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其の24 残留魔素解析写出術具

 革は保存状態が悪いと経年劣化で革の色が手に付いてしまいますので触りたくないのですが、ハイディが「触ってごらんなさい」というので渋々それに手に取ると「あっ……」微量ながら魔力を感じ、また僅かばかりですが魔力を吸われました。指を見ても汚れていません。


「……何か魔力を感じますね。相当古そう物なのにそこまで傷んでなさそうです。……これは一体何なのですか?」


 古びた革が重ねてあり、今やただの塊となっています。

 周りの者がわたし同様不思議そうな顔で覗き込んでいますが、ハイディだけは「これはある種の書物、若しくは書き置きかと思われる物に定着の魔術が施されています」と得意げにしています。


「ここをご覧なさい」


 ハイディが指し示す所を見ると何か書いてありました。


「……え〜っと、これは『禁帯出 アンナ』と読めますね」


 古い言葉で書かれているため、ハイディとわたし以外の者でここで読めるのはいませんでした。掠れていて他の文字は判読が難しくそこしかわかりません。


「そうです。それにほら、ここにラミ王国の紋章も見えますね」

 

 それはみなさんわかったらしく、頷いています。


「今とは多少意匠が異なりますが、これはかれこれ数百年以上昔に使われていた物になります」

「確かに由緒がありそうな物ですが、しかしこれは一体どうされたのですか?」

「昔、とあるノミ市で見つけたのです」


 ……それはまた怪しさこの上ないですね。


(アンナさま、これに見覚えありますか?)

(流石に昔過ぎて覚えておらんぞ。紙が無かった頃は鞣した革に書き込んでおったが、そんな物幾つもあったぞ。それにこの魔力も色んな者が上書きしとるからよくわからん。これだけじゃ何ともいえんな)


 ……ですよね。


 みな一様に訝しがる視線をハイディに向けましたが、彼女は全くそれを気にせず「確認済みです」と言い切りました。


「座年にながら、どの様な定着の魔術が施されているのかは確認が取れず解除出来ませんでした。またそれにより革が張り付いているか如く一体化されているために中身の確認が出来ませんが、表面に書かれている文字を王城の研究者達と共に、残されている資料と照らし合わせた結果、高い確率でアンナ女王かそれに近しい物であると結論づけました」

 

 しかし古くて重要そうな物ではあっても中身がわからず、また特に謂れのある物でなく、むしろ出所が怪しい物であることから、発見者であるハイディの預かりになっているそうです。


「まあ、何か良くわからないけど、実験なんだからコレでいいんじゃない?」


 早くやろうよーと、アリシアが面倒臭そうに言い放ちます。


 ……貴女に興味がなのいのはわかりますが、もう少し場の空気を読んだり言葉を選べないものですかね?


 ハイディの目が吊り上がるのを見て慌てて割って入ります。


「そ、そうですね。これがどんなに貴重な物であっても、対象物に影響がある術具ではありませんから、問題はないですよね」

「……そうですか」


 こうして実験の過程を飛ばし、冷え冷えとする視線を受けながら、なし崩し的に本番が始まりました。

 





「では、まず魔力を込めますね」


 これから術具を起動する前に必要な魔力を込めなければいけないのですが「アタシは最終チェックをするね!」アリシアは早々に逃げ出し、苦笑いする先輩方と共に魔力を供給し始めます。


「あ、ちょっと待って! ココからココの回路は同じ人の魔力の方が効率良いから気を付けて! あとコッチとココも……」


 自分はやらないくせに口は出してきます。


 ……結局、八割方はわたしが魔力を込めたのではないですかね?


 始まる前から既に疲労困憊です。ともあれ準備は整いました。





 どうしてもというので、最初に起動させるのをアリシアに任せましたが「タイムマシン、スイッチオン!」という掛け声はやめて下さい。ハイディが困惑していますよ。


「……あれはどの様な意味があるのですか? この術具の名称でしょうか?」

「いえいえ、あれはあの娘が勝手にいっているだけでして、この術具とは全く関係ありません。これの正式名称は『残留魔素解析写出術具』になるのですが、そのままでは長いのでわたし達は略して残魔術具とか残魔写などと呼んでいます」


 ゴウゴウと大きな音を立てながら術具が動き出しました。


「一応問題はないとは思いますが、そこのガラス戸から三尺程は離れておいて下さい。余計な魔力が影響するかも知れませんので」


 装置の中央に位置する空間に対象物を入れて稼働させるのですが、対象物から魔素を抽出し構築し直すため、余計な魔力の干渉は極力排除します。


「それで、これはどこに写し出されるのですか?」

「ここです」


 対象物を入れた戸の横にある、一尺四方程の黒い板を指差します。


「これ……ですか?」


 ハイディは講義で使う様な大きな画面を想像していたのでしょうか、眉を顰めてしまいました。


「あー……ハイディ女史。恐らく貴女が考えている『見える』とは少々異なるのですよ。そもそも我々が見るとるいうのは……」


 ハイディのことはカスパーにお任せしますね。わたし達はその間に計器類の確認作業に入ります。


「動作自体は問題無さそうですね」

「そうだな。順調に動いてる」


 主に組み上げ担当の先輩達が誇らしげにしているのを見て、わたしも安心したのと嬉しく思っていたのですが、ここで一つの問題が発生してしまいました。


「ここは動作の確実性を確認するためにも、掛けられた魔術を軸に精査すべきでは?」

「いや、魔術が掛けられる以前にこれが存在していたのは明らかなのだから、革を先に調査すべきだ」


 と、先輩達と教師達の間で議論が勃発。


 今はまだ対象物の残留魔素を回収及び分析中になりますので、精々おかしな動きをしないか計器の確認をすることぐらいしかなく、時間があるので構いませんが、アリシアと共にその様子を呆れながら見ていました。


「さてこれ、どうしましょう?」

「なんかイロイロいってるけど、取り敢えず一番確実な所から攻めるのが定石じゃない?」

「やはりそう思いますよね。なら……」


 未だカスパーの説明を受けているハイディの元へ確認しに行きました。


「もし、ハイディ先生。あの革の塊なのですが、入手された日時を詳しく覚えていらっしゃいますか?」

「もちろんです。あれは……」


 流石研究者です。かなり正確に細かく書き留めていました。これは助かります。


 術具に戻ると魔素の解析が終わっていましたので、未だ討論中の方々は放って置き、アリシアと共に日時の設定を入れるとサッサと始動させました。

 そのまま写出板の黒い板を注視していると、砂が流れる様に動き出し、そして徐々に砂で絵を描く様に形作られていきます。


 ───やりました!


 成功を確信しました。期待通りの動きをしています。

 さて、何が写し出されるのかと興味津々にそのままアリシアと共に見ていたのでしたが……。


『わぁっ!』


 驚きのあまり二人して大声を上げてしまいました。


 その声に「なんだなんだ?」「どうした?」「壊れたか?」「壊したか⁉︎」「失敗か⁉︎」と、みんなが慌てて集まってしまいました。


「い、いえ、問題なく動いています。大丈夫です。成功です。ただ、出て来た画像を見て驚いただけです」


 そこに写し出された画像は、かつて見たことがないものでしたが一目でそれとわかった、ハイディの満面の笑顔でした。

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