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其の26 革の塊の秘密

(うるさいです! 騒がないで下さい!)


 アンナのこの反応からして、写し出された人物については容易に想像出来ましたが、しかそれを口に出すると面倒そうなので黙っていますと、ハイディが突然雄弁に語り出しました。


「わたしはかつて王城にてアンナ女王様の肖像画を拝見したことが御座いますが、ここに写し出されてものは正にそこ描かれたものと相違なく思えます! 残念ながらラミ様の御尊顔は存じ上げませんが、状況的にもおそらくこれはアンナ女王さまとラミ様かと。今日はなんと幸運に巡り会えたのでしょう! アンナ様のお導きですね! 感謝します!」 


 ……むしろアンナさまは見せたくはなかったと思いますよ。今、ここで悶えていますから。


 しかしまあよくぞこんな不鮮明な画像を元にその答えに辿り着けたのかと、その学者魂には感動すら覚えましたよ。見習いたくはありませんけどもね。


 周りはハイディの言葉に懐疑的でしたが、その勢いには賛同せざるを得ない雰囲気で、みなぎこちない笑顔を浮かべています。


「よし、じゃー次行くねー」


 そんな中アリシアだけは相変わらず平常運転で、空気を読まずにもう少し見ていたいと懇願するハイディの意向を無視し、次の魔力反応を探し出します。


「どんなのが出ましたか?」


 次に見つかった場所はそんなに時間が経っていませんでした。

 みなが写出板に群がる中、わたしも見ようと懸命に背を伸ばしましたが、かろうじて見えたものは何やら人が二人重なっている姿。もっとしっかり見える様に近付こうとしていたら突然「見ちゃだめ!」アリシアの手で目を覆われてしまいました。


 ……な、なにごとですか?


(お主はダメだ! いや、他の者も見てはならーん!)

(そうよー。ミリーちゃんにはまだ早いわねー)


 一体何が写し出されているのでしょう? 視界がなくとも周りの雰囲気がザワついているのは伝わってきます。あまりよろしくない状況なのはわかりました。落ち着くまでの間大人しくいうことを聞いておきましょう。


 もういいよ、といわれて視界は鮮明になりましたが、みなが未だ気まずそうにしている雰囲気は変わりません。何が写っていたのか周りに聞いても誰も教えてくれませんでした。


 ……仲間外れは良くないと思いますよ。


 さ、次に行こうと、カスパーが珍しく顔を赤くしながら促します。ですが暫くの間、魔力の高まりがある場所は見つかりませんでした。


 五年、十年、百年ほど経ち、やっと反応が出てきます。


「見つかった……」


 機器を弄るだけでも、魔力反応を探すのには集中力を使うので大変そうです。次は変わってあげましょう。


 写し出された場面はその時よほど魔力が使われたのか、珍しく鮮明でした。


「あ! ちょっと待って下さい。書き写しますので!」


 急いで紙と筆を用意します。


「え、コレ何?」

「魔法陣ですよ。恐らくこの革の塊に掛けられている魔術だと思われます」


 意外にもわたしとアンナ以外には誰もそれとは分からず、みな不思議そうに写出板に見入っています。


「はーこれが……」

「随分と不思議な術式です」

「今のとは随分違うな」

「貴女、意外な特技があるのですね」


 革から見た術式ですので反転していますからなおのことですが、そもそもが古い魔術の術式です。専門に勉強していなければそれとはわからないでしょう。


 ……ハイディ先生、意外は余計ですよ。


(アンナさま、これは状態を保持するための術式ですよね?)

(あー、コレは確かにそうじゃな。ラミからもらった大事な物だったが、古くなって痛んできたからオババに頼んで掛けてもらった覚えがあるぞ)


 大当たりです。これで色々捗りますよ!


「もういい? 次行くよー」


 変わってあげようかと思っていましたが、アリシアが継続する様です。よろしくお願いしますね。


「次も反応が大きいね」


 状態保存の魔術が掛けられた時から数十年ほど経過した所でかなり大きな反応が見つかり、写し出されます。


「なっ!……」

「こ、これは……」


 周りから驚きの声が上がりました。

 今度は目を塞がれない様に小さな身体を生かし、みんなの足下をすり抜けて見に行ったのですが、それを見てわたしは絶句してしまいました。


 ……これこそわたしが見てはいけないモノなのではないでしょうか……。


 そこに写し出された場面は、数人の者が血を流して横たわる中、人が正に斬られている瞬間でした。


「……絶命する瞬間の、魔力の高まりか……」


 わたしの頭の上でゴクリとカスパーが唾を飲み込む音がしました。みな押し黙って写出板に釘付けです。


「……こ、ここは、もしや……」


 そんな中、流石のハイディです。凄惨な情況を見つつも冷静に画像を分析をしていました。


「みなさん! ここ! ここを見て下さい! この石造りの椅子は玉座ではないですか⁉」

「ふむ、どれどれ……」


 カスパーを含む教師達が集まって確認しています。我々生徒は話には聞いていても王城にある玉座を実際目にする機会がありませんでしたから見てもわかりません。


「確かにその様に見えるな……」

「しかし玉座にある、ここの辺りに刻まれいる文言がないではないか?」

「ならば、これはそれ以前になるのでは……」

「なるほど……。となると、この椅子から離れ斬られている人物は……」


 訳がわからないわたし達を他所に、教師達はみな押し黙り顔を青くしています。


「ミリー、なんだかおかしな雰囲気ね。あの場面って、人がたくさん死んでる以外で何か問題ある?」

「……そうですね……」


 わたしには、アンナから話しに聞いていましたのでその場面が何であるかはすぐに分かりました。何せアンナの転換期の一つなのですから。

 確かに予想以上に凄惨な場面を見せつけられたことには驚きましたが、状況的には納得の場面です。そのため教師達の反応はなんとなくわかりましたが、ここでそれ口に出す訳にはいきません。


(この場面って、アンナさまが仰っていた、王族から距離を置く切っ掛けとなったと仰っていたあの時ですよね? 随分とまた凄惨だったのですね……)

(そうじゃな。今でもよく覚えておるぞ。バカなことをしたもんじゃ……)

(そうですね。ですがそんなバカな方は放っておきまして、なんであの革の塊はあの場にあったのですか?)

(そもそもあそこはワシの部屋みたいなもんじゃ。女王なんぞやっとる時は忙しくて自室に戻る暇なぞなかったからな)


 あの革の塊はラミからもらった物で大事にしていたのだそうでしたが、王城を離れるにあたり、思いでと共に置いてきたのだと格好つけています。ですが恐らく置きっぱなしにして忘れていただけだと思いますよ。


 ……思い出は運べても物は持っていけないと悲しそうにいっていますが、その思い出までも忘れてやしませんか?


(しかし、いくらなんでも最愛の方からの贈り物を、今の今ままで忘れていただなんて……)

(いやいや、オババの掛けた魔術があったからの。彼奴の魔術はスゴいぞ。ある程度の魔力が補充されていればいつまでも無事なのがわかっていた。それにあそこに置いておけば誰も手出しせんと思っとったから少し忘れていただけじゃ。……しかしいつの間に外に出たんじゃ?)

(あの時のどさくさで金目の物だと思って誰かが持っていったのではないですか? それより先程わたしがあの魔術を描き移したのを、ハイディ先生が嬉しそうに複写してましたよ。解析されるのは時間の問題では?)


 少し意地悪っぽくいったのですが(大丈夫じゃろ。アレはワシの魔力が登録されとるから、ワシ以外には解除出来ん)とのことでした。

  

 ……しかしそんな大事な物とは、一体なんなのでしょうね?


 何が書かれているのか、そもそも何なのか。革の塊の詳細については先程からいくら尋ねてもダンマリです。こういう時に顔が見えないのは不便ですね。

 

 生徒達が不思議そうにしている中、教師達は術具を必死に操作して写す角度を変えたりしながら検証に夢中です。

 そして「この時の前後を見たい!」などと言い出しましたが、わたしとしては当然「そこまで過去ですと魔力の高まりが無い所は術具に負担が大きいからだめです。何せ本格運用前の組み上げたばかりですからね」と突っぱねたのですが、よせばよいのにハイディの権限で勝手に操作し過度な魔力を加えたことで、結局残魔術具は完成したその日に大きな音をたてて壊れてしまいました。


「やっぱり実験には爆発が必須だね!」


 その様子にアリシアだけが楽しそうにしています。


 ……いわんこっちゃありません。どうすんですかこれ……。

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