其の204 同行者選び
パンラ王国に行く準備といっても、戦争に行く訳ではありませんから大掛かりな用意は必要ありません。主にしなければいけないのは共に向かう人員の選定。
今回物騒なことをしに行く訳ですから、押し出しが効く者を中心に選びました。
「レニーにはいつも迷惑を掛けますか宜しくお願いしますね」
「畏まりました」
彼は必須。実力は申し分なく他国に名前が売れていることからも、まず一番に上がりました。そして顔の広い彼に、連れて来た近衛騎士の中や、ルトア、ラャキ、ニカミ国の兵士達の中から実力があり強面の者を幾人か選んでもらいましょう。
「……貴方は来るなといっても来そうですね」
「さすが女王陛下!」
強面でなくても実力はありますのでランバリオンは構いません。しかし……。
「是非、わたくし目も!」
「アラクスル、貴方だけでなく学生は駄目です」
例え実力があっても未来ある若者は連れて行けません。方々から叱られますし不安です。彼らはお留守番。
「貴方は、ルトア国から来てもらった兵士と共にこの首都の防衛を任せます。ランバリオンがいないのですから、貴方が陣頭指揮を取るのですよ」
「……畏まりました」
彼等と違って、例えどうなろうとも構わなく、その戦闘能力だけは評価出来るミアは連れて行くつもりです。
「ミア姉さま、如何なさいますか?」
「もちろん行くぞ!」
しかし無遠慮に暴れられては困りますから、彼女の扱いは匙加減が難しい所。
「その時が来たらはわたしが許可しますので、それまでは大人しくしていると約束なさって下さい。そうでなければ連れて行きませんよ」
「わかってるよ。任せな!」
……今一不安が残りますがまあいいでしょう。
嬉しそうにしているミアから視線を外すと、そんな彼女とは対照的に不安そうなマダリンと目が合いました。
「……本当に、わたくし目は同行しなくても宜しいのでしょうか……」
「構いません。貴女には留守を任せます」
彼女は、わたしにもしものことがあった場合の保険でもありますが、今回はお上品な外交ではありません。アリシアが(……ヤクザみたいなやり口……)等とよくわからないことをいっていましたが、要は恫喝しに行くのです。彼女は自分の身を満足に守れませんし、そんな場所ではあまり役に立たないでしょう。
「大丈夫ですよ。途中までとはいえ、わたくしが付き添いますから」
事前の連絡もなく他国にいきなり押しかける訳ですから、当然荒事になるでしょう。しかし無駄な闘いはなるべく避けたく思います。余計な血は流したくありません。その為、ベッツィーに同行を願いました、
「申し訳ありませんね。国境を越えるまでとはいえ、苦労をかけます」
「滅相も御座いません」
彼女には、上手い具合にパンラ王国内へわたし達を送り込んでもらいます。副首相で培った人脈を最大限に発揮してもらう予定。
……その後はわたし次第ですね……。
一応、パンラ王国内の協力者とも連携は取ります。
「ベルナ、彼等とは話しが済んでいますね?」
「はい。陛下の号令待ちになります」
「わかりました。くれぐれも勝手な行動を起こさない様、再度注意しておいて下さい」
「畏まりました」
これは本当に最後の手段。
いざとなったらルトア国から兵士を雪崩れ込ませます。それに合わせてパンラ王国の反政府軍側に内乱を起こさせ、王の首をすげ替える予定ですが、しかしそれをやってしまうと確実に少なくない人死が出てしまいます。それでは意味がありません。
……なるべく穏便に済ませたいものです……。
そんな状況になりますので、戦争をすること自体が目的ではなくとも仕掛けてしまう恐れがあります。危険な地に赴く訳ですから、当然弟妹達は連れて行くつもりはありません。つもりはないのですが……それを大人しく聞く子達ではありませんでした。
「あたしも行く!」
「ミアねえだけズルイ!」
「ボクも役に立つよ!」
……全くこの子達は……。
確かに下手な兵士達よりも弟妹達の方がマシですが、それとこれとは話しが別。
「なりません! 遊びに行く訳ではないのですよ!」
ここに至るまでの観光気分で来られた旅とは違います。これから赴くのは闘いの場。何があるのかわかりません。弟妹達はやけっぱちになっているミアとは違うのです。輝かしい未来が待っています。それにまだ未成年。現在親から離れていますから、姉であるわたしに監督責任があります。危ないとわかっている場所に連れて行くことなぞ出来ません。
それらをコンコンと説教をするとみな神妙になったのですが、一人メイだけがいつもと変わらない表情で、わたしと目が合うとニコリと笑い一枚の紙を差し出して来ました。
「これは何でしょう?」
「ミリねえが、今みたくいい出したら渡す様にって」
それは母によるわたし宛の署名捺印済みの手紙でした。
内容は要約すると、弟妹達が危険な地に赴こうとした際、わたしがそれを止めようとするだろうが好きにさせなさい。自業自得だし、それがあって成長するのだから止める必要はないとのことです。母が郷里へ戻る前に一筆したためてもらっていました。
……抜け目のない子ですね……しかしこれは甘いのか放任なのか……。
考えてみればわたしも郷里にいた頃は好き勝手していました。それがあったからこそ今のわたしがあるのでしょう。
「わかりました……」
仕方がなく首を縦に振ります。
……ですが、ライナ。貴女は駄目ですよ!




