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其の48 デンワ術具の作製開始

「さて、早速作成に取り掛かる術具ですが、これはみなさんもご存知の音声通話送受信術具、俗に通話具といわれている物を線を用いずに使用する術具になります。わたし達はそれを『デンワ』」と呼んでいまが、この聴き慣れない言葉はあくまで仮称ですのであまりお気にせず。また最終目標がそこになりますが、最初からそこまで進めるのは難しく思われますので、まず最初に行うことはそれの前の前の段階、出来れば年内にはひとつ前の段階にまで進めたいと存じます」


 アラクスルは事前に知っていた為普通にしていますが、他の三人は不思議そうな顔をしています。

 

 ……魔法を使える者でしたら、あまり意味がありませんからね。


「この術具作成の目的は、魔法を使えない者でも、また風魔法で届けられない遠方でも意思の疎通を可能にすることになります。ではアリシア先生、詳しい説明をお願い致します」


 既にキリッとした態度のアリシアが黒板の前に立ちます。


「この術具は送受信する側の基本的な構造は通話具と変わりませんが、線を使って双方を繋げるのではなく、代わりに送信側が発信する魔力を空間で変化させ受信側がその魔力を検出して受け取る物になりますが……」


 黒板に図式やら数字を書き込み滔々と語り出しました。


 わたしは事前に説明を受けているのでなんとかついて行けますが、生徒達は早くも疑問だらけな顔になってきていました。


「アリシア先生、具体的に空間を魔力が飛ぶ訳ですか? それはどうやって?」


 タレスがみんなの代弁をしてくれました。


「はい。電波は導体に電流が流れることにより周囲に磁場を作り出し、更にその磁場が周囲に電場を作り、それを繰り返しながら空間を伝わっていく波が……」

「コホン。アリシア」

「失礼」


 ……また前の知識が溢れ出ましたね……。


「そうですね。では、貴方方は魔法を行使出来ますよね?」

 

 ……わたしは出来ませんが……。


「魔法を行使するには、妖精を伴い己の魔力を使うことで発動しますが、その際に自身や周りの者が大きな魔法を行使した時、波というか圧を感じたことは御座いますか?」


 みなさん思い当たる節がある様で頷いています。


「それがいわゆる魔力の波になります。魔力を使うと周囲では魔力場が発生しているのです。要はその魔力波を使い送受信を行うものになります」


「ですが先生、それではとても遠方にまで届かないのでは?」


 アラクスルは事前に申請書を見た時、これは良いものだが果たして十分に必要な距離を得られるのかと疑問に思っていたそうです。


「高密度な波長が短い物は周囲の影響も受けやすく確かに距離を稼げませんが、密度が小さく波長が長い物は長距離を進めます。その辺りは魔石に仕込む術式次第ですかね」


 一応は納得したのか頷いています。


「また距離を稼ぐことに関しては次の段階となりますが、その時に強い出力が必要となる他にもう一つ問題があります。これは追々確認しながらの作業となる為、またに致しましょう。では先ずは無線魔信から始めていきますね」


 そういうとアリシアは、黒板に必要な部材や簡単な図を書き出し、生徒はそれを控えると、予め決めてあった役割通りにきびきびと動き出しました。その間わたしとアリシアは術式の見直しです。


「初めの段階では出力はそう要らなさそうですから、鉱物魔石を使用するとして……」

「ホントはさ、コレって電気でやるもんだけど、魔術と魔力でゴリ押しする方がカンタンかもねー」


 生徒がいないとすぐ素が出てきます。


「そういえば後々確認すると仰っていましたが、一体何を確認するのですか?」

「そーそー、それなんだけどね。魔力が光と同じ様にそのエネルギーが一定の空間に存在するなら、魔力波は電波みたいなモノだとして考えれるのよ。それだとしたら魔力波にも波長があるのかな? そもそも電波って波長にもよるけど遠くまで飛ばすのってケッコー難しいのよねー。だからその確認」


 また今一よくわかりませんが、言わんとすることはなんとなく理解しました。


「では、それはどの様に確認するのですか?」

「だからそのための術具を今作ってるのよ」


 そもそも魔力は波ではなく指向性があるのか? それも確認したいそうです。


「電波の場合だけどさ、ほら、地上って真っ直ぐでなくって丸いのは知ってるでしょ?」

「地面が丸いことは常識ですよ」

「コッチの世界も同じで良かった。でね、だから遠くまで電波を飛ばすには、空の上にある電離層ってトコに地面と反射させながら進ませるの」


 黒板に丸い円を二つ描き、その間をジグザグに線を書きました。


「こうやって遠くまで飛ばすのだけどね……これがちょっと問題なのよ」

「そうなのですか? そのデンリソウ? ですか? それに魔力波を反射させる様にすれば良いのでは?」


 魔力ですから魔石を通せば変質させることも可能でしょう。


「ん〜そもそもこの世界って電離層があるのかな? 地上に大気があるし、宇宙もある様だから、あってもおかしくないんだけどねー」

「それを確認するのですか?」

「それもそーだけど、空にはなんか魔力の層みたいなのがあるらしいじゃない」

「そうなのですか?」


 それは初耳でした。


 例の状態保存の魔術を探している時、それらしき文献を見掛けたとのことです。それに夢中になってたからもあって、例の魔術を探すのが疎かになってしまったと笑っています。


「だからね、それがどんな魔力の波長が反射するのか、どの位の距離にあるのかとか、それも確認しないとねー」


 ……これはまた思ったよりも色々とやることが多いですね。


 ともあれ、第一段階である魔力波を放出する送信機とそれを受け取る受信機自体は割合すぐに完成しました。アリシアは完璧を期す為に測定器も作りたがっていましたが、時間と金銭の節約の為にも既存の物を使わせます。






 計器と睨めっこしているのはタレスです。


「先生方、やはり仰った通りの結果ですね」

「どれどれ……」


 タレスが書いた紙を受け取るとアリシアと共に確認します。


「確かにアリシアの説の通りに、魔力波は指向性があるモノではなく波でしたね」

「そうですね。これで一応魔力波の特性についての確認が取れました。次の段階に移れます」


 ……やはり人手があると違いますね。思ったより早く終わりました。暑い中、術具を持って走り回ったみなさん、ご苦労様でした。


「ではアリシア。片付けの指示はわたしがやっておきますので、頑張って下さいませ」

「……」


 ……そんな恨めしい目で見られても困りますよ……。






 今日は講義室を出て外で実験をしています。


 今回の実験には、ある程度の広さと他の魔力の干渉が少ない場所が必要なのですが、それに合致する所となると広い学園内でもそうはありません。

 みんなで探した結果、「条件付きですが、ありました!」アラクスルが見つけてきてくれました。


「良くやりました。どこですか?」

「はい!ミリセント先生、闘技場です」


 確かにそこでしたら、だだっ広い場所を確保できる上に人を排除すれば余計な魔力の干渉はありません。


「成程。確かにそこならば良さそうですね。しかしよく貸してくれましたね?」


 闘技場は文字通り闘う場所になりますが、普段から剣術、体術といった体育会系の講義が使用しており、そこに魔法の講義でも使うことがある為、常に使用中の人気な場所です。

 なので、「まさか権力を笠に着にきて無理やり……」と睨み付けたのですが、「いえいえ! 違いますよ!」大袈裟に首を振ってそれを否定しました。


「剣術講義の教師が、条件次第では割り当てられた時間を貸してくれると。また人手も必要ならば出すと仰っていたのです」

 

 担当教師の許可の元、正規の手続きを踏んでいるのでしたら問題ありません。しかし……。


「その条件とはなんなのですか?」

「少しばかりアリシア先生にご活躍して頂くだけです」

 

 爽やかな笑顔でそういい切りました。




 

 そんな訳でアリシアを人身御供に差し出し、剣術講義の受講生の協力の元、実験は恙なく予定よりも早く終えられたのでした。

 

「しかし、本当にやらなくてはいけないのですか?……」


 未だ渋るアリシアの前に、スッと木剣が差し出されました。


「みんな待ってますよ。アリシア、センセ!」

「レイ、アナタまで……」

「フフフ。観念して下さいませ。じゃあミリー、アリシアのこと借りていきますね」

「はい、どうぞ。アリシアも、最近あまり身体を動かしていないのですから丁度良い機会ですよ。しっかり指導してきて下さいな」

「じゃあ、また後でね」


 レイに引きずられる様にして、生徒や教師が待つ所に連れていかれてしまいました。

 

 彼女を見送ると、魔工学講義の生徒四人に向かいます。


「さ、みなさん。ここを片付けて講義室に戻りますよ」

「ミリセント先生!」


 それをアラクスルが待ったをかけます。


「僕もあそこに参加たいのですが!」


 自前の木剣まで携え、今にも飛び出さんばかりにやる気満々です。

 それを聞いたグレイラットまでもが「滅多にない機会なので! 是非わたしも!」などといい出す始末。


 ……これは下手に止めない方が良さそうですね……。


 共に目が爛々と輝き必死な様子です。


「ふぅ……。では片付けが終わったら後でしたら構いません」


 それを聞いた二人は急いで動き始めました。先程まで術具を持って走り回っていたのに元気なことです。


「やる気があるのは結構ですが、器具は丁寧に扱う様に」

『はい!』


 ……返事だけは立派なのですがね。

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