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其の32 招待

 思い立ったが吉日です。


 朝食を摂り終えると、すぐにもこの家用に図面を引き直します。


「前に使ってたのじゃダメなの?」

「寮や講義室に、温室はありませんでしたからね」


 この屋敷の隅には、ホルデの趣味である花の栽培用の温室があるのです。

 植物は浴びるその魔力の質や量によって成長に影響があるのは実家で経験済みです。花ではなく野菜でしたが。

 そのため、そこへと送る回路は特に気を使いますが、そんなことは今のわたしにとっては造作もありません。


「出来ました!」


 後は部材の調達になるのですが、学園は休みですので講義室は使えません。

 どうするかとアリシアと相談していると「どれどれ……」それを見たレニーが「これで込める魔力が減るのなら安いものだ」と、なんでもない顔で部材の調達を請け負ってくれました。流石お金持ちは違いますね。


 さて、部材が揃うまでの間暇になってしまいました。


 手持ちぶたさで何をして時間を潰すか二人で話し合っていると、それを見計らったかの様にホルデからお茶の誘いを受けたのですが「アタシ、キチッチリとしたお茶会って苦手なのよねー」逃げようとするアリシアを捕まえ、それに行くことにしました。


 ……丁度良い機会です。観念なさい。





「貴女とこうやってお茶をするのも久しぶりですね」

「はい……」

「ミリセント嬢、連れて来てくれて有り難う存じます。昨晩レニーから言われましたの。この娘とはちゃんと向き合って話さなければならないと」


 ……萎縮して小さくなっているアリシアなんて珍しいですね。


「それにしても貴女の魔力は素晴らしく心地よいですね。お花たちも喜んでいるわ」


 誉められれば悪い気はしません。謙遜しつつも顔が緩みます。


「有難う存じます」

「そうなの。ずっとミリーの魔力を浴びてると、身体の調子も良くなるのよ!」

「ずっと、ですか?」


 ホルデの目がキラリと光り、思わずアリシアと共に姿勢を正してしまいます。


「アリシア。貴女は、やはり寮での魔力供給を全てミリセント嬢にお任せしているのでしょうか」

「いえ、お養母さま。これはわたしから進んで行なっていることでして……」


 視線だけで「お黙りなさい!」と言われている気がして、アリシアと共に視線を外し項垂れてしまいました。


 ……旦那さまとは、また違った凄みのある方ですね……。


「良いですか? かつてわたしも学園に通いましたから存じておりますが、同室の者と共に部屋の魔石に魔力を込めるこにより、それを通じて互いの魔力に触れ合い親和性を高める事が目的なのですよ。それが後々卒業後も続く深い関係となってゆくのですから。わたしにもそんなお相手がいます。卒業して何年にもなりますが今でも良い関係です。なのに貴女ときたら……」


 ……そんなこととは存じませんでした。道理でレイの部屋の魔石に魔力を込める際、寮監のデリアがいい顔をしなかった訳ですね。


 しかしアリシアがやり込められるところを見るのは新鮮です。

 暫くこのまま見ているのも良いかと思いましたが、思わぬ余波を受けてしまうのでした。


「……私みたいな魔力過敏症でなければ、直ぐにそれとは気付かないでしょうけれども。……貴女自信、もうだいぶミリセント嬢に染まっているのを自覚していますよね……」


 ───な、なんですと⁉︎


 聞き捨てならない台詞ですが、その言葉に口を挟み深く追求する気は起きません。

 驚きのあまり目を大きく見開くことしか出来ないでいると、アリシアが妙に恥ずかしそうに顔を赤らめているのを見て、更に衝撃を受けてしまい、もはや目を瞑りながら天を仰ぐしか出来ませんでした。


 ……一体、この羞恥はなんなのですか? 義理とはいえ母親の前ですよ? その仕方がないね、といった顔はやめて下さい!


 恥ずかしさのあまり顔がどんどん熱くなってしまいます。


「まぁ、意地悪をするのもこれくらいにしておきましょう。それよりも学園での事を聞かせて下さいませ。もちろんミリセント嬢のことについてもですよ」


 お茶を飲み、お菓子を食べて一旦気持ちを切り替えようとしましたが中々治りません。この時ばかりはお酒の方が欲しいと思いましたよ。


 アリシアは思った以上に学園でのことについて伝えていなかったらしく、言い淀むアリシアの代わりにわたしが話すと、その都度目を丸くして驚いていたり、時には厳しい視線をアリシアに向けたりと、ホルデは大忙しでした。


 ……だいぶ凹んでしまいましたが、これは貴女が報告を怠っていたせいですよ。観念して下さい。


「……ふぅ……しかしこれはまた随分色々とやらかしていたのですね。ミリセント嬢、教えて頂き助かりました。重ねてお礼を申し上げます」

「いえ、お恥ずかしい話し、そのやらかしのほとんどはわたしも関係していますので……」

「そうそう!」

「貴女はお黙りなさい!」


 とうとう雷が落ちてしまいました。


「ですがここで怒るのは違いますね。アリシア、とても良く頑張っている様ですね。養母として嬉しく思いますよ」

「お養母さま……」


 これで親子関係のわだかまりも少しは解消されればよいうのですが。その一役を担っただけでもここに来た甲斐があるというものです。


 そんな二人を穏やかな心で見ていたのですが、ホルデの言葉に固まってしまいました。


「今晩はお祝いですね。ナディアには腕によりをかけてご馳走を沢山用意してもらわないと」

「やったー!」


 ───勘弁して下さい! あれ以上は食べられませんよ!






 術具の完成はすぐに済みました。何せ何度か作っている物ですから容易いものです。


 翌日には部材が全て揃い、その翌日には設置完了に稼働まで持ち込んでいます。


「おお、これは素晴らしい! 持っていかれる魔力が以前の半分ほどだ!」

「流石に半分とはいきませんが、それに近い割合まで省略出来ているはずです。それと追加で何かあった時のために予備の回路も組んでありますよ」


 レニーも高齢ですから突然何があるかわかりません。不意の事態に備えて数日は対応出来る様に、事前にわたしの魔力を込めた回路も別に作りました。


「半年か、一年程の間に込め直せば大丈夫な作りになっていますので、こちらにお邪魔した際にわたしが込めさせて頂きます」

「まぁ! ミリセント。そんな事をいわないで何時でも来てくれて良いのよ? ここは自分の家だと思ってくれて構わないわ」

「そうだぞ。私も娘が一人増えたものと思っている」


 二人の熱の入った申し出に戸惑っていますと「もうミリーはウチのコだね!」とアリシアまで乗ってきてしまいましたので、ぎこちない笑顔で「あ、有難う存じます……」としかいえなかったのは仕方がないと思います。


 ……ですがアリシア。「妹が出来た!」と喜んでいますが、それについては少し話し合う必要がありますね。断然わたしの方が姉ですよ。





 家の者から家族同然の扱いを受けているからではありませんが、アリシアの家の居心地はとても良く、三日もすれば離れたがくなってきてしまいました。最早寮に戻るのも面倒になってきています。


「ふぅ……。本当にこのままこの家の娘になりたいものですね」

「なら、卒業していくとこなかったら、ウチで譲渡師やる?」

「それもいいかも知れませんね…・・・ 」


 このまま結婚もせずぬくぬくとここで生活するのも悪くありません。少し本気で考えてしまいました。


 そんな自堕落な生活をしていると急な来客がありました。


「お久しぶりです。ミリー、アリシア」

「レイではないですか。何故ここに?」

「お休み中に遊ぶ約束をしていたじゃない? でもいつまで経っても連絡がないから……」


 ……そういえばスッカリ忘れてました。


「申し訳ございません。何かと忙しくしていたもので……」

「フフフ、違うわよ。ほらコレ、ミリー達の居場所がわからないからって、私の所にまとめて送られてきたの」

  

 スッと二通の封書が差し出します。


「これは?」

「わたしも同じ物を頂いたのだけどね、紹介状よ。懇親会のお誘い」

「懇親会?」

「そうよ。上流貴族子女達の私的な集まりだけど、年度末の成績優秀者にも声を掛けているみたい。どうする?」

「どうすると仰られましても……」

「めんどくさそうー」

「ですよね……」

 

 何故一時とはいえ、この快適な生活を捨てて魑魅魍魎が跳梁跋扈する様な集まりに行かねばならないのでしょうか。


 アリシアと共に嫌そうな顔をしながら「わたし達はご遠慮します」というと「やっぱりね」それを見て苦笑するレイでしたが、突然影が差し頭の上から声がしました。


「行きなさい」


 ───え?


「良い機会です。みなで参加するように」


 いつの間にそこにいたのか。

 有無を言わさぬ声と視線で、ホルデから必ず参加する旨を厳命されてしまいました。

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