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其の54 遠征

 思い掛けず時間が取れました。丁度良い機会ですので魔力層の確認の為に出掛けることにしましょう。


「アリシア、どこに行きましょうか?」


 ラマ王国の地図を開き相談し合います。


「そーねー。ちゃんと検証するならアラクの辿った道を行くのがいーんだろうけど、ソッチはあの子がここに戻ってきて、また戻る時にやらせればいーしね」


 年内には学園に戻る予定と聞いていますが、いずれまた戻るのでしょうからその時任せることにしました。


「だからルトア王国と真逆の方がいいけど……。ん〜コレ、ココなんてどう? このすんごい外れて飛び出してるトコ。ここからだとケッコー遠いけど。……あれ? なんか聞いたことある地名よね?」

 

 彼女が指差す場所は、南方にあるルトア王国とは真逆の北部にあるラミ王国の外れも外れ、半島の様に飛び出している地区でした。


「……そこはわたしの実家がある領地、リモですよ」

「あ! そうそう、そうだった。ならココにしようよ!」


 本来ならば王都を中心に螺旋を描きながら検証するのが適しているのでしょうが、それをするには時間がかかり過ぎます。その為真っすぐ目的地に向かいながら確認しながら進む予定ですが、その検証をするには距離がある方が良いのだと、ついでにわたしも里帰りも出来るから丁度良いのでは? アリシアが乗り気です。


 確かに学園に来てから帰省していません。

 年末は雪深い所ですから断念していましたし、来年卒業してからも時間が取れるかどうかもわかりません。卒業後、他の兄弟の様に領地に戻る予定はないのですから。


「そうですね。いくら遠いといえども、流石に往復ニ月も掛かりませんし、丁度良いですね」


 善は急げで、翌日には準備をしながら各所に申請を出すと、更にその翌日には出発しました。






「馬車の旅もオツなものだけど、もう少し乗り心地が良くてスピードがあればねー」

「貴女の知識で何か良さそうな物は無いのですか?」

「そーねー。車とか色々あるけど、内燃機関かー。ちょっと大変よねー。蒸気から始めるの? それとも魔力? どっちにしてもそんな大きな物、個人でやるなんて無理よ」

「ほほう。また聞いたことが無い単語が出てきましたが、それはいったいなんでしょう?」

「あー、アタシもソッチ系はあんまり詳しく無いけどねー……」


 学園から馬車と御者を手配して貰い、必要な機材を載せるとアリシアと共に我が実家、リモ領に向けて移動中です。


 長い旅路になりましたが、道中その都度魔力層の測定をしたり、定時連絡で交信もしていましたし、アリシアと雑談をしている内にあっという間に時間は過ぎ、かつて学園にきた時よりも短く感じる内にリモ領内へと入りました。


「アレ? もう入った? 関所は?」

「ここにはそんな物はありませんよ」


 これでも一応は学園の教師になりますから審査もすぐ下り、各領を通過する為の手形は持ち合わせているのですが、わたしの実家であるリモ領ではそんな物は必要ありません。


「ここは犯罪者さえも近寄らない土地として有名なのです」

「ん〜随分と……のどかなトコなのねー」

「田舎といって下さって構いませんよ」


 見渡す限り牧草地帯や森ばかりです。人家なんて見えません。御者も本当にこの道を進んで良いのか不安がっています。


 暫く行くと人の手が入った田畑が出てきて、人家もちらほら見えてきました。


「そろそろ着きますよ。あの集落を超えた辺りがわたしの家です」


 集落といっても人家は広範囲に渡ってまばら。そこを抜けると、屋敷とはいえないが他よりは多少大きな家に辿り着きます。


「ここです。先に手紙は出してあるはずなのですが……」

 

 迎えを期待していた訳ではありませんが、なければないで少し悲しいものです。


 御者に玄関先へ荷物を下ろしてもらい、ここらで唯一の宿の場所を伝えると、戻る日にちの確認をし、お礼をいって馬車を見送ります。


 さて、家の中にはいりますかと玄関に近づいたら、突然扉が開き母が現れました。


「あら、ミリーじゃない。その方はどなた? 丁度よかった。人手が足りないのよ」


 数年ぶりの再会にも関わらず平然とした態度で話し掛けてきます。

 その背後から父も現れると、わたしのことなど気にもせずアリシアのことを繁々と見つめ「ふむ。君は弓や魔法を使えるかな?」突然のことに驚きつつもアリシアが頷くと「よし! 今から害獣駆除に行かなくっちゃならんのだ。着いてきなさい」そのまま連れ去られてしまいました。


 その状況に呆然としていると「ミリーはこっちよ」久々にあったのに挨拶もなく、着替えもしないままに牛舎に連れて行かれ、お産の手伝いをされてしまいました。


 ……久々の再会なのですから、もうちょっとこう、何かないのですか?


 昼前には家に着いたはずでしたが、その後も雑用に追われ、落ち着けたのは六ツの鐘も鳴り終えて辺りが暗くなってきてからでした。


「いやー、君は中々の腕前だね」

「恐縮です!」

「いやほんと、都会っ子とは思えないよ!」


 ドロドロに汚れた身体をお風呂で洗い食堂に着くと、既にアリシアと父、恐らく一緒に行っていたのであろう兄達が、先程の成果を褒め合いながら盛り上がっていました。

 

「お父さま。アリシアはあまりお酒が強くないのですから、呑ませ過ぎないで下さいね」

「おぉ、そういえばミリーもいたか。お帰り」

「そういや久しぶりに見たね。どこに隠れてた?」

「コイツは小さいから見えなかっただけじゃない?」

「違いない!」


 既に出来上がっている彼等に注意は無駄の様です。背伸びをして一人一人頭をはたくとそのまま台所にいる母親の元に向かいました。


「お母さま、改めてただいま帰りました。お久しぶりです」

「あぁ、お帰り。そーそー、アンタも帰って来るなら手紙の一つも寄越しなさいよ」

「出る前には出したのですが……」

「そうかい? ならその内届くんじゃない?」


 流石田舎です。手紙よりも先に着いてしまいました。


「それであの娘が、以前手紙にあった同室の娘かい?」

「そうです。アリシアといいます」

「随分と達者な娘じゃないか。父さん達が褒めてたよ」


 本来、畑や家畜を荒らす害獣駆除は猟師の仕事ですが、そもそも人が少なく常に人手が足りない状況なので、手が空いている男衆が領主である父の元退治に参加するのがこの辺りの習わしです。それなのに会って直ぐのアリシアまで巻き込んでしまうとは……。


「また領民が減っているのですか?」

「こんな田舎じゃ増えないからね、上から順に減ってく一方さ。それよりコッチの野菜、皮むいとくれ」

「はい」


 いわれたままに無心に野菜の皮を剥いていると、いつの間にか弟妹達もやって来ていて一緒に作業していました。


「あれ? ミリー、いつの間にいたの?」

「ちっちゃいからわかんなかった!」

「だれ? ミリーって?」


 手には包丁を持っているので頭をはたくことはしませんでしたが、ジロリと睨み付けます。


「そんなことをいう子には、お土産はなしですからね!」

「ケチー!」

「ママー、ミリーがいじめるよー」

「アンタらもほどほどにしときなさい!」


 ……寮生活も賑やかで楽しいものでしたが、ここはまた違った騒がしさと暖かみがありますね。


 この喧騒に帰ってきたのだと実感してほっこりとした気分になり、思わず笑みが漏れました。

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