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其の28 残魔術具の功罪

 ……まぁ、これは仕方がありませんか。


 一昨日最後に残魔術具で写し出された画像は、現在の正史を覆さんとするものでした。


 建国から暫くの間、ラミ王国の王座にいたのは「アンナ女王」になりますが、その後で伴侶「ラミ」の傍系の者に王座を譲ります。それが現在の王族の祖先であり、千年程の御世に渡って脈々と受け続けられている万世一系の由緒あるものだとされています。


 この国において女性で王座についたのはアンナのみとされていますが、何故()()と言われているのか。それはラミ王国初の王であるだけではありません。史実によるとラミの傍系が歴史上に現れてくるのは建国から優に一世紀程の後のことです。その間「アンナ女王」が国の代表を担っていたことになるのですが、百年以上もの間同じ者が在位していたとは考え難く、年代に誤りがないのだとしたら、当時は女王の座につく者が代々「アンナ」の名を襲名していたのではないか? との見解が主流になっているためです。


 そしていつしか歴史上の記述から「アンナ」の名前が消えていきます。


 ラミの傍系が歴史上に顔を出すのと女王アンナが王座にいた時代が被る時期が、俗にいわれる「暗黒期」になります。

 疫病が流行ったのか他国からの侵略を受けたのか、原因についてはその資料が残されていないため判明されておりませんが、国が傾く恐れがあった時代であったことは、いい伝えとして残っています。

 研究者によってはその時にアンナの血筋は途絶え、ラミの子孫に王座を託した。または、アンナの血筋の者がラミの子孫と縁を結び、今の王族にはその血が流れている……。様々な意見がありますが、この時期を境に王族主体から民衆も参加しての国造りになっていったという事実は変わりません。


 その状況に対して例の画像です。


 玉座に座れるのは王のみ。

 当時から伝わるとされている王宮にある石造りの玉座は、もちろん女王アンナが使用していたとされている椅子になりますが、今や敬われるあまりに王家にとってのかけがえのない至宝との扱いをされ、安易に触れることは許されず、座るのはもっての外だとされています。

 そんな物に座っていたとされる人物になると、当然当時王位にあった者に限られます。更に女性でした。そんな彼女が屍の海の中で斬られてしまう瞬間の画像です。これではラミの子孫がアンナからその地位を簒奪したのだとも考えることが出来てしまうことでしょう。


 ……実際には、既にラミの子孫が国政を担っていましたので「暴君を退けた」の方が正しいのだと思いますが、とてもそうは見えなかったですよね。


 凄惨な状況はさて置き、実はあの時ハイディに対して少し溜飲が下がったのは秘密です。


 流石にみなさん教鞭を取っているだけありますね。史学の専門家でないにしても、教師の方々はアレを見たことで理解した様子で、この件は仕方がないといった顔で受け入れています。

 わたし達に対しては、理由はいえないが大人しく受け入れる様に。としかいえません。遺憾であっても受け入れざるを得ないこともあるのだとわたし達に諭します。しかしわたし以外の生徒達はそんなことでは納得出来ません。


「な、何故ですか? 理由は教えてもらえないのですか?」

「破損したとはいえ、せっかく成功したのに……」

「研究成果がー!」


 嘆く者、騒ぐ者、講義室は騒然としてしまいました。


 事情を察せるわたしは、その件については素直に受け入れましたが、そんなことよりも気になることがあるのです。


「例の件については知らぬ存ぜぬを通す旨は承りました。しかし、もしや一昨日まであった魔石がなくなっているのも、その件と関係があるのですか?」


 カスパーが目を逸らしながら頷きます。これには当然アリシアと共に食ってかかりました。


「えー! なんでー! ハイディ先生に代わりにちゃんと作ったじゃないの!」

「それとこれとは話しが別だと存じます! いくら王族案件とはいえ横暴です! 断固意義を申し立てます!」


 ───食べ物の恨みは怖いのですよ!


 わたし達の猛烈な抗議に慌てたカスパーは必死になって宥めます。


「ま、待て! 大丈夫、大丈夫じゃ! その件については特別予算が王室から補填されておる。それで勘弁しておくれ」


 ハイディがことの重大さに密かに王宮に報告を上げ、昨日の内に王名により王宮の手の者が回収したのだそうです。しかし流石にそれでは遺憾が残ると、代わりに渡される金額は予想以上のものでした。残っていた魔石分よりも遥かに多く、わたしとアリシアはとてもよい笑顔で頷きます。


「ならば構いません。委細承知致しました」

「アタシも!」


 しかしそれを聞いても先輩達の鎮痛な面持ちは変わりませんでした。





 秋も過ぎて冬になり、そろそろ年末の時期ともなると三学年はソワソワし出します。


 講義はその後の進路を見据えたものになるため、その都度成績がつけられたり留年などしないのですが、この時期に全学年を講堂に集めて各講義の成績優秀者が発表されます。

 これは学園卒業後の進路の内定発表の様なものでいわば青田刈り。これは是非にと思う者を今の内に囲い込むものになりますので、教師や王室、その他の有識者達の協議によって選定されるのですが、講義によっては優秀者の出ない所も少なくありません。

 そのためこの期間の講義は、教師が忙しくしておりおざなりになってしまうことも多く、我が魔工学の講座も例に漏れず教師不在のため本格的な研究が出来ずにいる毎日でした。今日のアリシアは「つまらないから」といって他の講義に顔を出しに行ってしまっています。


「しかし一時はどうなるかと思ったが、君達のお陰でなんとかなりそうだ」

「本当に感謝している。しかし、あの無炎調理釜の術具は素晴らしいね。私も個人的に一台欲しいよ」

「有難う存じます。量産に関しましては我々の関与するところではありませんから、その後に期待ですね」

「だが、本当にこれで良かったのか? 君達の功績を取る様な真似をして……」

「今学年の魔工学全体の研究としていますから構いません。わたし達にはまだもう一年ありますしね」

「そういってくれるのであればありがたい。卒業しても何かあれば手伝いに来るからね」

「はい。是非その際はお願いしたく存じます」


 魔工学の講義は他とは違い少し特殊な事情がありますので、研究成果を譲ったことについては仕方がなかったのです。


 残念ながら卒業後の進路を見据えて取る講義としてはウチは人気がありません。更に人を選ぶのです。

 人気がある講義は領地に戻り跡を継ぐ為に経営・経済に関する講義や、王城務めに直接関係するもの、国営の社会的基盤施設に携わる講義などになり、魔工学系の中でも重魔工学や軽魔工学、生活魔工学といった、その方向性がハッキリしているものの方に人が集まります。


 なにせ我が魔工学の主体としては基礎理論の研究になり、その守備範囲が広く成果が出難いのです。そのため曖昧な研究結果になりがちで、結果としてそこに求められる生徒の技量水準は高くなり、実際の講義では生徒の各組みごとに教師が付き、指導・監視することになっています。なお、現在三学年の先輩は男子三人、二学年はわたしとアリシアのみです。入りはしたものの途中で離脱してしまった者もいたためこれだけしか残っていないのです。そのため担当のいないあぶれる教師もいますが、その方達は自身の研究を進めたり、前回みたく協同作業の時に手伝いに来てくれるか、一学年の担当をしています。

 

 その性質上、どうしても一年では研究成果が出づらい研究ですので、昨年とその前の年も、我が講義からは優秀者が選ばれなかったと聞いています。そもそも生徒の数が少ないのも原因ですね。

 

 先輩達は例の残魔術具の作製で、近年稀に見る成果を成せたと喜んでいたのですが、なかったことにされてしまいかなり落ち込んでいました。そんな彼等を不憫に思ったわたし達が、共同研究という形で先輩達と共に無炎調理釜の術具を作り上げたのは致し方ないことだと思います。


 その出来上がった無炎調理釜術具ですが、今はまだわたし達の住む寮と学園内の大きな厨房のニか所しか設置されていませんが、その評判は上々。既に新たな料理も色々と生み出されています。その結果にこれならば優秀者に選ばれること間違いなしだと、先輩達の嬉しそうな顔をみるとこれでよかったのでしょう。

 

 因みに、早々に自分達の寮に設置したのは当然の権利です。それで手を打ちました。


 先輩達の寮では「何故ウチの寮に置かなかった!」との不満が周りからかなり出たらしいのですが「私達はもう卒業する。後一年残っている後輩に譲ったのだ」と見栄を張り格好つけて誤魔化したのだそうです。先輩方も大変ですね。

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