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其の56 魔力層の捜査へ

 翌日、今日は朝から国境付近にまで行き、魔力層の測定をする予定でした。


 王都から離れれば離れる程に魔力層が下がっていくのならば、国境付近では完全に地面まで下りてしまっているのでは? そうなるとルトア王国から直接交信が出来なかったのもそれが原因?


 その検証の為です。


 ここはラミ王国の北側に隣接するゼミット国との国境地帯になりますが、隣接するといってもそこは険しい山や森ばかり。この領と隣国の集落とはかなり離れている為、互いに行き来するには迂回せざるを得なく大人の足でも何日も掛かります。しかし国境のある山に直接登って行くのであれば日帰りでも行って帰ってこれる距離なのですが……。


 その準備の最中に母から突然申し渡されました。


「えぇ? この子達も連れて行けと仰るのですか?」

「そうよ」

「遊びに行くわけではないのですが……」

「山に入るんでしょ? ならこの子達、どうせ放っておいても勝手に行くんだから、だったら最初から連れていきなさい」


 弟妹達は母の後ろに既に控えていて、わたしを見ながらニヤニヤとしています。


 ……コイツらは……。


 小憎たらしくなり思わず睨み付けますが、目を逸らされました。


「わかりました。仕方がありませんね。日暮れまでには帰る予定ですが、遅くなったらこの子達は先に帰らせますよ」

「わかったわ。じゃあよろしくね」


 それだけいうと、母は忙しそうに部屋を出ていってしまいました。


「ねぇミリー、大丈夫なの?」

「そうですね。仕事の邪魔をされなければ良いのですが……」


 困りましたね、とため息を吐くと、軽く目を見開き驚いています。なぜでしょうね?


 ともかく頼まれたからには仕方がありません。弟妹達に向き直し腰に手をやります。


「メイ、ミンダ、ミスティ、ベルト、ビックス。良いですか? わたし達は遊びに行くのではなく仕事に行くのです。邪魔をしたらただじゃおきませんからね!」


 睨み付けると、みな素直に頷きました。


「宜しい。では準備をして家の前にすぐ集合です。解散!」


 慌てて方々に散っていきました。

 その様子を見てアリシアが「……はぁ……よく教育されてるね……」と感心していますが、姉の立場なら当然ではないのでしょうか?


「それよりわたし達も準備を急ぎましょう。日の入りも早くなっていますからね」


 とはいえ持って行く物はそう多くはありません。


「……無線機に測定器、アンテナと地図と筆記用具……こんなものでしょうか?」

「え……っと、ミリー。そんなんで大丈夫? 今日行く場所って、結構山深い所なのよね?」

「そうですね。確かに嵩張る物ばかりですが、これ位なら手分けして持てば大丈夫でしょう」


 心の中で小型化を推奨したアラクスルに少しばかり感謝しました。


「いやそうじゃなくって、それもあるけど、そんなトコ行くのだったらそれなりな準備が必要なんじゃない?」

「山といってもウチにとっては庭みたいなものですよ。本格的な装備は必要ありません」

「そうなの? でも帰りが夕方になるんなら、他にも色々と……。ほら、お昼とかも用意しなくっちゃいけないんじゃない?」

「あぁ、そうでした。久々でしたから忘れていましたよ」


 ミリーは相変わらずうっかりしてるなぁ、と笑いながらアリシアが台所に取りに行ってくれましたが、戻って来た時に不思議そうな顔をしていました。


「どうされましたか?」

「台所にミアお姉さんがいたから、アタシ達のお昼を頼んだんだけど……コレ渡された……」

「どれどれ……」


 アリシアから袋を受け取り中身を確認します。


「問題ないですね。ちゃんと揃ってます。では行きましょうか。あの子達も既に揃っていますよ」

 

 窓から見れば家の前で綺麗に整列しています。


 釈然としない顔をしたアリシアを引っ張ると、弟妹達を引き連れ出発しました。






「ね、ねぇミリー! ホントにコレ、道あってるの?」

「大丈夫ですよ。ほら、あそこに稜線が見えていますし、太陽があそこです。こんな所で迷いませんよ」


 草が生い茂っていて見通しが悪いのは最近人が通っていないからでしょう。


 年長のメイとベルトの二人が山刀を振るい、草を刈りながら道を作って進みます。その後を他の弟妹達、最後尾をわたし達が歩いているのですが……。


「あれ? ミ、ミリー! なんかこの子達、足りなくない?」

「あぁ、気にしなくても大丈夫ですよ。直ぐに戻って来ます」


 他の子達は時折道を外れては採取です。木に登る者もいますが、「ワッ! 危ない!」アリシアがそれを見つけて騒いでいますが問題ありません。


「ね、ねぇ! あんなことさせていいの?」

「登らなければ取れないではないですか」

「いや、落ちでもしたら……」

「山に入って怪我をするのは自己責任です。それにあの子は風魔法が得意ですからね大丈夫ですよ」


 わたし達の視線に気付くと、末っ子のミスティが得意げに木の上から飛び降り、華麗に舞いながらわたし達の元まで降りてきました。


「みて! みりねぇ、たくさんあった!」

「取り過ぎていませんか? あぁ、これは甘そうですね。良いのを選びました」


 頭を撫でて褒めると満面の笑みを浮かべ、収穫物をビックスの背負っている籠の中にしまうと、またどこかに行ってしまいました。


「みんな、すごいんだね……」

「アリシアもやりますか?」


 その言葉にビックスが弓と矢を取り出し、嬉しそうにアリシアに渡します。


「おねーちゃん、コレ得意なんでしょ?」


 渡された弓矢をみて困っていました。


「……でも勝手にとっちゃいけないんじゃ……」

「自分達で食べる分には構いませんよ。みんなやっています。それにここはウチの領地ですからね。父に代わって許可しましょう」


 それを聞くと嬉しそうに弓を構え、木の上にいた鳥を仕留めると風魔法で回収し、それを掲げてご満悦です。


「ミリーのトコって楽しいね!」

「そうですか? ならリモ家に養女にきます? わたしの妹になりますけどね」


 ……それでもいいかも! といっていますが、カーティス家のご両親が聞いたら悲しみますよ!







 暫く山路を行くと開けた場所に着きました。


「さ、少し早いですがここで一旦お昼にしましょう。それに今日の定時連絡はまだやっていませんでしたからね」


 午前中の四ツの頃は山路を歩いていましたから出来ませんでした。なので予備の時間の一つ目、お昼の九ツには交信をしておきたいと思います。


 わたしとアリシアでアンテナを建てたり無線機の準備をしている際、弟妹達は昼食の準備です。


「でも、お昼って?」

「ミア姐さんに渡されたではないですか」

「……コレ、だよね?」


 袋の中身は調味料と包丁です。


「まさか……」


 先程までビックスが背負っていた籠に視線を移して驚いています。


「違いますよ。あれだけでは足りませんからね」

「え?」

「今準備させましょう。メイ! ベルト! 魔石の回収と下拵えを!」

『はい!』


 二人は飛んでくると籠の中に閉まっていた先程アリシアが仕留めた鳥や、道を切り開く際に一緒に仕留めた蛇などを取り出します。


「えぇ! コ、コレどうするの? 食べるの?」

「もちろん食べもしますが、先ずは下処理と一緒に魔石の回収です」


 二人は慣れた手つきで羽をむしったり皮を剥いだりしながら魔石も回収し、それをわたしに渡します。


「ソレ、どうするの?」

「ここは丁度近くに川があるのですよ。一緒に来ますか?」


 あたしもやりたいというミンダも連れて、三人で川に向かいました。





「コツは限界値を見極めることですね」


 川岸でアリシアとミンダに説明しながら手本を見せます。


「手始めにこの小さい、蛇の魔石を使いますが、小さいといっても込めた魔力量によっては怪我をしますので気を付けて下さいね。込める時は一気にやりませんと、魔石がもろくなり投げる前に破裂してしまいますよ」


 手のひらに小さな魔石を乗せ、二人に見えるように魔力を込めると、直ぐにそれを川の上流に投げ込みました。


「ボン!」


 すぐに軽い破裂音と共に水柱が立ち、暫くすると魚が浮いてきます。


「アリシア、あれを風魔法で回収して下さい」

「う、うん」


 獲れた魚は五匹でした。


「まぁまぁですね。ミンダ、アリシア、やってみますか?」

「やるーやるー!」

「じゃ、アタシも!」

 

 蛇の魔石を共に二個ずつ渡し、ミンダは二回とも水柱を立てることは出来ましたが、岸に近過ぎた為釣果は二匹。アリシアは一つ目を恐る恐る魔力を込めた為、川に投げ入れる前に破裂してしまい、二回目では成功はしましたが、先程わたしが投げ入れた所だった為、釣果は一匹。わたしが採ったのを含めると合計八匹です。これでは全然足りません。


「この鳥の魔石は蛇のよりも大きいですから、最後にわたしが使いますね」


 更に少し上流へと行くと、川底の深い場所を見極め投げ込みます。すると先程よりも大きい音と共に水柱が立ち、釣果は十数匹程でした。


「これならみんなの分を賄えますね。急いで回収して戻りましょうか」


 はしゃぐミンダと興奮気味のアリシアに、取りこぼしのない様注意します。


「こんな魔石の使い方があるだなんて……」

「あ、そうそう忘れていました。このやり方は他所でやったら怒られると思いますから、ここ以外でやってはいけませんよ」


 それを聞き、物凄く残念そうな顔をして「ホントにココの子になろうかしら……」などとぶつぶつ呟いています。


 ……やめて下さいね!

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