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其の34 懇親会の開催

「皆さま、本日はお寒い中お集まり頂き有難う存じます。今日はいつもの顔ぶれに合わせて、昨年度の優秀者の方々をお招きしております。是非ともこの機会にご縁を深めて下さいませ」


 マダリンの挨拶と共に懇親会が開催されます。


 みな着飾っていますが学園生の集まりです。もちろん上流貴族ばかりなのですが。

 社交界ではありませんから、舞踏やらお偉いさんの挨拶が続いたりはせず、後はみな自由に歓談したり食事をしたりするだけなので堅苦しいことはありません。

 せっかくですからわたし達も早速食事にありつこうと思うのでしたが、その前にきっちり話しをつけておかなければならないことがあります。


「アリシア、先程のアレは一体何なのですか?」

「あーゴメンゴメン。あの人って苦手なのよねー」


 アリシアの養母であるホルデから、カーティス家とクラウゼ家との遺恨については多少聞いてはいましたが、養子のアリシアまで直接関係していたとは知りませんでした。


「歳が一つ上だし講義も違うから、学園での絡みはないんだけどねー」

 

 養子になりたての頃、この手の集まりで顔を合わすと、何かとちょっかいを掛けられていたとのことです。


「そうはいっても子供の頃の話ではないですか」

「いやだって、あの金髪ドリルだよ? あんなのに絡まれると『アタシって悪役令嬢に絡まれるヒロイン?』とか思っちゃって、これはめんどーだなーって。今では違うとわかっていても、苦手意識がねー」

「まぁよくわかりませんが貴女が苦手なのはわかりました。ではなるべく近付かない様気を付けましょう」


 ここへ来る前ホルデから「わざわざクラウゼ家と必要以上に絡む必要はないが、皆さん恥ずかしい振る舞いはせず、常に毅然とした態度でいるように」との指示を受けています。

 

 かつてのカーティス家は武勲を沢山上げ、王の覚えもめでたく伯爵位にあったそうです。しかし良いことではあるのですが、その後戦は減り、活躍の場が少なくなっていくと、代わりに内政を担うクラウゼ家が台頭し、今や向こうは公爵位にまで上り詰めているのだそうです。

 

 レイのクラウゼ家も似た様なものでしたが、少し違うのは、今は男爵位のカーティス家ですが、代々近衛を排出しているのは変わらず、今もレニーの息子がその任務に就いているのだそうです。

 それもあって魔法が得意なアリシアにも剣も教えているかと思いましたが、以前のお酒の席でレニーに「アリシアにもその道に進むことをお望みですか?」と聞いたのでしたが「あのまま自由に好きな道に進んで欲しい。どの道に進もうとも、あの娘は国益にかなう者となるであろうからな」と、赤ら顔で親バカなことをいっていました。


 正直家同士のいざこざは知ったこっちゃありませんが、カーティス家は最早自分の家と同じ。ここは我が家が不利益を被らないためにも、如才なく振る舞うことに尽力を尽くしましょう。


 ……さて、一番の問題はアリシアですね。彼女が何かやらかさない様、しっかりと注意しておかなければいけません。


 馬車の中でも口を酸っぱくして注意していましたが、再度アリシアに注意すべく顔を上げるも、いつの間にか彼女の姿が見えません。


「あら、アリシアはどこでしょう?」

「先程みなさんに連れていかれましたよ? あの辺りにいますね」


 レイが指差す先には人垣が出来ており、その中心にいるのだそうです。


「さすが二学年なのに優秀者として幾つも選ばれただけはありますよね。食事を取りに卓は向かったら、あっという間に人が集まってあの状況ですよ」

 

 ……早速目を離してしまいましたね……。


 あの場で何かやらかしていないか気が気ではありません。


「仕方がありませんね。レイ、わたしはあの娘がおかしなことを仕出かさない様に見張る必要があります。あそこへ行きますよ!」


 とてもじゃありませんが、わたし一人ではあの人垣をかき分けてアリシアの元に行くことなんて出来ません。

 レイの手を取り共にアリシアの元へ向かおうとしたのでしたが、不意に目の前に複数の女性が立ち塞がります。


「もし、剣術の講義で優秀者に選ばれた、二学年のレイチェル・クラウゼ嬢で宜しいでしょうか? 出来ましたら少々お話しをお聞かせ頂きたく存じます。是非こちらにいらして下さいませ」


 目を輝かせたお嬢さま方にはわたしの姿は映っていなかったのでしょう。わたしを無視し唖然とするレイの手を取ると、有無を言わさずに連れ去られてしまいました。

 

 ……みんないなくなってしまいましたね……。


 先程までの意気込みは何処へやら。一瞬で気が抜けました。


 独り所在なく立ちすくんでいると、途端に周りから刺さる視線を感じ、合わせてそこかしこから「場違いな者がいる」「なんだあの小さいのは」「見て、黒髪よ」「何を勘違いしているのか」などといったひそひそ声が聞こえてきましたので、居た堪れなくなりその場を逃げる様に離れました。


 ……これだから上級貴族は嫌ですね……。


 人が少ない壁際に向かうと、やはりというか、こういった場ではわたしと同様に居場所のない者が他にもいる様で先客が目に入りました。

 気まずくなり場所を変えようかとしたのですが思い留まります。


 ……あれは見たことのある顔ぶれですね……。


「先輩方ではないですか!」


 知っている顔を見ただけで嬉しくなってしまい、思わず駆け寄りました。


『ミリセント嬢⁉︎』

「みなさん、いらしていたのですね」

「そちらこそ。お一人で?」

 

 真顔になり、中央に出来ている二つの人溜まりに視線を移すと『あぁ……』お三方は言わずとも察してくれました。


「ハハハ、呼ばれてしまったからには仕方なく来たのだが、我々には壁の花がお似合いだ」

「最もですね」


 笑いながら先輩が取ってきてくれたお酒を口に含み、これなら先日アリシアの家で頂いた蜂蜜酒の方が美味しいですね、などと考えながら「先輩方は卒業後どうなさるのですか?」「一応はもう決まっている」「どこですか?」そんな世間話をしていると、突然わたしに声を掛けてくる者がいました。


「ご歓談中に失礼致しますね。ミリセント嬢、少々二人でお話しがしたいのですけれども、宜しいでしょうか?」


 先程の金髪ドリルこと、マダリンが現れました。






「こちらはまた、随分と静かな所ですね」


 三人の先輩方に「大丈夫かい?」と不安なそう顔で見送られながら、大広間から離れ別室に連れ込まれています。


「ちゃんとお話しをするに、あそこでは騒がしすぎますからね」


 ここはカーティス家の応接室よりもだいぶ広く、由緒はなくとも高価そうな調度品に溢れていました。

 こんな所に連れ込まれて何をされるのかと当然警戒していますので、惜しいことですが出されたお菓子やお酒には手を付けません。ただマダリンの顔をジッとみつめます。

 

 しかしこのままただ座っていても埒が開きませんので、探る様なことはせずさっさと素直に訪ねました。


「何故、わたしをこちらへお招き下さったのでしょう?」


 もちろん懇親会にではなく、個室にです。


 アリシアはともかく、わたしはこの方とは全く面識がないのです。この様な特別扱いされる節は全く思い浮かびません。ノコノコと着いていったわたしもわたしですが。

 

「……貴女には、変に回りくどいことをいわない方が良さそうですね」


 ……ん? 確か、以前にも誰かに同じ様なことを言われた気がしますね。


「お察しの通り、もちろんアリシアの事もありますが、貴女と直接お話しをしたかったのですよ」


 ニコリと笑ったその笑みは、わたしが苦手とする捕食者のモノでした。


「貴女は二学年の中でも有名人ですからね、是非とも仲良くしたいと思っているのです」


 ……これもまた、何処かで聞いた様な台詞ですね……。

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