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其の198 繋がれた魔獣

 生き物を飼うことは子供の情操教育のためになるという話しは知っています。命を預かり世話をすることで自尊心や共感性を育みますし、一緒にいることで社会性も学べるのですからそれ自体は悪いことではないでしょう。むしろ良いことなのでしょうが……それは飼う対象によるのだとわたしは思うのですよ。


「……貴女方、それが何かわかった上で飼いたいのだといっているのですか?」


 首を紐で繋がれて吠えることもせず大人しくしており、魔獣どころか獣としての覇気すら感じません。項垂れているその様子はまるで家畜の様。しかしそれは確かに周りに散らばっている魔獣と同じモノでした。


 周りの者達は警戒体制に入ったり逃げ出しそうになっています。レイもわたしの前に出ていました。思わずわたしも鞭を振るいそうになりましたが、しかしそれとは打って変わって二人はとても嬉しそうに笑顔で頷きます。


「うん!」

「しってる!」


 魔獣でも臭くないから良いのだそうです。


 ……あら?


 確かに姿形は同じでも、先程まで討伐していたモノとは些か異なりました。魔獣に成り立てで魔石が大きくないせいなのかも知れませんが魔力の存在が希薄です。よく見なければわからない程に。しかもその纏っている薄い魔力なのですが……。


「貴女方、この魔獣に何かしましたね?」

「え! な、なにもしてないよ!」

「しらない!」


 明らかに動揺してそっぽを向いてしまいました。


 ……この子達は……。


 わたしが二人を睨み付けていると、そこへ先程から二人を監視していた手の者が音も立てずにわたしの背後に来てそっと教えてくれました。


「……お二人がアレを見つけた時はまだ子犬程の大きさでした。今の大きさになったのはその後です。二人はアレがお腹を空かせているのに気付くと、可哀想だと持っていたお菓子を与え、そしてその後に……」


 それだけでは足りないだろうと、わたしが非常用の為に、常に二人に持たせているわたしの魔力が詰まった破裂する魔石を与えたとのことです。


 ……それですか……。


 魔獣からは仄かながらにもわたしの魔力を感じました。それがある為に二人は気に入っているのでしょう。ライナ達は二つある頭を互いに抱えて撫で回しながら絶対に手放さないといった表情でわたしを見ています。


 確かにわたしの魔力の支配下にあるのであれば、例え魔獣といえども危険はないでしょう。試しに軽く睨み付けてみると尻尾を巻いて怯えてしまいました。これは下手な犬よりも躾が出来そうです。


 ……なら、仕方がありませんか……。


 如何に魔獣といえども無害であるならば闇雲に命を奪う様なことはしません。わたしもそこまで鬼ではないのです。現状絶対服従なのですから、このままわたしの管理下に置いておくのであれば危険はないと思います。それに出来る限り可愛い娘や妹の望みを叶えてあげたいのもありました。親バカであり姉バカであるのは自覚しています。これは治りません。


 ただ、飼う飼わないは別としても、先程から二人の行動を見ていて気になることがありました。


「……貴女方……もしやコレを可愛いらしいだとか思っているのではないですか?」

『うん! わんちゃんかわいい!』


 恐ろしくはないとはいえ、どう見ても魔獣特有の醜悪な顔をしています。それに怯えているせいか、顔が歪んで更に酷くなっていました。正直見るに耐えません。まだここに転がっている他の魔獣の方がマシに思えます。二人の美的感覚には不安を覚えました。。


 ……これは育て方を間違えましたかね……?








「……陛下、本当に宜しいのですか?」

「そんな心配をなさらなくとも大丈夫ですよ、レニー。問題ありません。ほら、街の者もただの珍しい犬としか思っていませんよ」


 小さな子供が引いているせいか、街中の者達もその大きさには初め驚くも遠巻きにして物珍しそうに見ているだけで恐れて逃げ出す者はいませんでした。見る人によっては醜悪な顔も愛嬌があると思っているのでしょうか。そもそも魔獣なぞ見たことがない者か殆どでしょう。こんなうらびれた犬もどきを見て、魔獣だと思う者も少ないと思います。


 ……頭が一つ余分にありますけどね……。


 それに現在この地での最高権力者であるわたしが許可したのです。文句をいえる者はいません。もちろん権力を振り翳して我儘なのは百も承知。しかし日々命を張って頑張っているのですからこれ位のことは許して下さい。可愛い娘と妹の為なのですから。


 ライナとミスティの嬉しそうにしている様子を満足げに見つつ、宿舎としている城へと戻ったのですが、そこの入り口に立つ者の姿を見て、そのホッコリとしていた気持ちは霧散してしまいました。


 ……そういえば一人だけいましたね……。


 目が醒めたマダリンが仁王立ちで待ち構えていたのです。

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