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其の61 ミリセントの秘密

「……お父さま……」

「いやしかし、アリシア君は学園でミリセントと同室なんだろう? なら、ちゃんといっておかねばなるまい」


 衝撃の為、黙り込んでいたアリシアに父が向かうと真面目な顔で問いました。


「君は、この山に漂う魔力をどう思う?」

「は? え? 魔力? ですか?」

 

 アリシアは不思議そうにしながらも、素直に暫くの間、深呼吸をしたり目をつぶったりして考え込んでいましたが、結局困った顔で「わかりません……」と苦笑いしています。


「……ココってなんか、寮の自分の部屋にいるみたいで、違和感を感じません……」


 初めて来たトコだし、山の中なのに不思議よね? と。それを聞き、父は真面目な顔で「それなんだよ」と頷いています。

 

 わたしは思わず手で目を覆い、天を仰ぎ見てしまいました。


「君のことは見ればわかるが、どうせ寮の室内はこの子の魔力で満ちているのだろう?」

「ま、まぁ……」


 アリシアが苦笑いしているのを見て、父も苦笑いしています。


「どうだい? ここはこの子の魔力と同じ様に感じるだろ?」

「えぇ⁉︎ まさか、ココってミリーの魔力が……」

「いやいや。さすがにこの子の魔力がこの場を覆っている訳ではないよ。どちらが似たのかは知らないが、ここいらの魔力とこの子の魔力は似通っているんだ。……それが重要でね」


 ……あぁ……それ以上は……。


「お父さま!」

「ミリセントは黙っていなさい」

「はい……」


 父はわたしを抑えると、改まってアリシアに向いて至極真面目な顔で話し始めました。


「恐らく君が思っている以上に、この子の魔力は周りに及ぼす影響力はとても大きい。この子は魔法を使えないが、魔力量が多いのは知っているだろう? もし、この子の魔力が満ちている場所でこの子の感情が昂ると、最悪その場にいる者の命の補償は出来ないな」


 それを聞き、アリシアがまさかぁ……と笑っていましたが、少し考え込んだ後、「あ……」と小さく呟きながら青い顔になり、わたしへと向きました。

 

「……ホント?……」


 明言はせず、軽く頷くだけに留めます。


「……そ、そうなんだ……。なら、部屋の中だけでなく、寮にいる時も気をつけなくっちゃ……」


 その引き攣った笑い顔を見て、父の目が光りました。


「ミリセント、お前……」

「……申し訳御座いません……」


 今度は父が一旦天を仰ぎ見ます。


 父は手で顔を拭うと、聞きたくないが聞かねばならぬと決意した顔になり、アリシアはその顔とわたしの顔を見比べて困った顔になってしまいましたが、父に向き直すと真面目な顔で断言しました。


「大丈夫です。学園の内では大きな問題は起こしていません!」


 それを聞き、父はわたしをとても残念そうな顔で見つめため息を吐きます。


「ふぅ……そうか……既にやらかした後か……」


 ───アリシア! 余計なことをいわないで下さい!


「……何をやらかしたかは聞かないでおこう。心臓に悪そうだ。しかしそれなら話しが早い。君はその場にいてもあまり影響はなかったと思うが、それをやられた者の様子は、その時どうだったか覚えているかな」

「……そうですね……」

 

 胸を押さえて苦しそうにしていて、まるで酸欠状態にでもなっていたかの様に見えました。と答えます。


「それはその者の魔力が、この子の魔力で押し潰されたんだろう。その子には可哀想なことをしたね。今後、その子はミリセントと会うと、その魔力を感じるだけで怖くて逃げ出してしまうかも知れないね」


 この山の獣達と一緒だと苦笑しています。


 恥ずかしくってこの場から直ぐにも逃げ出したい気持ちで一杯でしたが、アリシアが「……ハァ……それでみんな、あんな態度なんだ……」と、ポツリとこぼしたのを父が耳聡く拾ってしまいました。


「何? みんな、だと……?」

「アリシア君。どうやら詳しく聞いておかねばならない様だな……」


 ───また余計なことを!


 アリシアによって虎の尾を踏んでしまった様ですので、わたしはすぐさま転身します。


「……では、お父さまは、アリシアとお話しをしていて下さいませ。わたしはあの子達に帰還命令を出し一緒に付き添いますので……」


 小声で父に聞こえるか聞こえない程度にボソッと語り掛けると、すぐにその場を逃げ出そうとしたのですが、「ミリセント、ちょっと待ちなさい」腕を掴まれ捕まってしまいました。

 手を振り解こうともわたしの力で父に敵うはずはありません。しからば父相手にやるのは不遜ですが威圧して逃げ出すことにましょう。ほとぼりが冷めるまで、山中で生活するのも構いません。頭の中で適当な野営地を思い浮かべていましたら、先回りされてしまいました。


「だめだ。逃さんぞ」


 父はすぐにわたしを掴む手の反対側を上げると、弟妹達に向かって声を張り上げました。


「お前達! ミリセントを止めるぞ! その魔石を持って集まれ!」

『はーい!』


 弟妹達は、ここぞとばかりに面白がって魔石を抱え集まって来ると、そのままわたしに群がりました。

 

「あぁ! コラッ! お前達ヤメなさいっ!」


 慌てて周り全体に向かって威圧をするも、持って来られた大きな魔石に魔力が吸われていってしまい、不発に終わります。


 ……術式を込めていない魔石は、ただ魔力を集めるだけの石ですからね……。

 

 威圧の使えないわたしは無力です。

 結果、わたしよりも身体の大きい弟妹達に組み伏せられ「ごめんね、ミリねぇ。家長の父さまがぜったいだからねー」年長のメイに羽交締めされてしまいました。


 ……笑ないながら謝られても説得力ありませんよ!


「父ーさま。この集まった魔力どーするの? ミリねぇだから、すぐに一杯になっちゃうよ?」


 ベルトとビックスがわたしの側で持つ魔石は、ドンドンと魔力が集まっており光り輝いていきます。今にも弾きれそうになっていますので、ならばこのまま魔力を込め続け、こんな魔石なんか壊してやろうとかと思いましたが、「その魔石はまだ何かに使うかもしれないからね、魔力はそのまま山に放出しなさい。ミリセントの魔力なら山の木々や獣達も喜ぶだろう」と父が言うのを聞いて、『ハイ!』ミンダとミスティが空の魔石を持って来るとすぐに交換し、わたしの魔力はそのまま山に垂れ流して、空になるとまたすぐ交換するという弟妹達の見事な連携を見せられてしまい、感心しながらもため息がこぼれました。


 ……失敗しました。教育が行き届きすぎましたかね……。


 大人しくなったわたしを観念したと見た父が、アリシアに向きます。


「さ、ミリセントの魔力が空になるには、夜まで掛かっても終わらないだろうからね。大人しくなっている今の内に、ミリセントも一緒にアリシア君の話しを聞こうか」


 その状況を呆気に取られながら見ていたアリシアでしたが、父の声で我に返るとわたしを見ながら「なるほど。この山はこうやってミリーの魔力に染まっていったのか……」などと呑気なことをいって妙に感心しています。


 ───そんなことある訳ないじゃないですかー! バカこといってないで助けて下さいよ!

 

 しかしそんな願いも虚しく、笑いながら「ごめんね、ミリー」一応は誤りはしたものの、悪びれることなく、今までに起こした学園での不手際を、みんなの前で詳細に話し始めてしまいました。


 話しが終わる頃には父は項垂れてしまい、弟妹達はわたしを怖がり距離を置く者、目を輝かせて見る者と反応は異なりましたが、総じて出て来た言葉はどれも大体同じものでした。


『どこに行っても、変わらないんだ……』


 顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまい、この時ばかりは魔法が使えないのを悔やみました。


 ───穴を掘って入りたいですよー!

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