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其の35 マダリンとの話し合い

 例えその言葉に裏があろうとも、親密になりたいという相手に一服守る様なことはしないでしょう。このまま残すのも勿体無く思いますから、目の前に置かれているお酒をと料理を黙って頂きます。何よりも返答に困ったというのが大きいのですが。


「どうです? お口に合いますでしょうか?」

「はい。大変結構なお味で……」

「ホホホ……お世辞は結構ですよ。柳緑寮の食堂についてはわたくしも良く存じております。ここの料理では物足りないのではなくって?」

「そんなこと御座いませんよ。大変美味しゅう御座います」


 確かに美味しいことは美味しいのですが、ここの所アリシアの料理に慣らされてしまって、折角のご馳走も特別感のある料理には感じません。それが顔に出てしまっているのでしょうか。マダリンが苦笑しています。


「アリシアが随分と活躍していると聞きますよ。彼女、元々調理に関して素質があったのでしょうね」


 ……確かにそうかも知れませんが、それは生まれる前の素養でしょうね。


 しかし一体彼女はアリシアのことをどこまで知っているのでしょうか。これは平民出だということは知っていると思っておいた方が良さそうですね。


「そうですね。彼女は色々と器用な所がありますから」

「その様ですね。ミリセント嬢と一緒に魔工学の講義でもご活躍なさっていると聞きますし。史学のハイディ先生も事外喜んでいましたね」


 ……本当に彼女はどこまで知っているのでしょうね……。


 まさか残魔術具のことまでは知らないと思いますが気味が悪いです。わたしとアリシアの話題からは離れて頂きましょう。


「うちの寮といえば、今日ご招待下さったレイチェルも凄いのですよ。二学年で剣術の優秀者に選ばれましたから」

「えぇ、存じておりますよ。他にも貴女の寮には沢山の優秀な方々がいらっしゃるみたいですね」


 二学年だからと、惜しくも優秀者に選ばれなかった者の中に、マリーとツィスカがいたことをここで初めて知りました。


「あまりご存知ないみたいですが、それもあって柳緑寮は今や学園中の注目の的なのですよ。次はどんな秀でた者が出てくるのかと、生徒教師共々期待しているのです」


 そんなことになっているとは知りませんでした。

 彼女から受ける印象が不気味なことには変わりませんが、わたしの周りの者達が褒められると誇らしい気持ちになります。

 

 ……そんな優秀な友人に囲まれて、わたしはなんと果報者なのでしょう。


「そうでしたか。それを聞きくと寮の者達はとても喜ばれるかと。代わりにわたしからお礼を申し上げさせて頂きます」

「あら随分と謙虚ですこと。わたくしはちゃんと存じておりますのよ?」

「なにを、でしょうか?」


 今まで表面的には笑っていた彼女でしたが、わたしが不思議そうな顔をすると「お為ごかしはやめましょう」と至極真面目な顔でわたしに向かいます。


「その中心人物こそ、貴女ではないですか」


 ───はぁ⁉︎


 なんともみっともない顔を晒しているかとは思いますが、思わず口をポッカリと開けてしまいました。


「気付いてる者は少ないですが、アリシアやレイチェル嬢は言うに及ばず、柳緑寮のみなさんもです。特に突出する者達は貴女の影響が色濃く出ているということをね」


 ……そんなに私の魔力はだだ洩れなのですか?


「そして厨房の者達までもがみな、貴女の影響下に置かれていることも存じております。その腕に惚れ込み、当家やわたくしの許婚の家でもその料理人達を引き込むか、こちらからそこに派遣して修行させるべきかを考えている位ですからね」


 彼女から聞くまで知りませんでしたが、今や柳緑寮の厨房は新たな美食を生み出す場として、学園外にまでその名が広まっているそうです。


 ……なんだがわたしの知らない所でおかしなことになっていますね……


 来る前にホルデから聞いた注意事項の一つによると、マダリンの許婚はこの国の第二王子になるそうです。粗相のないよう注意されました。そんな方の実家となると……。


 そろそろわたしの許容量は限界です。

 考えるのを放棄し、目の前の残った料理やお酒に集中することにしました。残すと勿体無いですからね。


 無心に呑み食いしていますと、マダリンがわたしの空いた杯にお酒を注ぎながら笑いかけてきます。


「あまりご自身ではその影響力を理解しておられないみたいですね。今日の所はこの位にしておきましょう。これを縁に、是非とも良いお付き合いをしていきましょうね」


 それに対してわたしはなんと返答したのか覚えていませんが、気が付けばお腹は膨れ心地良い気分で大広間に戻っていました。





 大広間に戻りましたが、先程の様に人のことを蔑む様な痛々しい視線は感じません。代わりに、近づきたくも近づけない、といった視線を受けています。

 わたしがマダリンに連れて行かれた様子を見ていた者が幾人かいるのでしょう。別室にて二人何を話していたのか、聞きたくてしょうがないといった感じですね。


 ……これが上位貴族の力ですか……。


 今一釈然としない気持ちを抱えながら周りを見渡していると「ミリー! やっと戻ったきたー!」突然わたしを見つけたアリシアが裾を翻しながら駆けってきました。


 ……何ごとですか? しかしそれは減点ですよ。


 全く淑女らしからぬ行動です。


 実はホルデからこの懇親会にてアリシアが貴族子女らしからぬ振る舞いをした場合には、詳細を詳しく報告する様に指示を受けています。

 別にホルデに対してのわたしの株を上げたいという目的ではなく、日頃のアリシアの態度に意趣返をしたいという訳でもありません。純粋にホルデの頼み事を断るのが怖いだけです。


 ……心の弱いわたしを許して下さいね。


 しかしこれは報告すべきかどうか悩む状況でした。

 

 ……わたしがいない間に、一体何があったのでしょう?


 逃げるアリシアに追う者達。

 流石アリシア以外はみっともなくドタバタとしていませんが、早足で彼女を追廻ています。そしてなんとか逃げおおせたアリシアがわたしの背後にしがみつくのですが、悲しいかな、身長差で隠れられていません。


「ミリー、助けて!」

「落ち着いて下さい。一体何事ですか?」

「この人たちしつこいの!」


 そのしつこいといわれた方々に周りを囲まれてしまいました。


「いやぁ、しつこいだなんて侵害だなぁ」

「そうよ。私たちは、ただアナタとお話しをしたいだけなのに」


 人付き合いの得意な彼女が嫌がっているだなんて珍しいこともあるものだと思いましたが、相対してわかりました。中には少々おかしな者も混ざっています。


 そのおかしな者達はみな笑顔ではありましたが、よく見ればそれは作られたもので心から笑っているものではありません。また目付きが盲信者特有の話す相手を通り越して虚空を見つめている者の目付きです。そして何をいってもこちらの言葉は素通りでした。


「みなさま、大変申し訳御座いませんがアリシアはこの後に人と会う用が御座いますので……」

「中々この様な場に来てはくれずやっと出会えたこの機会に、是非とも我々の話しを聞いて頂きたく存じます。また私どもの集まりにも是非とも参加して頂く必要が御座いますゆえ……」


 ……全く話しが噛み合いませんね。


 会話が出来ない者に対しては、いくらこちらが誠意を持って対応しても無駄なのはよくわかっています。

 背後に隠れて怯えているアリシアの手を取ると「行きますよ」そのまま無視して無理矢理人垣を掻き分けて逃げ出そうとしたのですが、残念ながらわたしの背丈ではそれは叶いませんでした。


 ───あっ!


 結果揉みくちゃにされてしまい、アリシアの手を離してしまったのですが、気が付けば頭を打ち床に這いつくばっていました。


 ……恥ずかしいやら痛いやら……。


 更に最悪なことに眼鏡を落としています。


 グシャリ!


 見るまでもなく耳元で聞こえてはいけない物の壊れる音がしました。

 直接それを目にしていなくともそれだけで状況がわかり絶望的になっていると「しゃしゃり出てくるからよ」「目障りだわ」などと嘲笑する声に合わせて、ソレを踏みつける音までもが耳に届きます。

 落ち込んだ気持ちは一瞬で怒りに上書きされました。


 ───もういい加減にして下さい!

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