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其の203 刺した理由

「───なっ!」


 ランバリオン以下、周りの者達が騒ぎ出し騒然となりました。


 ……わたしも子供達の前で、こんなことはしたくありませんけどもね……。


 しかしここで暴れられても困ります。


「お静かに。騒いでいないでよく見なさい」


 何も殺してはいません。ただ刺しただけ。それにただの人でもないのです。


 わたしに刺された男の顔は、口の辺りが少し盛り上がって伸びて来ています。肩幅も膨れ上がり服が破けそうになっていました。


「この者は、今正に魔獣になろうとしていたのですよ」


 一昨日、晩餐会で暴れたパンラ王国の者達と同じです。


 わたしが剣を抜いた時、急いで魔獣に変身しようとしていましたが、その途中でそれを制しました。そのせいでよく見れば頭の上から少し耳が生えたりと、人と獣の中途半端になっています。


 ……犬? 狼ですかね?


 なんとも珍妙な顔です。


 驚いているのは周りの者だけではありません。貫かれた本人も一緒に驚いていました。お腹に剣を刺されたことよりも変身が出来ないことに対しての様ですが、何度も自分の顔をさすったり手を見詰めています。


「な、なぜだ……」


 ……それは魔石を貫きましたからね……。


 手応えは十分。確実に破壊しました。これでもう魔獣化は出来ないでしょう。しかしまだ安心は出来ません。


「ほら、ランバリオン! ボサっとしない! 拘束が解けてますよ!」


 魔獣は人なんかよりも何倍もの力があります。なりかけの状態でもそれなりでした。拘束の縄なぞすぐに引きちぎっています。


 ランバリオンの部下達が慌てて覆い被さり抑え込もうとしましたが、彼も抵抗して暴れ、揉みくちゃに。


 ……こらならまだ暫くは大丈夫そうですね……。


 別に彼に対しては尋問等をするつもりはないのですが、命を奪うつもりもありません。魔獣化を阻止しただけです。後で治療するつもりでした。それと、彼は後で有効活用します。折角ですから無駄にはしません。


 ……晩餐会で暴れた者は、みな始末してしまいましたからね……。


 丁度良く転がり込んで来たものです。しかしその為には大人しくさせておく必要がありました。


「往生際が悪いですね……。ミスティ、彼を無効化なさい。ライナは彼女がやることをよく見て覚えておく様に」

『はい!』

「貴方方、彼を離しても構いませんよ」


 やっと苦労して抑え込んだ彼等はわたしの言葉を聞いて驚いています。どうすれば良いのか困惑していましたが、ランバリオンに視線をやり、彼が頷くのを見ると一斉に離れました。


 そこへミスティが素早く走り寄ります。彼が立ち上がるよりも速くあっという間に四肢の関節を外していきました。


「ミリねえ、これでいい?」


 彼女の足元には、痛みに耐え切れず無様にのたうち回る彼の姿が。


 その側でわたしに笑い掛けているミスティを見て、ランバリオンと部下達は唖然として声も出さずに驚いています。


 ……情け無い……これは本来貴方方がやる仕事なのですよ?


 彼等のことは、まだラミ王国の兵士達よりはマシだと思っていましたが、これではルトア国の兵士達も鍛え直す必要があるように思えて来ます。先々が不安になって来ました。しかし彼女もまだ完璧ではありません。


 軽くため息を吐きつつミスティに視線を戻します。


「貴女もまだまだ甘いですね。口が残っているではないですか」


 首から上はまだ自由に動かせています。これでは近付くと噛みつかれる恐れがありますし、彼はこれから使うのですから舌を噛み切って窒息死されても困ります。


 席を立つとミスティを遠ざけて彼の元へ行き、杖の先端で顔を打ち据えて顎を外しました。


 ……まぁこれで良いでしょう。


 最早悲鳴を上げることも出来ず、情けなく呻くだけになりました。


 処理を終えると、呆然と立ちすくむランバリオンとその部下達に向かって一喝します。


「ほら! 貴方方も惚けてないで、今の内にサッサと縄で拘束なさい! さるぐつわも忘れてはなりませんよ!」

『ハ、ハッ!』


(うわぁ……ミリー達えげつな〜……でも、さすがにコレはやり過ぎじゃない?)

(そうですか? 獣相手なのですからこれ位普通ですよ。それにわたしは優しいですから、この後ちゃんとお腹の刺し傷は治してあげます)

(……お腹だけ?)

(そうです。他は駄目ですよ。アリシア、お願いしますね)

(は〜い……)

 

 彼等が拘束し終わるのを確認すると光の魔法で傷を治療しました。


 ……大丈夫。数日位何も食べずとも死にはしませんよ……。









「それで、他にもまだいるのですよね?」

「ハッ! 後二人になります!」

「面倒ですからまとめて連れて来なさい」

「ハッ!」


 確認した所、残りの者はただの野盗でした。オルも特に何も吠えません。


「二人の処分は警備隊に任せなさい。こちらの者は貴方方で管理する様に」

「……管理……ですか……?」


 もちろん死なさない様にです。ちゃんと水は上げて下さい。


「わたしは一両日中には出立します。その際に彼を連れて行きますので、それまで面倒を見ておいて下さい」

「ハッ!」

「おぉ! では、いよいよ!」

「よしっ!」


 俄かにランバリオンと部下達が嬉しそうにして騒がしくなりました。


 ……やる気があるのは結構ですが、でもわたし、貴方方を連れて行くとは一言もいっていませんよ?


 勝手に盛り上がっている彼等は放っておき、パンラ王国へ向けて出立する準備に掛かりました。

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