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其の18 教学の講義

 そうとなれば話しは別です。

 

 わたしとイザベラの間に緊張感が高まりました。


 アンナが降りた者が妖精に嫌われてしまうという事実はあまり知られていません。

 何せアンナ達が降りた者が活躍していた時期は随分と昔しになりますし、今や術具も発達していますから、日常で魔法が使えなくともそう不便ではないのです。更にもっと昔しになりますと、妖精頼みで不確定な魔法よりも魔術の方が主流でした。


(流石に王道派は知っているとは思うのですが……)

(そうかしら? アソコも殆ど知らないんじゃない?)

(何故ですか? イザベラさまにアンナさまが降りた時、王道派内では大騒ぎだったのではなかったのですか?)

(そんなこと無いわよ。だって、黙っていたもの)

(えぇ⁉︎ それで宜しかったのですか?)

 

 当時彼女は敬虔な信徒だったと聞きいていたので驚きましたが(初めはね、それどころのじゃなかったの)訳を聞いて納得しました。


(降りてきたすぐは、しばらくの間寝たきりだったのよ。落ち着いて事情がわかってからは、こんな呪いみたいなのはサッサと終わらせなきゃって思ってたもの。とてもこんなこと公言なんて出来ないわ)


 それなりに魔力が豊富であって器が大きくとも負担が大きかった様です。大変でしたね。


(だから、これは少し困ったことになるかもねぇ……)


 王道派内でも周知の事実でないとしたら、原理主義派でも更に小さな派閥なら尚のこと知らない事実なのかも知れません。


 元聖職者であるイザベラでも、派閥の内情について詳しいのは古くからある派閥だけ。わたしに降りてからは新しい情報は特に更新されていません。何せ田舎でしたから。


 わたしが新たに習ったこの国の歴史では、この国に度々現れては様々な知識を披露して国造りを先導していった者達について、ただ「女」であったとしかありませんでした。髪の色や魔法のことについては特に言及されておらず、それに魔法も魔術も一緒くたにされていた様に思います。


 面倒なことになりました。本当に彼女は疫病神ですね。


(アンナさま、先程から黙ってらっしゃいますが、なんとか仰ったらどうですか? 貴女さまのせいでアリシアが危ない目に遭っているのですよ?)

(………)


 ……ダンマリですか、そうですか。


 そろそろ断食以外に何か良い攻撃手段を編み出さなくてはいけませんね。しっかりと考える必要がありますが今はそれどころではありません。下手な派閥に目を付けられていたのだとしたら、今は貴族子女だとしても危険な状況に変わりはありませんから。


 そう伝えても本人は「そう? でもなんにも起きないと思うわよ? 学園の中なんだし。それに昔と見た目も違うし、今のアタシはけっこー強いのよ? 襲われても大丈夫!」と、歯牙にも掛けていません。


「あー、でもちゃんと話せてよかった! アレってね、けっこートラウマだったのよ。でもみんなに話してスッキリした! だからもう大丈夫! さっ、講堂に行きましょう! アタシね、最近立ったまま寝ることが出来るようになったの。スゴイでしょ! 見せてあげるね!」


 そして以前の元気溌剌としたアリシアに戻ると「あっ! 遅れちゃう!」わたしを抱えて走り出してしまいました。


 ……雑に扱わないで下さい! メガネが落ちます!



 



 お陰で遅刻することなく講堂に入れました。


 ……例え早く着いたところで、わたし達の席は後方なのですけれどもね。


 前列には入園式と同様に王族達が揃っています。前回に比べて豪奢な服装の者の数が多い様に見えるのは、王族達は同学年の者以外も来ているからですかね。中央にいる年嵩の者が王さまだとしたら、隣にいるのはお妃様でしょうか? その光景を見るだけでこの講義の重要度合いが伺い知れます。


 園長や教師達も王族達の後に揃っていて、壇上に上がっているのは教の神官達だけでした。


(イザベラさま、あの方々の中に見覚えのある方はいらっしゃいますか?)

(そうねぇ……)


 わたしの目を通して探してもらいます。


 壇上の中央には白い祭服に身を包む年配の男性が偉そうにして立っており、その脇には男女十数名程が灰色の祭服に身を包み控えていました。

 幾ら見てもイザベラには見覚えのある者はいなさそうで、どこの派閥の者かは判断出来なかったのですが「あっ!」と、以外にも一緒に壇上を見ていたアリシアが反応しました。


「えぇっ! まさか貴女を攫おうとした者があそこにいるのですか?」


 これはのっぴきならない状況です! と慌てて身構えるのでしたが。


「え⁉︎ 違う違う。隣の青藍(せいらん)寮のベスよ、ベス・ブレンダ。ほら、あのグレーの髪した娘。あの娘がアソコにいるの」


 彼女の指差す先は、壇上に立ち並ぶ者達の端の方でした。


「なんであの娘、あんな服着てあんなトコにいるんだろう?」


 アリシアは不思議がっていますがそんなのは決まってます。


「それはね、あの娘が熱心な信徒だからよ」


 ツィスカが相変わらずの細い目を光らせながら代わりに答えてくれました。


 ……貴女方、わたしも流石に数ヶ月も経ちましたので寮内の者のことはみなさん知っていますが、よく他寮の方までご存じですね……。


 わたし同様にアリシア達に驚いているのはレイも同じでしたが、マリーだけは異なり「アソコの寮って、そういった娘が多いのよねー」と眉を顰めています。流石、彼女もご存知でしたか。


 青藍寮はわたし達の住む寮の隣にあるのですが、男爵家子女ばかりが住まう我が寮とは異なり、子爵・男爵家の子女が混ざっています。マリー曰く、設備がウチよりも少し良いのだそうで、男爵家でも子爵家に近い由緒ある家柄の者が多いのだそうです。


「アリーのお陰で、食堂はどの寮よりもウチが上だけどね!」


 マリーに褒められてアリシアは嬉しそうにしていますが、その後も度々行われたアリシアの気紛れ料理教室のお陰で、我が寮の厨房は一時期大変なことになっていたのです。それについてもう忘れたのですか?


 教師の方々は何かと理由をつけてウチの寮に来ては勝手に食堂を使い、食事を堪能していましたが他寮の者や男性教師はそうはいきません。

 生徒は他所の寮に入るには申請が必要になりますが、その手続きは面倒です。うちは女子寮なのですから当然です。それに原則寮の食堂は寮に住む者のために用意されていますから、他寮の者は使用しないのが通例です。

 しかし教師達を通じて噂が広まると共に、他寮生や他の教師からの不満の声が募り、結果として、我が寮の厨房の者が持ち回りで、園内の誰もが使用出来る学園内の大きな食堂へと出張教示をしに行くことになってしまっているのです。


 ……その節はアリシアのせいでご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございませんでした。


 尚、既に寮生のみならず厨房の方々にまで、わたしとアリシアは同室だからという理由だけではなく、対の存在であるとの認識をされてしまっているため、一時はわたしまでもが食堂に食事を摂りに行くと厨房の方々から睨まれる始末。その後、厨房内の魔石に魔力を込める役割をわたしが担うということで落とし所としたのですが。


 ……何故にアリシアが起こした問題を、わたしが償わなければならないのですかね?


 そんなこともありましたから、わたしにあの様な不名誉な二つ名があるのでしょうか。食を握られるというのは怖いのですね。

 最近ではアリシアだけでなく、わたしにまでも教師が下にも置かない扱いです。その様子を見て何を勘違いしているのかは知りませんが、他の生徒からは腫物に触る様な扱いを受けている状況。解せません……。


 それはさて置き現状の問題です。


「園内の生徒に、熱心な信徒がいるのですか?」


 不本意ですが「教」は国教になりますので信奉する者はそこら中にいますが、あくまでそれは社会的規範としてです。しかし王族を招いて行われる程に重要な講義の壇上に、信徒として上がれる程に熱心な信徒の生徒がいるとは思いませんでした。


「知らなかった?」

「存じません」

「ミリーってば、あまり他所のことには興味がないからねー」


 ……興味がないのではなく、自身のことで一杯一杯なのです!


 マリーが言葉を探しながら説明してくれたことによると、家柄はそうでなくとも歴史だけは古く由緒ある貴族は、自身の存在証明のためか教に固執するものが多いらしく、青藍寮にはその手の方が集まっているのだそうです。

 

 ……むしろ一箇所に隔離されているのでは、と思うのは考え過ぎでしょうか?


「教自体を蔑ろにするつもりはありませんが、それが絡むと色々と面倒な事がおきますので、私達は常に留意しているのですよ」


 と、ツィスカが捕捉してくれましたが、アリシアもそれがあって警戒していたのでしょうか?


「え? 違うよ? だって隣の寮じゃん。みんな顔見知り知り合だよ」


 違いました。ただ単に顔が広いだけでした。


 少々眩暈がしてきましたが、他にも知っている者が壇上にいないかアリシア達に尋ねたのですが、彼女以外にはいない様子で、念のためにマリー達にも尋ねますと「あの白い祭服の方は、王都でも有名な教会の司祭さまですよ」レイが教えてくれました。


(ご存知ですか?)

(さぁ……覚えてないわねぇ……)


 それもその筈。つい最近代替わりしたのだそうでして、マリーとツィスカにも聞いてみましたがよく知らないのだそうです。それなのに何故レイが? 一瞬レイが熱心な信徒なのかと警戒しましたが「その教会、うちの近所なんですよ。お恥ずかしながら金銭的な理由で足を運ぶことは全く無いのですが……」とのことでした。


 それを聞き、一先ず安堵している間に鐘が鳴りました。


 わたしとイザベラだけが警戒する中、式が開始されます。

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