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其の206 パンラ王国内

 しかし気が抜けることがもう一つ。


 ……こんなに簡単で良いのですかね?


 気を張っていたわたしが馬鹿みたいです。


 パンラ王国へと至るには、てっきり普段人の使わない様な山道等を行き、密かに入るのかと思っていましたが違いました。


「ようこそお越し下さいました」


 ここは一般の者が使う国境ではないにしてもラャキ国と隣接する村。警備をしている者達もいるにはいるのですが普通に通されて簡素ながらも歓待を受けました。そして反政府組織の一味である評議会の一人、ダンクマールと合流します。


「お初にお目に掛かります女王陛下。ご無沙汰しておりますベッツィー女史」


 当然ここまで順調なのは彼女がいたからこそなのですが。


「それでは早速ですが……」


 ここで例の魔獣に成りかけた男の引き渡しをしました。


「……彼がそうですか……」


 最早人と呼んで良いものかわかりません。魔獣の成り掛け。身体中の関節を外していますから立って歩くことが出来ませんので、専用に馬車を用意して運んで来ています。死なせてはいませんが、最早ただ呻き声を上げるだけの物体。


 流石にコレを見て引かれるかと思いましたが、彼は笑顔を浮かべて「これは良い……」寧ろ喜んでいました。


 それというのも、この人が魔獣に成ることはパンラ王国内でも公には知られていません。恐らくは王とその近しい者のみの極一部で行われていたことだと思われます。


 その為、この魔獣に成り掛けたモノを物証とし、国民に対しての非人道的な行いを議題に上げ、パンラ王国の国王であるブルノルフを糾弾する算段になっていました。


「わたし目はこれから彼を伴い、急ぎ首都へと戻り議会の調整をおこないます。その際はご足労をお掛け致しますが陛下も証人として同席をお願いしたく存じます」

「問題ありません」


 これは事前に示し合わせていました。もちろんそれだけの為だけにわざわざこんな所まで来た訳ではありません。それにこれだけの理由では彼を引き摺り落とすには不足です。


 あの晩餐会の会場で、魔獣と成った輩があの場にいた者全てを亡き者にしていればまた話しは別でしたが、現状わたしを含めて生存者が多数いました。更にはブルノルフの思惑とは異なり、現在ラミ王国に対して宣戦布告をしている状況になっています。


 ラャキ、ニカミの両国を相手取るのであればいざ知らず、ラミ王国は今や大陸一の大国です。そこへ面と向かって喧嘩を売った訳ですから、それを知らなかったからといっても許されるものではありません。その責をブルノルフに負わせ、彼の退陣を持ってパンラ王国とラミ王国の間で和平を結ぶ予定になっています。もちろんその際の条約にはパンラ王国がラミ王国に降るとの項目付き。既に書類も用意しています。


 この後で行われる議会では、現状ラミ王国との開戦中であることを認知させ、それと並行して終戦協定を結ぶ予定でもありました。その為にもラミ王国君主であるわたし本人が出向く必要があったのです。


 ……まぁ予定通り上手くいかなくても、その時はその時ですけれどもね……。


 ですがなるべくなら力押しになることは避けたく思います。


 それはダンクマールも同じでして「互いの国がより良い方向へ向く様に」握手を交わしました。


 そして彼は議会を開く準備があるからと、急ぎ供の者達と共に成り掛けの彼を乗せた馬車を牽き、先に首都へと馬を走らせて行きます。彼等を見送った後はベッツィーに向かいました。


「ここまでご苦労様でした」

「とんでもないことで御座います。あまりお力になれず申し訳御座いません」


 彼女とはここでお別れ。後はわたし達だけでダンクマールが用意してくれた兵士と共に首都へとゆっくり向かいます。






 ……しかし元気がないというか、みなさん鬱々としていますね……。


 首都へと向かう道中、街や村中を通過する際にそこに住まう者達を馬車の中から眺めているのですが、みな覇気がありません。国全体が疲弊しているので仕方がないとはいえ、纏う魔力さえも乏しく見えます。


 それは随伴している兵士達も同じでした。やはりどこか陰鬱です。しかし元同国民であるベルナは全く違いました。彼女は常に朗らかで気力に満ちており、今も頭の上から魔力が立ち上りラミ王国の方へと向かっています。


 ……これは早急になんとかしなければいけませんね……。


 改めて気合が入った次第です。それに合わせて気になったことがありました。


「しかし、本当にみなさん魔獣を気にしないのですね……」


 幾ら大人しくしているとはいえ、オルはどこからどう見ても魔獣です。犬ではありません。こんなモノが人里に現れたら大騒ぎになるかと思いましたが、どこに行っても遠巻きにしてチラチラと見られるだけで騒ぎ立てる者はいませんでした。


「この国では、高貴な方の中には魔獣を愛玩動物として飼う者も少なく無いのですよ」


 随伴している兵士が教えてくれました。


「最も、この様に大きく立派で凛々しい魔獣を伴う方は滅多にいませんが」


 その為にこの一行は、とても高貴な者によるものと思われているそうです。


 その言葉に、オルがどこかしら誇らしげにしている様に見えました。


 ……わたしには醜悪な駄犬にしか見えませんけれどもね……。


 早速美醜の価値観の違いを目の当たりにさせられ、本当にこの国を纏められるか不安になってきました。

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