 もちろんわたしは構いません。野営は地元で慣れています。アリシアも「キャンプか〜。楽しそう!」前向きでしたので、その町で準備をすると迂回路の山中を進むことに決めました。


 野営をしながら旅をするのに重要なのはまず水の確保です。


 道中は馬に引かれて馬車になります。わたし達人は当然ながら馬も大量に水を消費します。しかし幸いなことにアリシアがいますので、魔法で水を作り出すことが出来ますから問題が無いように思えますが、魔力量に不安がありますのでいざという時にだけお願いしましょう。地図を開くと道中に水場がありそうな場所を当たります。


「どうやら川もあり、目ぼしい箇所が幾つかありますね。これなら何とかなりそうです」


 次いで重要なのは食糧なのですが……。


「わたし達の分は最低限の非常食だけにして、後は現地調達をするしかありませんね」


 この時ばかりはアリシアのいう所の「あいてむぼつっくす」、無法者の袋の必要性を切に感じました。


 何せ馬の一日に消費する量はわたし達よりも遥かに多く、また何でも食べられる訳ではありません。その為、次の宿場町まで距離がありますので、馬の食料を大量に積んで移動する必要があるのです。

 結果として馬車の荷物は大部分を飼い葉で占めてしまいました。これは致し方ありません。


「さ、準備は整いました。出発しましょう」






 迂回路は思ったより人が入っていない様子で、道は荒れ果てており鬱蒼としています。道をはずさぬ様、用心をしながら山の中をゆっくりと進みました。


「アリシア。目ぼしい獲物がいたらお願いしますね」

「オッケー!」


 人が入っていない場所というのは逆に獣達が沢山いるということでもあります。また時期的にも山の幸が豊富なはずですので食糧に困ることはないでしょう。


「ミリー、アレって魔獣? 獣?」

「随分と大きな猪ですが、魔獣では無さそうですね。よく肥えて美味しそうです。仕留められますか?」

「任せて!」


 多少距離が離れていますがアリシアの魔法なら射程内です。てっきり土魔法辺りで槍を作り仕留めるのかと思いましたが、いきなりな弓を取り出すと矢を放ちました。

 普通の弓矢です。そんな物ではあの巨躯相手では役に立ちません。当たったとしても精々驚かせるだけですぐに逃げられてしまうことでしょう。


 ……あぁ……勿体ない……。


 矢が猪に刺さるのを見ながら、仕方がありませんね。せめて逃げ出さずに怒ってこちらに向かってくれれば、わたしが仕留めますか……などと考えていましたら、矢が刺さっても猪は直ぐにその場を動かず、暫くすると「プギィー!」一声大きな悲鳴を上げ、そのまま大きな地響きを立てて崩れ落ち動かなくってしまいました。


「えぇ! なんですかあれは! 毒でも塗ってあったのですか⁉︎」


 しかしそこまで即効性のある毒なんて知りません。そもそもそんな物を使用してしまっては食用に出来なくなってしまうのではないでしょうか。


 驚くわたしにアリシアは得意顔で笑い掛けて来ました。


「どう? アタシの修行の成果!」


 弟妹達と山に入りながら試行錯誤をした結果だそうです。 


 矢の先端に風の魔法を付与し、対象物の体内に矢尻が入った途端、血管を通して脳や心の臓の至る所に空気を送り込んで絶命させるのだそうです。


「こーすれば、暴れさせなくて済むから新鮮なお肉が取れるし、毛皮もあまり傷まなくっていいっていわれたわ!」


 これだと魔力の消費も少なく済み、経済的だと。

 問題はあまり遠くなると制御が大変になるということらしいです。


 道理でアリシア達が弟妹達と山に入っている期間、中々上質な肉が食卓に上ると思っていましたが、そういうことでしたか。


「それはまたなんとも便利で素晴らしいものですが、怖いですから人相手には控えて下さいね」

「大丈夫、大丈夫! その点はあの子達にもちゃんと教えてるから!」

「え? あの子達?」

「もちろんみんな使えるわよ? 使える距離はバラバラだけどね。ミスティなんかは風魔法と相性がいいから、わたしと同じ位使えてたわね」


 次に実家に戻った時、姉の威厳がどこまで暴落してしまっているのかとても心配になりました。しかも……。


「では、早速あの猪ですが……」

「あ、血抜きするのに川にサラすんだよね?」

「そ、そうですね……。それをするのは血を抜く以外にも……」

「毛皮についてる泥や虫なんかを取るためでしょ? それに解体する時は内臓や膀胱を傷つけない様、気をつけてやるんだよね?」

「……既に色々とご存知なのですね……」

「うん! あの子達に習った!」


 ……アリシアが進化しています……これではわたしの存在意義が……。


 少し落ち込みつつも、良い獲物が採れたこととアリシアの成長を喜ぶこととして、今はあまり考えないことにしましたが、解体作業中も、アリシアのその手際の良さを見て、どんどんと離さていく様な感じがしてしまい、少し落ち込んでしまいました。


 ……あぁ……わたしの立場が……。

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