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其の22 呼び出し

 現在アリシアと共に魔工学の講義で研究中なものは幾つかあります。


 中でもわたしが現在一番力を入れているのは、従来の魔物魔石で作られた術具を鉱物魔石で補い、魔力消費及び効率化させる術具の製作です。


 魔物から採れる魔石は鉱物魔石よりも複雑なことが出来ませんが、その分耐久性はずば抜けており、かなり昔に設置された術具でも未だ現役な物が多く存在します。そのため既存の仕組みを変えることなく、新しい術具でそれを補うのであれば信頼性も担保されたまま費用面も安く済みます。

 未だ実験段階を抜けていませんが、既に我が寮と魔工学の講義室に設置してみたところ、魔力の消費が少ない上に効率的な働きをすると高評価を頂いています。


「……カスパー先生、あの術具のことですかね?……」

「かもしれん。教練棟にも欲しいと言ってた者がおったからな。ここも随分と古いからのぉ……」

「ですがアレはまだ量産出来ていませんよ? 鉱物魔石に仕込む術式が複雑で描くのが大変なのですから」

「ワシも目が弱くなってなければ手伝えるんじゃが……」


 二人後ろを向いてヒソヒソ声で話していましたが、ハイディにはしっかりと聞こえていたらしく、ため息混じりの呆れた声でこちらを向く様に言われてしまいました。


「お二人とも、そんな物ではありません。わたしが言いたいのは貴方方が研究している、魔力の残滓を拾い集めて写し出す術具の事です」


 確かにそんな物も研究していました。

 しかしその術具は計画の段階でかなりの魔石を使用することがわかり、これでは講義費を圧迫することが明白ですので早々に諦めており、今後効率的な鉱物魔石の加工が出来るまで棚上げされています。目下アリシアが「SFがもうすぐそこに! 魔法の世界バンザイ!」と、いつもの如く訳の分からないことを言いながら奮闘中なのですが、今のところ完成の目処は全く立っていません。

 

 可哀想にハイディにジロリと睨まれてカスパーが困惑しています。既にその存在自体を忘れてしまっているのでしょう。仕方がありませんね。わたしが横から口を挟みます。


「はい。確かに計画の段階で止まっていますが、それについてもわたし達は研究していました。ですが何故先生がそれを?」


 計画段階の術具を知っていることにも驚きましたが、ハイディがそれに興味を持っていることにも驚きました。何せこれを作る目的はわたしが古の魔術を掘り起こしたいからなのです。


 以前学園の外を歩いてる時に、アンナが懐かしそうに王城やその付近の建物は昔からそう変化がない。アレは何々、コレはどうだったと楽しそうに騒いでいましたので、呆れながら「忘れっぽいくせに、そんなことはよく覚えているものですね」と、嫌味をこぼしたところ、その返答が「魔力の残滓から感じ取れるのだ」といったやり取りがあったからなのです。

 

 詳しく聞けばアンナのいうところの、オババが魔術を行使した場所も未だ健在なのだそうで、でしたらその場所に行くか、或いはそこにあった物を持って来さえすれば、魔力の残滓からその時実際に行われた魔術を確認出来るのでは? と言う考えから生まれたのです。いつになるかわからない王城の書架へ入れる様になるまでなんて待ってはいられませんからね。

 

 魔力の残滓を集め、元の通りに復元するのには途方もない程に膨大な魔力が必要になるため不可能ですが、ある程度小さい範囲を平面にして、それを表示すること自体はそこまでの魔力は消費しなさそうです。アリシアと共に一生懸命計算しました。因みにその計算を元に試しに図面を引いてみたところ、それを見たカスパーが「うちの予算が……」と泡を吹いて倒れそうになってしまっています。


 ……しかしそんなものをハイディ先生が興味をしめすとは……それに一体どこから嗅ぎ付けたのでしょう?


 わたしが不思議そうな顔をしてハイディを見つめていますと、ハイディが大きなため息を吐きながら「何故わからないのですか?」と、残念そうにわたしを見つめ返します。


「貴女はわたしの専門を忘れたのですか? そんな有意義な研究は、正にわたしの為にある様なものじゃないですか」


 ……ハイディの専門は史学になり、それも古い時代になります。


 なるほど。合点がいきました。


「……要は、その術具を使って歴史を詳らかにしたいと、そう仰る訳ですね?」

「当然です! 過ぎ去ってしまった歴史のひとときを間接的にとはいえこの目で直に見れるのですよ! 研究者としての夢ではないですか! 何故貴方方はこの素晴らしき事態を理解していないのですか! ……」


 しばらくの間、カスパーと共に大人しくハイディの演説を拝聴することになってしまいました。

 

 



 顔を真っ赤にしながら身振り手振りを加えて騒いでいたから流石に疲れたのか、それとも言いたいことは全ていい終えたのかはわかりませんが一旦間が開きました。すかさず伝えておかなければならないことを進言します。


「……ハイディ先生、崇高なお志と御高説は賜りましたが、残念ながらその術具は作れないのですよ」


 わたしも作れるのなら作りたいのですが、状況がそれを許しません。


「何をおっしゃいます! 技術的に困難だというのですか?」

「確かに高度で複雑な術具になりますのでそれもありますが、主に足りないのは、その……予算の面でして……」


 わたしよりも隣にいるカスパーの方が顔を赤くして恥ずかしそうにしています。


 魔工学は国の重要な産業の一つです。

 学園でも魔工学には力を入れておりますので、それなりに予算は配分されていますが、いかんせん金食い虫の研究です。お金は幾らあっても足りません。常に予算確保に奔走しているのが現状です。


 そのことはハイディもわかっているらしく「そうですか。それでは仕方がありませんね」と一旦引いてくれました。


「ご理解頂けて有難う存じます」

「で、それは如何ほどかかるのですか?」

「え⁉︎」


 既に凍結している案件です。流石にこの場で正確な見積の金額なんてわかりません。そもそも丼勘定の予算案しかないのですから。

 わからないとはいわせないハイディの圧力に愛想笑いで誤魔化していると、カスパーがスッと前に出て懐から紙の束を取り出すと、その内の一枚をハイディに渡しました。


「どれどれ……」


 コッソリと「念のため色々と持ってきておいた」と教えてくれました。流石年の功ですね。抜け目がありません。


 しかしそれを見てまた騒ぐのかと心配をしていましたが、意外にも「こんなものですか」平然としています。


「これなら不足分はうちで持てますね。すぐに取り掛かって下さい」

「えぇ⁉︎」

「何を驚いているのですか? うちの講義はこれでも王族御用達ですよ。それなりに予算も潤沢なのです。それに貴方方もそのつもりで今日来たのではないのですか?」


 驚きのあまりカスパーと見合い、目を大きく見開いてしまいました。


「全く……話しを持って来た当人がいないとは……道理で話しがうまく噛み合いませんでしたよ」


 ───ア、アリシアー!

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