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其の222 現れ出た者

(どうしました? 凄い!? 何がですか?)


 ここまで慌てているアリシアも珍しく、わたしの方か驚きました。


(オバケッ! オバケが出たのッ!)


 ……また訳の分からないことを……。


(落ち着きなさい。良い歳をしてみっともない。そのオバケとやらは一体何なのですか? 今、貴女がいる場所特有のものなのですか? イザベラさまは何かご存知で?)

(いいえ? 聞いたことないわ?)

(もっとわかりやすくわたし達にもわかる様、具体的にお願いします)

(う、うん……)






 落ち着かせるまでに少し時間が掛かりました。


(……さっきね、入るのは問題なく入れたんだけど……)


 アンナという優秀な導き手のお陰もありましたが、そこは流石のアリシアです。初めてのことだというのに恙なくブルノルフの元へ行くことが出来たそうですが、いざ中に入るとその領域はとても窮屈に感じ居心地が悪かったそうです。


 ……アリシアはわたしの魔力に繋がっていますから、他の者の魔力が満ちている所ですと反発するのですかね?


 それで入れたのはいいのですが、これでは魔石のある場所まで行くのは大変そうだと思っていると、一緒にいたアンナは平然としており「暫し待っとれ」慣れた手つきで魔石へと通じる道を探し始めたそうです。


 便宜上「道」といっていますが実際には違うらしく、魔石は生物の丹田の下部辺りに有りますが彼女達のいる階層とは異なる為に現実との場所や距離は関係ありません。本のように幾つもの層が重なった中に存在しているのだそうです。そこから魔石のある層を見つけ出す作業が必要になるのですが、しかしそこはだてに数百年もの間、人の中を彷徨っていただけのことはあるアンナでした。彼女にとって見つけ出すのは難しいことではなく直ぐにもそれは見つかったそうで、早速二人していざ分析に掛かろうとしたその時のことだったそうです。


(そしたらいきなり出たの!)


 アンナとアリシアしかいないその空間で突然(お主ら何をやっとる)と声を掛けられ、驚いてそちらに振り返ってみれば、その風貌を見て更に驚き思わず飛んで逃げて来たとのことでした。


(その者がオバケ? なのですか?)

(そうよ! あんなトコにいるなんてぜったいオバケ! それにバケモノみたいだった!)


 悍しいその異形な風貌だとか手の数がどうだったかと巻くし立てています。驚いて怖がっていた割にはよく見ていた様でして、その詳細な内容を聞きいている内にふと以前何か似たようなことを聞いたことがあるような気がして考え込みます。


 ───ん!?


 するとそこに突然、二人分のわたしの中に降りて来た感触があり、そちらの方が気になりました。


 ……二人分!?


(ギャーッ! でたーッッッ!)

(なんじゃい喧しい)

(フォッホォホォ。小娘、人のことを化け物呼ばわりするでないぞ)

(ヒィーッ!)


 ……アンナさまと……誰?


 頭の中に聞き慣れない老婆の声が響き、思わず警戒しましたが頭の中のことなのでどうにもなりません。アリシアはイザベラの背後に隠れてしまっている様ですが、わたしは自分の中の出来事ですからどこにも逃げることが出来ません。イザベラは(あら、個性的な方ねぇ)などといっていますが、その反応は元聖職者ならではの心の広さから来るものなのでしょうか。ですが恐らくそんな生優しい者ではないでしょう。頭の中がピリピリしています。


 鞭を握る掌が汗ばんでいくのを感じながら恐る恐る訪ねました。


(……も、もし……どなたさまでいらっしゃいますか……?)


 その問いに対して答えたのはアンナでした。


(ほれ、以前話したことがあるじゃろ。前にワシが世話になったオババじゃよ)


 殊勝にも彼女がお世話になったという者で、オババと呼ぶ者に心辺りは一人しかいません。


 ……例の諸悪の根源ですか……。


 その者はかつてラミ王国に滞在し、アンナの師匠でもあり今のアンナを作り出した張本人。


「……お話しは聞き及んでおります。ラミ王国発展の礎となられたお方だと。その節はお力添え頂き有難う存じました」


 ……余計なことしてくれたものです……。


「しかし、そんな貴女さまが何故ここに?」


 以前はアンナの中にいた筈ですが、もう随分と前に「もう十分じゃろう」と出ていったと聞いています。


「ほう、オヌシが今のアンナの依代か。いや何、ちとやることを思い出してな」








 彼女の本名はアンナも知りません。もしかしたら固有の名称が無いのかも知れません。オババはわたし達が住む大陸とは違うもっと遠い場所から来たのだそうです。


 大昔しに彼女がここへ来た目的は魔石にありました。彼女達の住う土地では専ら魔術が発達していましたが、生物産も鉱物産も魔石が存在しないそうです。


 ……そもそも、わたし達と彼女は身体の仕組みが違いそうですしね……。


 話しに聞いているだけで見えてはいませんが、同じ生物あるのだと定義しても良いのかすら疑わしく思えます。


 そんな彼女達ですが、遠いこの地に魔力を蓄えられる魔石なる物があることを知り、そんな便利な物があるなら是非とも欲しいと、手に入れる手段を講じる為に派遣された者だったそうです。


「アンナにかまけて忘れておったわ。まあ多少遅くなろうが構わんがの。フォッフォフォ……」


 ……時間の流れも違うのかも知れませんね……。


 呑気なものですが、今は無事そのお勤めを果たし、年に数度パンラ王国から定期船が出ているとのこと。何故パンラ王国を選んだかというと色々都合が良かったそうです。


 水深の深い海岸線がある為、大陸間を行く大型船が寄港出来ることや、目的地がこの大陸から西側に位置することからも選んだのだのだそうですが、恐らく一番の理由はラミ王国から離れていたからだったと思います。


 ……アンナさまがいては、好き勝手出来なかったでしょうからね……。


 その方が君主を操り危険な魔獣の養殖業を起こすのも都合が良かったのでしょう。

 

 凡その事情と状況はわかりました。今のパンラ王国があるのも、あの奇怪なブルノルフの状態についても全てオババの仕業。ならば彼女は極めて重要人物です。


(オババさまがこちらにいらっしゃるのは、魔石が目的なのですね?)

(そうじゃよ。それと、オババで構わん)

(有難う存じます。では一つご相談なのですが……)


 この機にこちら側に取り込みましょう。このまま放置していてはいけない気がします。


 予想通り魔石が安定供給出来さえすればパンラ王国であろうとブルノルフでなくとも構わないとのことでした。


(それで、鉱物産の魔石は足りていらっしゃいますか?)

(む……そうじゃな……)


 パンラ王国でも採取出来ていますがその数は少なく、正直もっと欲しいとのことです。それもあって現在隣国にちょっかいを出しているのもあるみたいでした。迷惑な話しです。


 ……なら……。

 

 アンナをこうとした張本人ですから、わたしの事情は当然知っています。そしてブルノルフを通して国際情勢も把握していました。


(わたしでしたら鉱物産もそれなりにご用意することが可能です。またアンナさまがいらっしゃらなくなった後でも、わたしの権限で持ってその貿易を履行し続けることをお約束致します)

(ふむ。良い提案じゃが、この場でワレの一存では決められぬな)


 その為に羊皮紙を要求されました。


(何をなさるのでしょう?)

(向こうと連絡を取るのに使うのじゃよ)


 そこに術式を認め魔術で連絡を取るのだと。紙でも構わないが使い慣れた物が良いとのことです。

 

 いわれた通り懐から取り出して用意をしましたが、オババから伝えられてわたしが代筆するには片手が鞭で塞がっていますから不便です。上手く描けるのか心配していると。


(そのまま持っとれ)


 みるみる内に手に持っていた無地の羊皮紙に勝手に術式が刻まれると、すぐに魔術が行使され手元から羊皮紙が消えて無くなりました。


 ───ッ!


(流石オババじゃな。相変わらず見事なものじゃ)

(フォッフォフォ……まだまだ衰えておらんよ)


 目の前で見ていても、どの様にして頭の中からこちら側に干渉しているかわかりませんでした。あの不可思議な玉座の件もありますから、根本的に彼女はわたし達とは異なる存在なのでしょう。


 信じられない光景を目の当たりにして呆気に取られている内に返答があった様で(オヌシの案に乗ろう)無事了承を得られました。


(有難う存じます。では暫しの間、このままわたしの元に滞在なさって下さいませ)


 わたしの魔力量を持ってすれば今更一人分増えた所で問題ありません。アリシアから悲鳴が上がりましたが気にしません。オババがわたしの中に居るのもそう長くは無い筈です。暫く我慢して下さい。


(それにしても見事なものですね。なら、もしや先程アンナさまの鞭に掛かっていた状態保存の魔術を壊したのもオババさまでしたか?)

(うむ、そうじゃ。正確には描き変えることで無効化したのじゃがな。あんな物を喰らったら、ワレの依代が壊れてしまうからの)


 思った通りでした。これは敵に回したくありません。身震いがします。大事に至る前にこちら側に取り込めたことを安堵し胸を撫で下ろしました。しかし味方であればなんとも心強い。


(そうでしたか。なら、今また改めてアンナさまの鞭に状態保存の魔術を描くことはお出来になりますか?)


 折角ですから耐久性だけは戻したく思うのですよ。


(無論可能じゃよ。……じゃが、意味があるかの?)

(何故です?)

(ほれ、もう千切れかかっとる)


 ───ッ!

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