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其の218 やって来た者

 もうこれ以上の厄介事は勘弁して下さい! わたしが一体何をしたというのですかー!


 全ての元凶であるアンナに対して恨言を思いながら、みっともなくも泣き出しそうになりました。しかしその空いた穴から出て来た者の姿を見て、驚きのあまり涙なんて引っ込みます。


 ───何故貴女達がここにいるのですかー!


「あ、おかあさんいた!」

「ミリねえみつけた!」


 ミスティとライナの呑気にそうに笑う顔を見て力が抜けていきました。しかし相変わらず仲の良い二人なのは結構ですが他の者達の姿が見えません。二人だけ。


「まさか、貴女たち二人だけでここに!?」

「うん!」

「そう!」


 話しを聞いたところ、予想通り外で待機していた者達の所でも魔獣騒動が起きていました。しかし突然の事態にも関わらず大きな混乱は起きずにレニーの指示の元、危なげなく対処をしているそうです。こちらと同じ様に成り掛けの者は魔石を砕き魔獣化を止め、成ってしまったモノは退治と粛々と作業を進めているみたいでした。


「でも、まだたくさんいるの」


 一頭あたりの脅威は大したことがなくとも数が多いのには難儀しているそうで、他の者達はこれ以上議場内に魔獣を入れさせない為に入り口を死守するので精一杯。そんな中、二人は庇われる側だったらしく戦闘には参加せずに手が空いており、丸腰で困ているであろうわたしのことを心配し、まだ建物内に残る魔獣を倒しつつ得物を持ってここまで来てくれたとのことでした。


 ……見上げた子達ですね。流石わたしの妹に娘! どこぞの郡姉とは大違いですね……。


「はい、これミリねえの」


 ミスティが得意げにアンナの鞭を突き出して来ました。


「有難う存じます」

「でも、よくこんなの使えるねー」


 ここまで来るのはそう大変ではなかったそうですが、議場内の扉が開かず困ってしまい、二人協力してこの鞭に魔力を込めることで破壊して入って来たそうです。共に魔力をかなり消費した様で疲れた顔をしています。


「お二人共、助かりました。お疲れ様でしたね。暫く端で休んでいなさい」


 二人を労うと、受け取った鞭を見て思わず笑みがこぼれました。これさえあれば鬼に金棒。


 呑気に話し込んでいないでこっちに集中しろと怒られてしまい、アリシアとイザベラに謝りながらブルノルフに向かって鞭を向けます。


「お待たせしました。さあ、これで形勢逆転です! 覚悟なさい!」


 わたしが鞭を構えたことで、一瞬ブルノルフの動きが止まりました。


「む……それはアンナの鞭か……」


 ───何故貴方がコレを知っているのですか?


(アンナさま! 本当に彼奴のことは知らないのですか!)

(知らん! 知らんぞ!)


 相変わらず気味が悪くて仕方がありませんが、仕留めて仕舞えばその憂も晴れるでしょう。拙速は巧遅に勝ります。アンナ達には一旦魔法を止めてもらうと、鞭を握り締めてありったけの魔力を込めてブルノルフ目掛けて力一杯振るいました。


 この鞭はアンナの特別製。


 強靭な魔獣の革の素材と高度な魔術を組み合わせた一品です。鞭自体の強度もさることながら表面には小さな刃が沢山ついており、それが魔力で振動することでどんな物でも切り裂き破壊することが可能になっていました。更には状態保存の魔術も施されている為に損傷の恐れもありません。作られてから数百年経つ今でも実用可能。魔力の消費量さえ気にしなければこれ以上の得物はありません。正直、人に向けるには憚られる代物ですが彼に対しては構わないでしょう。むしろこれでしか対応出来ないかと思います。


 絶対の信頼を置きながら確信を持って袈裟懸けで打ち込むのでしたが……。


 ───へぇ!?

 

 予想外の事態に思わず眼鏡がズレ落ちました。


(アンナさま……わたしには鞭の刃が欠けた様に見えましたが……)

(う、うむ……ワシにもそう見えたぞ……)


 切れるどころか彼には傷一つ付けられず、鞭に付いていた刃が飛び散り損傷してしまい、力無く鞭が跳ね返って来ました。


 まさかこの子達がわざわざ偽物を渡したとも思えません。先程これを使って中へと入って来ています。それに慣れ親しんだこの感触からもこれは本物のアンナの鞭であるのは間違いありません。


 ……なら、何故?


(むむ! 切れとる!)

(何がですか!)


 ちゃんと眼鏡をかけて良く見ろとのアンナの言葉に慌てて鞭を凝視すると、状態保存の魔術が掛かっていませんでした。


(───ッ! これ、壊れたのですか!)

(そんなことはない! それ故の状態保存の魔術だぞ!)


 鞭には他にも様々な魔術が掛けてありましたが何も消失しています。これではただの鞭。


(なら何故!)

(わからん!)

(わからんじゃないですよ!)


 頭の中で二人して混乱しいい合いをしていると、そこにアリシアから忠告が。


(ねー、アレほっといていいの?)

(え?)

 

 先程わたしが鞭で攻撃する為に、ブルノルフに対しての魔法攻撃は一旦取り止めてもらっていました。しかしそれが不発に終わり、呆然として無防備なわたしに対して得意げになっているブルノルフが、わたしに攻撃をするべく向かって来ているののだそうですが、そこに得物を受け取ったレイ、ミスティとライナの三人がブルノルフの死角から攻撃を仕掛けようとしているとのことでした。


 ───待って下さい! 早まってはいけませーん!

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