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其の33 懇親会に行く

 しかし行けといわれても、はいわかりましたと直ぐに参加出来るものではありません。何せ色々と準備がありますから。


「お恥ずかしい話しですが、その様な催しに参加したことがなく、着て行く服がありません。まさか制服で行くわけにも行きませんし……」


 ホルデの視線が怖いからだけではなく、レイの方に向くと彼女も同じです。と頷いていました。


「問題ありません」

「で、ですが、この招待状によると期日までも時間がありませんよ?」


 周り回ってここに届けられたため、開催日は直ぐそこです。これでは衣装を整える時間なんてありません。仕立てはおろか貸衣装ですら無理でしょう。それともお金にものを言わせるつもりでしょうか?


「アリシア用に用意した物のが幾つかあります」

「え⁉︎ ……ア、アリシアは……よく懇親会に出られていたのですか?」

「よくは出てないよ? 昔はたまに行かされてたけどねー」


 最近では全くその様な場に顔を出さなくなっているのにも関わらず、毎年その時の流行りに合わせて何着か作っているのだそうです。彼女、思っていた以上にお嬢様だったのですね。


「こちらにいらっしゃい」


 そして三人まとめて衣装部屋に放り込まれるのでした。





「アリシアお嬢様の髪色ですと、やはりこちらの服がお似合いですが、少し襟元を変えてみましょうか?」

「こちらのレイチェルお嬢様は見かけよりずいぶんと鍛えていらっしゃいますので、アリシアお嬢様に合わせた衣装ですと少々手直しが必要になるかと」

「わかりました。すぐに手配なさい」

『畏まりました』


 ホルデ監修の元、二人はアレよアレよという間に女中達に着せ替えさせられて目を回しています。

 わたしはその様子を笑って見ていたのですが「貴女はこちらにいらっしゃい」二人の衣装が大体決まると、ホルデと二人っきりで衣装部屋の奥へと連れ込まれてしまいました。


「ここはまた、随分と小さな服が沢山あるのですね……」

「ここらのは、アリシアがウチに来た直ぐの頃に作った物ですね。……コホン。貴女に丁度良いかと……」


 ……えぇ、わかってはいましたが、ハッキリ言われると落ち込んでしまいますね……。


「流行があるといっても、ハレの日の衣装はそう変わりません。ここにある物でも十分に対応出来ます」


 しかし流行りの色などはある訳でして、それに合わせてわたしに似合う物を探してくれています。しかし数も多くアリシア達と違って選ぶのが大変そうで、選ぶのに難儀していました。


 ホルデの必死なしび姿を見ているとふと疑問が湧き、つい口からこぼれてしまいました。


「……何故にそこまでして、わたし達を出席させたいのでしょう……」


 アリシアやわたしのみならずレイまでも巻き込む理由がわかりません。


「そうですね、色々とありますが……いずれ貴女方も社交界に出る身です。今の内に場数を踏ませたい親心でもあるのですよ。アリシアはこの手の集まりは逃げてばかりでしたからね」


 ……わたし達は巻き込まれたのですね。


「それは貴女も一緒でしょ?」


 ……耳が痛いです……。

 

「それにあの娘、レイチェル嬢と仰いましたか? 貴女方の寮は三人部屋だったのですね。確かあそこの寮は全て二人部屋だと記憶していましたが、今は違うのですか」


 ……うっ……。 


「……今も全て二人部屋に相違ありませんが、その……似た様なものだと思って頂いて結構です……」

「そうですか。理由は特に聞きませんがおおよそは理解致しました。何にしても、最早あの娘もわたしの子同然です」


 ……なんとも懐の広い方ですね。


 思わず感嘆のため息を吐いてしまいました。


「……それに、あの招待状の封蝋の印璽を見てしまいましたからね」

「申し訳ございません。勉強不足にて存じ上げませんが、アレはどちらの方の紋章でしたか?」


 そういえば中身の確認すらちゃんとしていません。面倒なものが来たなぁとしか思っていませんでしたから。そもそも参加する気なんてさらさらありませんでしたからね。


「アレは、クレイン侯爵家。いえ、今は公爵家ですか。あの家とは昔から少々色々とありましたからね……フフフ……」


 ───笑顔が怖いですよ! 目が笑っていません!


「これはレイチェル嬢も無関係ではありませんよ。クラウゼ家も、彼らには辛酸を舐めさせられていますからね」


 ……あぁ、これは貴族間のいざこざに巻き込まれているのですね……。


「ともかく、上流貴族からの招待状は召喚状と変わりません。不参加という選択肢は端からないのです。覚悟をお決めなさい」

「承りました。お養母さま……」


 ホルデ自身も針糸を持ち、翌日には全てのお直しが済み、懇親会へ行く準備が整ってしまいました。





 緊張しながらカーティス家の馬車に揺られてクラウゼ邸に向かう最中なのですが、自分よりも緊張している者を見ると自然と落ち着いてくるのは不思議なものですね。


「ね、ねぇミリー、ホ、ホントに行くの?」

「流石にここまで来て戻る訳にも行きませんよ。諦めて下さい」

「大丈夫、大丈夫! みんな素敵だし!」


 衣装に合わせて髪も綺麗に整えて貰っています。

 流石アリシア達はすんなりといきましたが、わたしは眼鏡に合わせて整えるのが大変で、女中さん達に苦労をかけました。


 ……有難う存じます……。

 

 行く前は渋っていたアリシアですが、いざ馬車に乗って仕舞えば平常運転。どんな美味しい物があるか楽しみにしています。


「公爵家でしょ? きっと見たこともない美食が並ぶと思うの! ローマの貴族みたいにフラミンゴの舌とか孔雀なんかが出るのかな?」


 怖いけど食べてみたい! などと相変わらずおかしなことをいうアリシアは放って置いて外を眺めています。


 貴族街の外れから中心部に向かっていました。

 ここらはどこも敷地が広く、御者が「ここだ」というので降りる準備をしようとしましたが、門を通ってからもまだまだ進みます。

 暫く走りやっと屋敷の玄関口に到着したのですが、馬車から降りる際に屋敷を見上げて唖然としてしまいました。


 ……アリシアの家にも驚きましが、上には上がいるものですね……。


 王宮はこれ以上の大きさなのでしょうか、などといったことを考えながら、予想以上の豪邸に驚いているのはわたしとレイのみ。アリシアは「お義兄さまのいらっしゃる本宅と同じくらいね」と何でもない顔をしています。


 ……格差社会を目の当たりにしましたよ。


 他の来賓の馬車が後ろに並んでいるためもたもたせずに降車すると屋敷の中へと入るのですが、中はまた想像以上の豪華絢爛。圧倒されてレイと共に入口で困惑していると「着いてきて」場慣れしているアリシアに連れられて奥へと入ります。アリシアを頼もしいと思ったのはこれが初めてではないでしょうか。


 そのまま人ごみを掻き分け大広間に向かい、主催者の方に挨拶をするのですが、何を思ったか、向かっている最中にアリシアが「ん〜ここはアタシより、ミリーが前に出た方がいいねー」後ろにスッと下がると、直前でわたしが二人を従える形になってしまいました。


 ───予定にないことをしないで下さい!


 しかし既に主催者の彼女と目が合ってしまっています。ここで下手に騒ぐ訳にもいかず、覚悟を決めると愛想笑いをしながら姿勢を正しカテーシーをしました。


「ようこそ。ミリセント・ノア嬢。マダリン・クレインと申します」

「お初にお目にかかります。マダリン・クレイン嬢。二学年、ミリセント・リモと申します。共にいますのは学友のアリシア・カーティス、レイチェル・クラウゼになります。この度はお招き頂きありがとう存じました。どうぞよしなにお願い致します」

「お三方とも、お噂はかねがね伺っておりますわ。皆さんのお召し物も素敵ですね。今日は是非楽しんでいらして下さいませ」


 簡単な挨拶を交わすと、豪奢な巻き上げた金髪を振るいながらわたし達の前から立ち去り、次の来客へと向かっていきました。その振る舞いは未だ貴族前にも関わらず既に女主人然とした完成された物です。これは役者が違いますね。早速この場に来たことを後悔し始めました。


 ……ここは、あまりにも場違いがすぎますよ……。

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