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其の212 人の魔獣化

 背後を振り向くと直ぐに彼女は見つかりました。

 

 議場の端で頭を抱えて困惑しています。他の者達同様、獣染みた格好になっているのではと心配しましたが、見た目は普段通りなのでホッとしました。


「ベルナ! 大丈夫ですか!」


 わたしに気付くと「へ、陛下ぁ〜」頭から手を外し、大きく手を振りながら情け無い声を上げています。


 ……あら、これはまた随分と可愛らしくなりましたね。


 彼女の頭の上には小ぶりの丸い獣の耳がちょこんと乗っているのが見えました。


「ほぅ……あの娘は我が国の者であるか。ならば余程に胆力があるのか、若しくは随分と魔石が小さくなっているのであろうな」


 ブルノルフもまた彼女を見て妙に感心しています。


「ど、どういうことですか!」

「本当に其方は何も知らぬのだな」


 そしてまたも鼻で笑われてしまうことに。


 ……むぅ……。


「魔石をその身に持つということはだな……」


 ……先程から、どうも物知らずな小娘を相手にしているかの様な態度で、小馬鹿にされているみたいで気に障りますね……。





 


 人と獣の違いとは理性のあるなしだともいわれています。本能の赴くままに生きるのであれはそれは獣。


 魔力は生物にとっての精気のようなものですから、獣は魔石を体内に持っているとそこで増幅された魔力により精神が翻弄されてしまい、更に魔力を求める為に見境なく周りを襲う様になってしまうのですが、人はそうではありません。理性が備わっています。


 幾ら体内に因子があり魔石を保有していようとも、理性でそれを押さえ込んむことが出来きるのですが、しかしそれは強い感情の昂りで簡単にタガが外れてしまうとのこと。それを意図的に起こすことは造作もないのだそうです。


「自らが起こせる最も強い感情は怒りであろう」


 彼の言葉に思わず晩餐会でのことが頭をよぎりました。


 ……あの時の彼等は、一体何に対して怒っていたのでしょうね……。


 しかしそれよりも気になったのがこの国の民達。


 ……だからあの様な様子なのでしょうか。


 恐らくこの国の民はみな知っていることなのでしょう。魔獣化してしまわない様に、普段から努めて大人しくする様心がけているのかも知れません。


 ……それで、その反動がアレですか……。


 今はお調子者のベルナですが、恐らくこの国に居た時にはセドラの様に大人しかったに違いありません。体内に魔石が出来ていた筈ですから。しかし国外に出て魔獣の肉を口にしなくなり、またわたしの元に付く様になったので魔力をラミ王国に捧げる様になりましたから、体内の魔石も小さくなっていたのでしょう。その為に今回被害が少なく済んだ様です。


 ……しかしあの耳は犬? タヌキ? キツネ?


 いずれも違います。あれは恐らくアナグマでしょう。彼女が最もよく食していたのがアナグマの魔獣だったのかも知れません。


 ……確かにアナグマは美味しい獣ですよね。甘い脂身はわたしも好きです。特に秋に獲れるのは絶品ですよね。その味は魔獣になっても変わらないのでしょうか? 今度その辺りのことを詳しく聞いてみましょうか。


 余計なことを考えてしまいましたが今はそれどころではありません。成程。人が何故魔獣化するのはわかりました。


 ───しかし何故それがわたしのせいなのですか!


 そもそも魔獣の肉を食べることを許可していた、若しくは民をそうせざるを得ない状況下に置いていたのは為政者のせいではないですか。お門違いも甚だしい。


 周りの魔獣共を刺激しない様、声を上げずにブルノルフを睨み付けていると、頭の中から(あ〜コレは確かにミリーのせいだねー)とのアリシアの声が聞こえて来て、反射的に頭の中に叫んでしまいます。


(何ですって! どういうことですか!)

(いやだってほら、ノルアドレナリンってさ……)


 わたしがこの場に居る者達全員に恐怖感を植え付けせる為に行ってもらった魔法ですが、副腎髄質から放出されるそのホルモン物質の一つは神経伝達物質であり、交感神経を刺激するものですから確かに不安や焦燥を冗長させるものには違いがないのですが、それは過剰に分泌されると怒りの感情を高めてしまう物でもあるのだそうです。


 ……え? や、やってしまいました!

 

 こんな時にアリシアが冗談をいう筈もありません。本当のことなのでしょう。ならば知らずとはいえ、ここに至るまでの過程はともかくきっかけを作ってしまったのはわたしに違いありません。


 愕然として、思わず固まってしまいました。血の気の引く感じがします。恐らく顔が青くなっているのでしょう。


「やっと己のしでかしに気付きおったか。アンナにでも聞いたか?」


 ブルノルフがわたしを見ていやらしく笑っています。


「ククク……。しかしなんであれ、これで色々と手間が省けたのぅ。感謝するぞ」


 彼がわたしから視線を外して周りを見渡します。釣られてわたしも見渡すと、完全に魔獣化したモノ達が動き出すのが見えました。


 ───まずいッ!


「陛下! ご指示を!」


 ───ッ!


 魔獣は発見後即討伐。これは子供でも知っている常識です。そうしなければ被害が甚大になります。


 しかしこの場にいる者は全てこの国の重鎮達。どの派閥に関係なく彼等がいなければ今後この国の運営に響いてしまいます。それではわたしの願いも遠のいてしまうことでしょう。それにあのモノ達は明らかにわたしに対して敵愾心を持っているのではありません。ただこの場に於いて魔力量が一番大きいのがわたしになりますから、本能に抗えずに襲って来るのです。


 僅かばかりの同情心も邪魔をし、一瞬戸惑ってしまいレイの呼び掛けに対して直ぐに返答が出来ないでいました。

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