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其の57 山中の国境にて

「それにしても、もっとワイルド……いやいや、えーっと、野趣溢れた食事になるのかと思ってたんだけどね、これはまた豪勢だね……」


 今日のお昼ご飯は、魚や蛇は串焼きですが、鳥を途中で採取したキノコや野草などと一緒に煮ています。お鍋も食器も土魔法で作らせました。食後の甘味までも揃っており、割合しっかりとした食事になっています。


「この子達がいるから、ここまでちゃんと出来るのですよ」

「みんなスゴイね!」


 わたしは土魔法はおろか魔法全般使えません。調理はそれなりに出来ますが、一人で山に入っている時の食事なんてとても人に見せられるものではありません。


 ……そこ! 静かに笑っているアンナさま、聞こえてますよ? 後で覚えておきなさいね。


 自分のことは置いておいても、身内を褒められれば嬉しくなるものです。


「どうです。うちの子達、中々やるででしょう?」


 臆面もなく弟妹達を褒めますと、みんな笑顔になりました。

 普段は生意気ですが、やっぱり弟妹は可愛らしいものですね。


 ……ん? それはわたしが食べようとした魚ですよ? ……まぁ許しましょう。しかしそのアケビはわたしの分です! 譲りません!


 和気あいあいとしながらも、いつもながらの闘う食事をしていると、弟妹達の中で一番耳の良いミスティが「ねーミリーねぇー、すてガネなってるよー」と教えてくれましたので、慌て一旦食事の手を止めると鐘が鳴り終わる前には無線機の電源を入れることが出来ました。


 ……ふぅ……危ない危ない。スッカリ忘れていました。


「しーきゆーしーきゆー! こちら、えーっとなんだっけ? いちごうき? ミスティ・リモです! どーぞー」


 弟妹達に取られてしまいました。

 正確には操作を教えて使わせています。そう、誰でも使える術具でないと困ります。汎用性のない技術は発展しないですからね。……もちろんそんなことは建前です。あんな目をしてねだられてしまっては、とても断れません。一体どこで覚えてきたのやら。


 ……しかし、みんなちゃんと成長しているのですね……。


 辿々しくも懸命に術具を操作する姿には感動すら覚えます。


 アリシアが、あの子達に使わせて大丈夫? と心配していますが問題ないでしょう。


 自国の王族であるグレイラックや上級貴族辺りが相手では、下手に粗相をしてしまってはこの子達の今後に影響があるかも知れませんが、王都にいる生徒達は忙しい様子で、最近定期交信に参加していません。アラクシア相手なら例え王族といえども反対側の国ですから、今後関係を持つことはないでしょう。それに少々ふざけた所で子供のしたことです。笑って許してくれるはずでしょう。いえ、わたしがそうさせます。


「こ、こちら二号機アラク……です。ど、どうぞ?」

『かんどりょーこー! ほんじつはせいてんなり! どうぞー! クスクス……』

「こちらも感度良好です。……どうぞ」

「アーアー、きこえますか? どうぞー」

「聞こえます。どうぞ」

「クスクス……」


 暫くの間、こちら側は楽しそうに盛り上がっていましたが、アラクシアからの交信は段々と静かになってしまいました。そして長い沈黙の後に悲痛な声が届きます。

 

「……先生方、そこにいらっしゃるのでしょう? そろそろ勘弁して下さいよ! ……どうぞ……」


 笑いながら弟妹達を退けると無線機の前に立ちました。


「申し訳ございません。ミリセントです。わたしの弟妹達が失礼致しました。こちらは現在リモ領とゼミット国の国境付近の山中にいます。魔力層の観測を行う為に来ています。どうぞ」

「ふぅ……みなさんとてもお元気なのですね。ミリセント先生もアリシア先生もお気をつけて。では明日に。どうぞ」

「有難う存じます。ではまた明日」

 

 交信を終了させて電源を落とします。


「本日も無事交信出来ましたね。さ、遊び過ぎて時間を使ってしまいました。早く目的地に向かいましょう」 


 急いで片付けをさせると、ゼミット国との国境に向けて出発しました。







「国境といっても、何もないんだねー」


 アリシアが物珍しそうに辺りを見渡しています。


「人の往来がない所なんてこんなもんですよ」


 今わたし達は木がポツポツとしか生えていない山の山頂付近の、少し開けた所に立っています。目の前に広がる尾根を反対側に下ればゼミット国になりますが、ここを進むには困難な場所になりますのでこの辺りは人が寄り付きません。


「でも、それじゃ物騒なんじゃないの?」


 アリシアは、国境なので柵があったり警備をしている者が常駐しているのを想像していた様です。


「この辺りは地元の者も滅多に近寄りませんよ」

「そうなの? 獣や魔獣とかが出るからとか?」

「ここまで高い所ですと、そう大きなモノは滅多に出ませんから逆にそれは安心です。そうではなく、この辺りは迷いやすいのですよ」


 地場が狂っているのか魔力層が関係しているのかはわかりませんが、霧が深いのも原因でしょう。とにかくよく迷う場所です。気が付いたらいつの間にか越境していたという話しもよく聞きます。その為地元の者もあまり近寄ろうとしません。

 それを知っている弟妹達も、先程の様に勝手にうろつくことはせず、わたし達と離れず大人しく近くに控えています。


「さて、では測定をしましょうか」


 魔力層の測定術具を準備し確認作業に入ります。弟妹達が物珍しそうにしていますが、流石に手を出してきたりはしません。


「あー、思った通りだね」


 上空に広がる魔力層は目の鼻先でした。


「手を伸ばせば届きそうですね」

「これなら魔力層の端はアソコの尾根の地面にあるんじゃない?」

「確認してみましょう」

 

 術具をずらして尾根付近を狙います。


「本当ですね……」


 予想通り、観測結果は尾根付近に魔力層があるとなっていました。


「思った通りの結果になりましたが、どういうことなのでしょう?」

「ねー?」


 その後も位置を変えつつ何度か確認をしてみましたが、結果として、国境線とされる場所が魔力層の最終地点になりました。


 これで一先ず検証は終えたのですが、そこでアリシアがポツリと一言。


「反対側って、どうなってるのかな?」

「ゼミット国側ですか?」


 少し考えましたがわかりません。それにはわたしも興味があります。


「なら、確認してみましょうか」

「え? いいの?」

「尾根をちょっと越えるくらいでしたら問題ありませんよ。それにこの辺りはもともとゼミット国だったらしいですよ? それもあってか、向こうの国にある近くの集落の者とウチの領とはよく行き来しています。顔見知りも多いのですよ。万が一、こんな所に来るゼミット国の者と鉢合わせしても問題になりません」


 それもあってここは飛び出している様な地域になっているのです。そもそもこんな田舎では国境はあってない様なもの。むしろ自国の王都へ行く方が大変なのですから。


 しかし場所的に尾根になりますから危険なのには違いありません。弟妹達を連れて慎重に尾根の稜線に出ると、手近な所を探してゼミット国側に入りました。


「ここらで確認してみましょう」


 一先ず上空に向けて確認をした所……。


「……中々反応がありませんね……」


 出力を増やしたり周波数帯を変えたりと、調整をしながら何度か確認した所、やっと百三十里ほど上空で魔力層の確認が取れました。


「随分と遠いですね……」

「じゃあ今度はコッチ側を……」


 次にその場からラミ王国側に照射してみると、先程と同じく直ぐそこに魔力層があることの確認が取れました。


「コレはどういったことですかね?」

「ラミ王国が特別なんじゃない?」

「そうなのでしょうか?」


(お二人とも、何か思い当たる節はありませんか?)

(……)

(さぁ?)


 アンナは黙りでした。寝ているのですかね?


「取り敢えず確認は取れましたね」

「そーだね。しかしこれじゃルトア王国もこことおんなじだったとしたら、そりゃ中継機置かなきゃ交信出来ないはずよね」

「そうですね。では戻りましょう」

 

 みんなで尾根の稜線に戻ったのですが、そこでアリシアが難しい顔で立ち止まりました。


「どうされましたか?」

「いやほら、測定の結果が正しければ、今アタシ達は魔力層の真っただ中にいる訳じゃない? なんか感じる?」

「そういえばそうですね」


 わたしも立ち止まると何か感じないか確認をしてみますが、特に何も感じません。


「わたしは特に何も感じませんが……。みんなは何か感じますか?」


 背後にいる弟妹達に聞いてみましたが、みな共に首を振っています。


「アリシアも、何も感じないのですよね?」

「そーなのよ。それがかえって不思議じゃない?」


 何が見える訳でも匂いもしません。濃い霧の水っぽい匂いと、山特有の青臭い匂いだけです。

 共に暫く考え込いましたが全くわかりませんでした。

 

 結果として、我々の身体の中には魔力があるから、それ故に魔力の塊である魔力層の同調してしまい何も感じないのでは? と、わたしは結論付けをして、いつまでもその場から動き出そうとしないアリシアを引っ張るとその場を後にしました。

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