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其の51 研究の再開

「先日はご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございませんでした!」

「醜態を晒してしまった様で面目ございません」


 祝日明け講義室に来た早々、タレスとナイディックに平謝りされてしまいました。


「大丈夫ですよ。気にしていません。それよりも体調は如何ですか?」


 一昨日は食堂でタレスが酔ったのか雰囲気に当てられてしまったのか、何にしてもわたしが聞いてはいけない様なことをつらつらと話していましたので、これ以上は不味いと判断し、みんなの協力の元、タレスに散々呑ませて記憶を曖昧にさせました。ごめんなさいね。

 タレスが酩酊する頃にはアリシアも復活していましたので、デリアの目を盗み風魔法で寮の外まで運ぶと、各々の寮の者を呼び出して連れ帰ってもらったのですが、どうやらその後は二人とも朝までぐっすり。起きてみれば自室にいたので驚いたそうです。


 目論見通り食堂でのことはよく覚えていない様子で、「何か粗相をしていませんでしたか?」二人とも心配しています。昨日は一日動けなかったそうですが、今は体調も戻ったというのに顔が真っ青です。


「お二人とも、随分と楽しそうにしていましたし、寮のみんなも喜んでいましたよ」


 事実、昨日の夕方にタレスの姉マダリンからお詫びとお礼という名目で、寮の全ての者に対して高価そうなお菓子やら化粧品の詰め合わせが送られてきてみなさん大喜び。もちろん寮監や食堂の職員にもです。昨日の今日でその如才なさには驚きを通り越して呆れてしまいましたよ。


 是非また来て欲しいといっていた旨を伝えると、二人とも微妙そうな顔になってしまいました。無理もありませんか。

 しかしそんな彼等の表情よりも気になる視線があります。グレイラットとアラクスルの二人です。


 二人とも黙ってわたし達の会話に耳を傾けていました。流石共に育ちの良い王族です。口を挟む様な無粋なことはしませんでしたがその目は「羨ましい!」と訴えています。


 ……王族なのですから、別にウチの寮の食堂なぞ珍しくないと思うのですけれどね。


「わかりました。現在取り掛かっている術具が完成したあかつきには、そのお祝いに、お二人も我が寮の食堂にご招待致しましょう」


 二人とも静かに喜び合っている姿を見て、少しばかり心が痛みました。


 ……いくらなんでも王族をあんな場に連れて行くのは不敬にあたりそうですし、そもそも最終的な目標としている術具完成は年内には終わらない予定なのですよね。


 心の中で一旦謝ると気持ちを切り替えアリシアと共に四人に向かいます。


「では、先だっての研究成果を元に次の実験に入ります。アリシア、説目をお願いしますね」







 見通し距離による直接波の単純な送受信については恙なく成功しました。ここまで来れば作業も大詰めです。


 今回は講義室の端から端に術具を置き実験です。


「やった! モールス信号が出来た!」


 その結果に一人喜ぶアリシアですが、生徒達はポカンとしています。


 わたしは事前に聞いていましたが、どうやらその聞き慣れない単語は人の名前だそうです。みなさんそこを気にしてはいけません。


「しかし、このピーピー音が鳴るだけで成功なのですか?……」


 アラクスルが渋い顔をしています。彼は通話具の様に人の声が聞こえるのだと思っていたのでしょう。


「これはその前の前の段階の確認作業と考えて頂いも構いません。ですが、これだけでも互いに意思の疎通は出来るのですよ?」


 得意げなアリシアが予め書いていた紙をみんなに配ります。


「これはなんですか?」

「モールス符号というものです。これからすぐに次の段階に進みますのであまり意味がないかも知れませんが、覚えておいて損はないものですよ」


 このピーピー鳴る音を短い物長い物の二進に分けることにより、イロハの一文字ずつに割り当て言葉にするものです。

 先日「いよいよ明日完成するから!」とアリシア徹夜で書いていました。何やら思い入れがある様ですね。


 ……アラクスル、アリシアに渡されたからといって、そんなに熱心に覚えようとしないでも大丈夫ですよ。


 得意げに説明するアリシアを他所にサッサと次の段階に進めます。


 これで魔力波を飛ばして受信させることは出来ました。

 そこに音声を乗せるには、鉱物魔石を使い術式を乗せて既存の通話具を改良するだけでしたので、そう時間を要せずに出来ました。


 アリシアはもう少しモールス信号の段階をやりたがっていましたが、この音声を飛ばす結果には、アラクスル筆頭に生徒みんなが喜んでいます。やはりわかりやすい目に見える結果は必要ですね。


「しかし、これは互いにしか話せないのですね」


 試しにタレスとナイディックが使ってみていますが、通話具の様には使えない。これでは風魔法と一緒だと少し不満そうにしています。


「そうですね。確かに原状同じ周波数帯を使いますので同時には無理です。同時通話型無線機も出来なくはないですが、そうなると距離は更に短くなるし複雑な構造になってしまうのですよね……。携帯電話の様にするとなると中継基地が必要となるし……」


 アリシアが一人でブツブツといっていますが、アラクスルは目を輝かせて喜んでいます。


「これはすごい! 正に望んでいた物です!」


 他の三人に対して、これが如何に素晴らしいのか熱演しています。

 確かに風魔法が使えない者にとってはとても有意義な術具ですが、しかしまだまだ問題があります。


「アリシア先生! この術具の有効範囲はどの位なのでしょう!」


 アラクスルが「学園の外からでも使えますか? それとも我が国まで届くのでしょうか?」と期待を込めてアリシアに質問していますが、しかし残念ながら原状では彼の望んだ性能はありません。


「この出力と周波数では、目視出来る範囲内ですかね」


 それなら大声を出せばいいじゃないかと、先程までとは打って変わって肩を落として残念そうなしています。それを三人が慰めていますが微笑ましいものですね。


 ……さて、どうしましょうか……。


 わたしはアリシアと顔を見合わせると数歩下り、小声で話し合います。


「ミリー、どうする?」

「そうですね。ここまでやれば一応の目処が立ちましたが……」


 この研究の本来の目的は、通話具を有線ではなく無線で使用させる術具になりますが、それを本格的に始めると国家事業になってしまいます。そのため続きは卒業してから、国家の研究職に就いてからで良いと考えていました。この研究結果をもってしてもそれなりに評価されることでしょうし。

 既に季節も夏真っ盛り。そろそろ例の裏の研究に取り掛からなければ年内に終わりそうにありません。アリシアは裏の研究を持って本気で無法者を目指すのかは知りませんが、好き勝手に研究出来るのなんて今の内でしょう。わたしも一刻も早く書庫三昧の生活をしなければいけません。何せ命が掛かっていますから。

 

 しかしアラクスルや他の生徒達を見るに、今一消化不良です。


「コレ、もう少し進める?」

「そうですね。せめてある程度の距離で使用出来るまで研究を進めておきましょうか」

「アンテナ作ったり周波数を確認したりしなきゃいけないから色々メンドーなのよねー。それに例の件はどうする? いっそのこと電波にしちゃおっか?」

「それについては以前書庫で文献にあたりました。後でお待ちしますから要相談ですね」

「オッケー」


 二人の密談が終わると、わたしが生徒達の前に進み出ます。


「みなさん。この研究はこれで終わりではありません。次の段階に進みましょう。基本的な構造はこのままで、遠方まで飛ばす作業に入ります」


 アラクスルが明らかにいい顔になり力強く頷きました。

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