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其の216 雷の魔術

 辺り一面からお肉の焼ける様な匂いがしています。


 目がチカチカして耳鳴りはしていますが、意識はハッキリしていますし身体に痛みはありません。怪我はなさそうです。


 ……ふぅ……何とか助かりましたか……。


 杖を投げたことと伏せたことで難を逃れられたのでしょう。我ながら咄嗟にしては良い判断だったと心の中で自画自賛していると、頭の中からアリシアが(フウ〜、大変だったけどうまくいって良かった!)と。


(え!?)

(ミリー、アレでどうにかなると思ったの? 雷のエネルギーってスゴイのよ!)


 例えその直撃を喰らわなくとも、近くに落ちたら側撃とやらで無事では済まないのが落雷の恐ろしさ。どうやら助かったのはアリシアの魔法のお陰の様でした。お恥ずかしい……。


(雷だっていうからさ、咄嗟に水の魔法と風の魔法を組み合わせたの。ホラ、雷は電気でしょ? だから……)


 アリシア曰く、雷の正体は電気というものだそうです。物質を司る原子の核が〜……等と難しいことをいわれてもよくわかりませんが、雷の恐ろしさはよく知っています。水の魔法といっていましたが、水の中にいる時に雷が鳴ったら直ぐに出て逃げろというのは常識で、水と雷は相性が悪いものだと思っていましたがその限りではないとか。それは水の中に含まれる物質が問題なのだそうで、そうでない水もあるのだそうです。


「最初はね、妖精が作る水は純水だから絶縁体になるけど、出したらすぐに大気と混じって純水じゃなくなっちゃうから、風の魔法で真空状態を作り出して純水を維持しようと思ったんだけど……」


 ここは妖精の少ない場所です。水を出す分には問題はなくとも風を司る妖精にそこまで高度に行使させるには数が少なくて無理だったそうです。


(だからミリー、ごめんね)

(え?)

(いきなりだったから、加減がわかんなくて全部使っちゃった!)


 ……?


 わたしは常に色々な物を持ち歩いています。職務柄、筆記用具に決済や認めの印等は重要ですし、花も恥じらう乙女ですからか櫛や化粧品、懐紙等、それに常備薬等も必需品。ここには持ち込めないので今は持ってはいませんが、護身用の術具やアンナの鞭といった物まで色々と。正確には御付きが持っているのですが。それらを普段ならばマダリンが持っていて今はレイが持っています。


 そんな物の中には、わたしが特段好きだからではなく、疲労回復の為に甘い物がありました。


 ……何せ普段から四人前ですからね……。


 頭を使うと糖分が必須なのです。


 それはもちろんラミ王国から持参していましたが、今回の旅路も色々と疲れることが多く、甘味は早々に底をついてしまい、今はラャキ国で入手したお菓子を持ち歩いていました。


 しかしそこは流石ラャキ国。お菓子といってもラミ王国の物とは比較になりません。お菓子というのもおこがましいただお砂糖を固めただけの物。しかし甘味には違いがありません。糖分の補給には充分事足りますのでそれを持ち歩いていましたが、それを粉砕して水に混ぜて使ったとのことでした。


(命あっての物種ですから、そんな物いくら使ってもらったところで構いやしませんが……それで防げるものなのですか?)

(急いで風の魔法で取り出して撹拌して砂糖水を作ったのよ。それでも正確には電気を通しにくくするだけね。非電解質も雷みたいな高電圧は通しちゃうから……)


 そこはアリシアの巧みな操作で雷を上手くいなすことで難を逃れたのだそうです。


(はぁ……それは色々と大変だったのですね。有難う存じます。それにしてもその「デンキ」とやらは中々興味深いですね)

(でしょ! コッチの世界では魔力がそれに変わる物だと思うけど、その概念があるのなら色々と出来そうじゃない?)

(そうですね。魔力と似た様なものであっても、あの魔術の様に人工的に生み出せるのだとしたらかなり有用でしょう。是非ともその詳しい仕組みを……)


 思わず学者魂が顔を出して来てしまいもっと話しを聞こうとしていましたら(ちょっと二人とも! そんなことは後にして!)イザベラに叱られてしまいました。


 ……申し訳ありません……。


 確かに今はそれどころではありません。


 魔術による雷の攻撃の後もブルノルフの攻撃は続いていました。


「小癪な小娘がーっ! 死ねーっ!」


 雷の魔術は品切れなのか、効かないと判断したのかはわかりませんが、今は火球や氷の氷柱等の攻撃を受けています。それをイザベラが土の魔法で壁を作り防いでいてくれているのですが、いかんせん作っては壊され再度作り直してと忙しそうにしています。魔力はわたし持ちですから問題はなくとも、妖精が少ないのと技術的な面で苦労していました。


(イザベラさま、有難う存じました。アリシア、交代して下さい)

(オッケー!)







 ……しかしうざったいですね……。


 未だブルノルフの攻撃は止む様子はありませんが、一先ずアリシアに任せておけば大丈夫でしょう。次々と繰り出される攻撃に対し、その都度魔法を変えて上手く対処しています。しかしまだ懸念が残っていました。


(今のままの攻撃ならいいけど、また雷が来たらちょっとヤバイのよね……)


 砂糖は使い切っています。また雷の魔術で攻撃されたら先程の様には対処出来ないそうです。これは何か他の手立てを考える必要がありました。しかし(恐らく大丈夫じゃろう)と、アンナが。


 羊皮紙に描かれた陣に魔力を込めて行使する魔術は一度に一枚。使いっきりです。今もブルノルフは一つ魔術を発動させるとその都度羊皮紙を捨てて、新たな物を取り出して攻撃してきています。


 それに雷を起こす魔術はとても高度で、アリシアであっても魔法で同じことをやるのは難しいそうです。確かに本人も先程(仕組みはどうなってるんだろ? デンカは?)等と不思議がっていました。正直わたしにはサッパリです。


 そんな珍しい物をそう何枚も持っていることはないだろうし、高度な分、行使をするのには魔力を大量に消費しするからわたしでもないのにそう何度も使えるものではないとのアンナの見立てです。


(そうですか、それならば良いのですが。それにしてもよくご存知ですね)


 流石、数少ない利点が生き字引なことであると見直さないまでも少しだけ感心しました。


(しかし、アレを見たのも随分と久し振りじゃな……)


 アンナはその魔術を知ってはいても複雑過ぎて自分では陣を描くことが出来なかったそうです。人が作った物を以前見たことがあるだけだと。


(いつどこでご覧になったのですか?)

(生前じゃ。あれはオババにしか作れんかった)


 それ以来見掛けたことはなく、この場で数百年振り振りに見てとても驚いたのだそうです。


(その当時の物が残っていたのですかね?)


 普通の羊皮紙であれば数百年もの間状態を維持することは困難ですが、状態保存の魔術が施されていれば話しは別です。しかし(その魔術もアレも、国家機密に該当するぞ)おいそれと他国に流出する様な物ではないと、即座に否定されました。


(では、何故そんな物がここにあったのですかね……)

(さて、わからん……)


 未だに顔を真っ赤にし、怒りを露わに攻撃を仕掛けて来るブルノルフでしたが、その攻撃は全てわたしには届いていません。アリシアが危なげなく防いでくれていました。しかしそんな彼のことを見ていると、えもいわれぬ不安が押し寄せて来るのでした。

 

 ……気味が悪いですね……。

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