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其の219 ブルノルフ対彼女等

 わたしのことを思っての行動なのでしょう。それにはとても嬉しく思いますが、残念ながら貴女方で敵う相手ではありません。


 止める間も無く三人は行動に移してしまいましたが、案の定ブルノルフは突然刀や槍を受けても平気な顔をしています。突然の襲撃に驚くこともなくその身体には傷一つ付いていません。そして彼は落ち着いて反撃に掛かりました。振り上げた拳が音を立てて三人に襲い掛かります。


 ───危ない!


 しかし何とか交わして難を逃れました。


 ……ふぅ……。


 三人の無事な様子を見てホッとしましたが、呑気に安堵していられる状況ではありません。その後もレイ達は逃げ出すことなく果敢に攻め続けているからです。

 

 当然ながら彼女達の旗色は悪く文字通り歯が立たない状況です。このままでは倒すどころか逆にやられてしまうのは時間の問題。今のわたし達が取れる最善の行動は逃げの一手しかありません。命あっての物種です。幸いミスティ達が開けた穴がありますからそこから出ましょう。問題は彼女達をあの状況からどう引き離すか。


 ……魔法で攻撃して目眩しでもしてもらって隙を作っている内に、ベルナのことはレイに任せるとして、ミスティとライナはわたしが抱えて……いえ、それですと逆にわたしが足手纏いになりますね……いっそのこと風の魔法でみんなを飛ばしてもらいましょうか。しかしそれをするには複雑で面倒な魔法操作になりますから、それはアリシアに頼むとして、イザベラさまには陽動の魔法を……。


 急いで逃げる算段をしていたのですが「おい! ミリー!」突然声を掛けられて思考を邪魔されてしまいました。


 ───なんですかこんな時に!


 せっかくブルノルフのわたしへの注意が逸れたことで考える余裕が出来ていましたのに、これでは台無しです!


 声のした方を睨み付けながら見ると、そこにはいつの間にか目覚めていたミアが恍惚とした表情でブルノルフを見つめていました。


 ……なんでしょうね、気持ちの悪い……なんでも構いませんが、騒がしくするのでしたらそのまま寝ていて欲しかったですよ……。


 レイも余計なことをしてくれたものだと少しだけでも思ってしまったのは、わたしが狭量なせいでしょう。これは精進せねばなりませんね。


「やっぱりお前について来て正解だったな!」


 ……? 


 死の淵を覗いたことで、更に頭がおかしくなってしまったのでしょうか。


「なんだアイツは! いいのがいるじゃないか!」


 わたしに話し掛けてはいても、今のミアの目にはブルノルフしか映っていません。そのままひとしきり歓喜に震えていると、突然走り出してレイ達を押し退けブルノルフの元へ一直線。


「あたしにもっと見せてみなーッ!」

「───なッ!?」


 そしてそのまま二人で激しい格闘戦を始めてしまいました。


 ……お姉さま、理想的なお相手が見つかった様で良かったですね。しかし人の趣味に口出しはしたくありませんが、彼奴を義兄と呼ぶのだけは勘弁して欲しく思いますよ……。


 彼女は今対峙している者の正体が気にならない程に興奮していました。


 相手が無手だからそれに合わせているのか、魔力で身体を強化はしていても魔法は使わずに素手で打ち込んでいます。


 闘いは拮抗していました。


 如何に強靭な肉体を持つブルノルフであっても格闘の技術は素人に毛が生えた程度のものに見えます。技量はミアの方が明らかに格上。互いに決定打が出ずに激しい闘いが続いていました。そんな戦況下、嬉しさのあまり破顔一笑なミアに対し、対照的にブルノルフは苦虫を噛み潰した様な表情をしています。二人だけのなんともいえない不思議な空間が出来上がっていました。


 この勝負、どちらが勝利しても色々と問題が起きてしまうことでしょう。出来ればわたしの平穏の為にも相打ちを望みますが……しかしこの状況は好都合。


 ───よし! 今の内です!


 今なら逃げるのは容易いです。彼のことはミアに任せました。煮るなり焼くなり好きにして下さい。そのまま永遠に戦い続けてくれても結構ですよ。わたしの為にも是非!







 息を吹き返したベルナだけでなく、魔石を砕いた成り掛けた者達の中で動ける者も一緒に連れて議場内から脱出することが出来ました。このことについてはミアに感謝しましょう。


 廊下にも魔獣の死骸が何頭も転がっていました。隣でミスティとライナが得意そうにしていることからも彼女達が倒したモノなのでしょう。彼女達の頭を撫でて誉めつつ周りを見渡し指示をします。


「これからみんなで外に向かいます。外に出ればわたしの部下達が居ますから、ここにいるよりは安全な筈です。建物内にはまだ魔獣が残っている恐れがありますから各自注意する様に」


 成り掛けの者達もわたしの言葉に素直に頷きました。何せ完全に魔獣化する前に止めてくれた者の言葉ですから当然でしょう。


 ……ですが、原因は別にしても要因はわたしにあるのですよね……。


 多少良心の呵責に苛まれましたが、本人達が何もいわないのですから気にしません。済ました顔で人員の配置を始めます。


 ここにいる成り掛けの者はみな非戦闘員。うっかりすると出会い頭に魔獣と遭遇するとやられてしまう恐れがあります。せっかく連れ出したのですから勿体無いことはしたくありません。その為、わたしとミスティ達が先頭に立ち、レイにしんがりを任せて進むことにしました。これなら盤石。しかし、いざ出発する段でわたしの足が止まってしまいました。


「おかあさん、どうしたの?」

「……少々お待ち下さい……」


 アンナから聞き捨てならないことをいわれ、思わず表情も固くなります。


(……それは本気で仰っているのでしょうか……)

(無論当然じゃ。お主も気になっておろう?)

(まぁ、ミリー一人なら大丈夫じゃない?)

(まぁ! よしましょうよ。危ないわ)

(……)

 

 他の二入とも相談し少し考え込んだ後、レイを呼びました。


「わたしはまだここに残ることにしました。貴女は先にこの子達と彼等を連れてレニー達の元へ行って下さい」

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