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其の64 実家でのあれこれ

宣言通り、翌日から弟妹達の特訓です。

 

 庭先に弟妹達を整列させて仁王立ちになりながら見渡します。


「わたしが滞在中、貴方方を鍛え直しますが、わたしが戻った後も精進を怠らぬ様、研鑽をするのですよ。わかっていますね?」

『はい!』


 弟妹達の良い返事に頷きつつ、隣にいるアリシアに視線を送りました。

 今回、特訓には彼女も加わりますが、教える側に立ってもらいます。


「昨日見ていた所、お互いがちゃんと助け合って連携が取れた闘い方は及第点ですが、いかんせん貴方方は魔力量が著しく不足しております。かといって幼い身体で総量を増やす特訓を行うと、身体の成長を損なう恐れがありますので……」


 ……目の前にそのよい例がいますから、みなさん素直に頷いていますね……。


 少し悲しくなりましたがめげずに続けます。


「コホン! その為、特訓は二班に分けます。メイ、ベルトの年長者二名はもう身体も出来ていることでしょうから、アリシアの指導の元、総量を増やす特訓を中心に行いなさい」

『はい!』


 ……わたしの魔力量を増やすやり方は、独特過ぎて人に教えられませんからね。


 むしろ出来たとしてもこんなことやらせたくありません。


「年少者の三名にはまだ早いですから、主に複数の魔法を同時に行使する特訓です。一つの魔法だけに頼っていては、いざという時に対処が出来ない場面も出てきますからね。今の内から慣れておいた方が良いでしょう」

『はい!』

「これは、いかに精霊と通わせるか、要するに仲良く出来るかに掛かってくるのですが……えぇ……これもアリシアにお願いします……」

『は〜い!』


 わたしは精霊に嫌われていますから、教えるなんてこと出来るはずもありません。これでは姉の威厳が……。


 ───そこ! 笑ってはダメですよ!





 午前中はみんなで山に入り、害獣駆除を兼ねた訓練をして、午後からは庭先で各々特訓の予定です。


「ミリーは一緒に来ない方がいいかな?」

「ミリねぇが来ると、逃げちゃうもんね」


 それでは訓練にならないと同行を拒否されてしまいました。これは致し方ありません。更に午後からの特訓もわたしは必要とされていませんので、結果、勢い臨んだ特訓でしたが、わたしの出番はありませんでした。全てアリシア任せになってしまいます。


「……申し訳御座いません。宜しくお願い致します……」

「大丈夫、大丈夫! 自分の特訓も兼ねてるから! 任しといて!」


 だからわたしは暇かというと、そうでもありませんでした。


「ミリー! こっち手伝ってー!」

「はい!」


 当然、普段弟妹達がやっている雑用はわたしに回ってくることとなり、母にこき使われています。

 それに「そろそろミリセントも覚えておいてもらった方が良かろう」父から領主経営の手伝いもさせられることになりました。


 今現在、家には兄が二人に姉も一人います。何故わたしが? と思いましたが、「あぁ……、上の三人は、既に良いのがいるのだ……」少し困った顔をしていました。

 

 ……どうやら兄さまも姉さまも、暫くしたらここを出て行ってしまうかも知れないのですね。


 しかしそうなると、わたしにはそんな相手がいないだろうとの考えなのでしょうか。失礼な……


 軽く睨むと目を逸らされてしまいました。


「下のが大きくなるまで、わたしもまだまだ元気だろうが、何かあった時のためだ」


 そんなことをいわれてしまえば断れません。三人には家を出るのではなく、嫁や婿をもらってきて頂きたいものですが、こんな田舎に好き好んで来てくれる変わり者なんかアリシア位のものでしょう。素直に祝福し、家族の為に頑張ります。


「で、わたしは何をすれば良いのでしょう? 書類整理などですか?」


 父が姉と共に、税やら陳述書、報告書などの書類と格闘しているのを見て、わたしもそれを手伝うのかと思いましたが、こちらの方は後々頼むとのことでした。


「今のところは、バリーとベローの手伝いをしてもらえるかな」

「畏まりました」


 父の執務室という名の自室を出ると、二人の兄が待っていました。


「やー、ミリーがいて助かった」

「何をするのですか?」

「まぁ、領主の仕事らしく、領民の手伝いさ」

「あ、そうそう。動きやすい服に着替えた方がいいな」

「……」

「外で待ってるから、早くな!」


 わたしを置いて、兄二人はサッサと玄関に向かって行ってしまいました。


 


 

 ……どうせこんなことだろうと思いましたよ……。


 今の季節は秋です。実りの時期。どこもかしこも収穫に忙しくしています。その為、人手が足りない所のお手伝い。

 それ自体は別に構いません。以前からよく手伝っていましたし、領民の為ということは即ちわたし達領主一族の為でもあります。喜んでお手伝いをさせて頂くのですが……。


「お? ミリセントの嬢ちゃんかい? 久々だのぅ。いつも変わらんからすぐわかったよ」

「大丈夫? ちゃんとご飯食べてるの?」

「暫く会わなかったけど、どこ行ってたんだい? ……え? 王都の学園? もうそんな歳だったのかね……」


 久々に会う者たちから、みんなして同じ様なことをいわれてしまい辟易します。

 しかもみなさん別に悪気があっていっている訳ではないのです。お年寄り特有の孫気遣いからの言葉ですから一々怒る訳にもいきません。


「皆さん、ご無沙汰しております。暫くの間里帰りしていますので、時々お手伝いに伺いさせて頂きますね」






 領主の仕事といっても、どが付くほどの田舎ですので、やることといえば何でも屋みたいなものです。

 

「あそことあそこの家は、最近子供達が独立したので、老夫婦しか住んでいないんだ。ミリー、宜しく頼むよ」

「承りました」


 家の魔石に魔力を込めるのを肩代わりしたり「領主さまー! ウチのヤギがー!」逃げた家畜の捜索もしますし、「あそこの土手が崩れとるのだが……」「はい。直ちに治します」領内で起きた揉め事の対応が主な仕事です。それも休みなんてありません。


 ある日、夕食が終わり、弟妹達を構いつつアリシアと共に次に製作する予定の術具の計画をしていた時でした。


「夜分遅くに申し訳ございません……」


 酒場で余所者と喧嘩になっているのでどうにかして欲しいと、そこの店主が陳述に来ました。


 平和な領内ですが、領民同士のいざこざもなくはありません。しかし殆どの場合、家族喧嘩だったり小規模なもので、我々が出る必要はありません。稀にあるこの様な場合は、父や兄が腕っ節の強い者達と共に出掛けて行くのですが、今晩は野犬が出没するとのことで、三人共夜番に出掛けて留守にしています。


「仕方がありませんね……」

「え? ミリーが行くの? ならアタシも!」

「遊びに行くのではないのですよ? 万が一、領民を傷付けてはいけませんし、相手を変に刺激してもいけませんから、その剣を置いてくるのでしたら許可しましょう」


 ボクもアタシもと弟妹達まで行きたそうにしていましたが、それは流石に母に怒られて止められました。

 それを見てアリシアが驚いていましたが仕方がありません。娯楽が少ない所ですから、こんなことでも楽しみの一つなのです。もちろんわたしはそんなこと面白くもありませんが。


 ……今後の為にも、この子達に見せておいた方がよいのでしょうか?


 しかし、やはり夜の酒場に子供はダメだと母からの許可はおりず、アリシアと二人で向かうことになりました。


「これはまた、ひどい有様ですね……」


 自分達だけでは対処出来ずに領主に頼み込んだのも納得です。

 近づいただけで外からでも喧騒が聞こえ、半壊とはいわないまでも建物は壊れて中から灯りが漏れています。


「さ、行きましょう」

「え? 普通に乗り込むの?」

「先ずは現状を確認しませんと。あ、そうですアリシア。自身の身を守る為に魔法を使うのは構いませんが、取り敢えず人には向けないで下さい」


 アリシアが暴走すると手に負えませんので先に釘を刺しておきます。


「わ、わかった!」


 酒場の扉は既にどこかへいってしまっていた為、入り口に立っただけで中の様子がわかりました。中の惨状を見てため息が出ます。


 未だ複数の厳つい男共が暴れており、机や椅子が散乱し、方々には人が倒れでいます。

 ざっと確認をした所、刃物傷を負っている者はいなさそうでしたので、そこまで本気のやり合いではなさそうです。


「まったく。いい大人が恥ずかしいですね……」


 中には女子供や年寄りの姿はありませんでした。ならば遠慮は無用。容赦はしません。


 アリシアと店主を背にして一歩中に入ると、下腹部に力を込めてお腹の底から搾り出す様に低い声で叫びます。


「お辞めなさい‼︎」


 一瞬にして辺りは静かになり、みんなの動きが止まりました。それと同時に後ろから人が倒れる音が。


 ……あっ! ご亭主のことを忘れていました。申し訳御座いません……。


 その転倒する音で我に返った者達が動き出します。


 わたしに気が付き、「あっ! あの黒髪は……。出たー! お嬢だー!」「か、帰ってたんだ……」慌てふためき逃げ出す者、「なんだぁ? あのちっこいのは……」「うざってぇ……」凄んで睨み付けてくる者と、わたしを知っている者とそうでない者との反応がくっきりと分かれました。


 ……やれやれ……。あれで大人しくしてくれれば良かったですのに。面倒ですね……

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