其の53 動作確認
無線機の術具は合計三台作成しました。
今日は三手に別れて学園と王都の郊外での交信確認です。
「しかし、この通信を始める前の、シーキューシーキューというのは、なんなのでしょうか?」
「さぁ? なんでしょうね?」
タレスが不思議そうにしていますがわたしも知りません。
アリシアが様式美だといって譲りませんでした。その後に続く、こーるさいん? とかいう長ったらしい呪文の様なものについてはやめさせましたが。
「そろそろ鐘がなりますね。時間です。始めましょう。電源を入れて下さい」
「はい」
タレスとわたしが組み、アリシアとナイディックが組んでそれぞれ反対側の郊外に来ています。王族二人は中央にあたる学園で待機。彼等が王都内から出るには簡単にはいきませんので、二人共出掛けたがっていましたがお留守番です。
「シーキューシーキュー、こちら遠征班の一号機、タレスです。どうぞ」
「こちら学園内二号機、アラクだ。感度良好。どうぞ」
「こちら遠征班三号機、ナイディック。こちらも感度良好です。どうぞ」
三台とも問題なく交信が出来ました。
無線機からアラクスルの喜びの声が聞こえて来ます。このまま暫く交信を繰り返し、中距離での交信実験は成功を持って終わりました。
今回は幸い日帰りの距離ですから容易いのですが、問題は長距離です。
「周波数帯も出力も性能的には問題ないはずですが、こればかりは実際に試してみないことには……」
アリシアが難しそうな顔をしています。
学園に戻り生徒達を集めてみんなで相談していましたが、するとアラクスルが手を挙げ発言の許可を求めて来ました。
「その件なのですが……」
彼は一旦この成果を持って国に戻りたい。更にその道中にも交信を重ねその成果を確認したいのだといい出しました。
わたし達にとっては願ってもない申し出ですが、彼は同盟国とはいえ他国の者です。更に王族。これは合同での研究になりますが我が国で行われた研究になりますので、国家間の問題に発展しないものかと不安になりましたが、クラウディアが頷いていますので問題はないのでしょう。
「わかりました。では、それでお願い致します」
わたしが了承するとアリシアも頷きます。
彼には予備の部品やら念の為の中継機を持ち出発しました。
後は逐次交信の確認を取るだけなのですが、「先生方、少々所用が出来ましたので、今日はここで」度々クラウディア達が席を外す様になりました。何やら王族案件で忙しそうです。
残った者とで今回の研究についての報告書の作成や、残りの無線機の整備をしながらアラクスルからの交信を受け取っていましたが、数日後、とうとうルトア王国との国境まで辿り着きました。
「シーキューシーキュー、こちら二号機アラクです。定時連絡。無事国境に辿り着きました。聞こえますか? どうぞ」
「こちら学園内一号機ミリセントです。感度良好。どうぞ」
「こちらも鮮明です。現在天候は晴天。これからルトア王国に入り、また明日同時刻に交信します。どうぞ」
「了解です。お待ちしております」
今日も鮮明な音声が届きました。
「数百里離れていても全く問題ありませんね。調子は上々の様です」
「いやー、電波と違って魔力ってスゴイねー!」
昨日から生徒は三人共講義に来ていませんので通常運転のアリシアです。
スキップゾーンがとかどうとか周波数がどうしたとかブツブツいいながら考え込んでいますが、問題なく更新出来きていることに共に安堵し喜びます。
「これでこの研究も一段落ですね」
今年もそう残っていません。サッサと本命である裏の研究に移りたいものです。幸いほかの生徒三人も、何かと忙しそうにしていて講義室に来ていません。丁度良い機会ですから、明日のアラクスルからの交信を持ってこの研究は終了としましょうかとアリシアと話していたのですが、翌日アラクスルからの定期連絡は届きませんでした。
明けて更に翌日。
「シーキューシーキュー、こちら二号機アラクです。聞こえてますか? どうぞ」
「こちら学園内一号機ミリセントです。聴こえてます。昨日はどうされましたか? どうぞ」
「あぁ、やっと繋がりました。実はルトア王国から更新したのですが、全く反応がなかったものですから。念の為の国境近くでも試しましたが全くダメでした。今は国境を渡りラミ王国内の国境付近にいます。どうぞ」
「そうなのですか? 昨日も同時刻と予備の時刻にも待機していましたが、更新が無く心配していました。術具の故障ではありませんよね? どうぞ」
「はい。今も更新出来ていることからもそれはないと思います。思いあたることはありますか? どうぞ」
「これからアリシアと相談して、再度連絡致しますのでそのまま待機をお願い致します。どうぞ」
「了解しました」
一旦交信を終えるとアリシアと話し合います。
「これはどうしたことでしょうね? ルトア王国に入った途端交信が出来なくなった様なことをいっていますが……」
暫しアリシアは考え込んでいましたが、「……もしかして、魔力層の関係かな?」と。しかし確認しようにも今回アラクスルには魔力層の観測装置は持たせていません。何せ改良して作った物は一つしかありませんからね。
「例えそうだとしても、現状では確認のしようがありませんね。どうしますか?」
「あの子、無線機の予備の部品にナニを持たせていたっけ?」
「出力を上げる気ですか? 交換用の魔石しかありませんからその場で彼に出来るかどうか……。後は念の為の中継機ですかね」
「なら、とりあえずその中継機を国境ギリギリのトコに置けないかな? 予想通りならそれで向こうの国からも交信出来ると思うのよ」
「わかりました。連絡してみましょう」
本来国境にそんな怪しげな術具を置くことは難しいのでしょうが、流石王族です。あっという間に許可を取り、ルトア王国側寄りですが境目に中継機を置いて、再度ルトア王国側から更新してみたところ、あっさりと繋がりました。
「先生方、これは一体どういうことなのでしょう? どうぞ」
「まだ憶測の範囲ですが、恐らく魔力層の関係になるかと思われます。後程こちらでも確認してみますが、アラクスルは現状のまま、ルトア王国内にて、出来るだけ広範囲に動き定時連絡をしながら距離の確認作業をお願いします。どうぞ」
「わかりました。ではまた明日」
一体術具の電源を落とします。
「さてアリシア、これはどうしたものでしょ?」
アラクスルの求める性能はルトア王国とラミ王国間での交信です。性能的には問題がないとしても、現状中継機を置かなければ出来ません。
ここでそんなものだと放り投げるのは簡単ですが、一研究職としてはモヤモヤとしてしまいます。
「ん〜、実はこの前、郊外で通信の確認をしたときにね、ついでに魔力層の測定もしたんだけど……」
学園内、正確には王都の中心部で測定した時よりも、若干低かったのだそうです。
「いやほら、時期や天候で変化があるかも知れないし、そもそもそれって今の研究じゃないでしょ? だからその時は不思議ねって思っただけで忘れてた。でも今彼の話を聞いて、ちょっと思い当たったのよね……」
アリシア曰く、魔力層は上空に並行して伸びているのではなく、場所によっては地上からの距離がまちまちなのでは? と考えているらしいのです。今回もそれが原因でルトア王国からの交信が出来なかったのかと。
「しかし、それを確認するのは骨ですよ」
「だよねー」
色々持たせたアラクスルの荷物の中に、測定装置も入れておけば学園に戻る際に確認の作業をさせれたのにとも思いましたが、今となっては後の祭りです。
しかしそんな悩みもすぐに解決しました。
「アリシア先生、ミリセント先生、大変申し訳ありませんが、私を含め、タレスとナイディックは暫くの間講義に出席出来ません」
最近は三人共も忙しそうにしており、殆ど講義に顔を出していませんでしたから今更だとは思いましだが、一応理由は聞いておきましょう。
「どうされたのですか?」
「実は……」
例の王命案件である残魔術具の件でした。
「そういえば、使用している気配がありませんでしたね」
「お恥ずかしい話し、何を確認するか揉めておりまして……」
クラウディアがそういうのでしたら、王族と教辺りが揉めていたのでしょう。どうやらそれがやっと決まったらしく、暫くの間三人が借り出されるとのことです。
「それは構いませんが、どの位掛かるのでしょうか?」
「凡そ二月程は……」
その間アリシアに会えないのは非常に心苦しいだのといっていますが、それは聞かなかったことにしてアリシアと目を合わせます。
……これは丁度良い機会なのではないでしょうか?
わたし達の身分は学生でもありますが教師です。
しかし学生の身分は既に終えているといっても過言ではありません。ならば教師なのですが、これで国に帰っているアラクスルを含めて生徒である四人全てが暫くいなくなります。そうなれば教師業は開店休業。
「わかりました。ならばわたし達も丁度遠征して検証をすることがありますので構いません。その間講義はお休みと致しましょう」
アリシアと共にニコリと三人に笑い掛けた所、クラウディアは明らかに残念そうな顔になってしまい、タレスとナイディックはその様子を致し方なしという顔で見ていました。




