其の197 犬型の魔獣
この度の魔獣討伐は警備隊やウチの近衛達に任せました。さぼりたい訳ではありません。これも修練の一環。それに今後のことを踏まえて、今の内に彼等の現時点での実力を知りたくもありました。その為、わたしと弟妹達は彼等が危なくなった時にだけ手を出すことにして見守ります。大丈夫。死ぬ様なことはさせません。その前に助けます。怪我は全て終わった後でちゃんと治してあげますから死なない程度に頑張って下さいね。
近衛達は修練の成果が出ている様で個々の練度が上がっていました。感心感心。しかしまだ連携を取っての闘い方は未熟です。今回、多数を相手取るのに苦戦していました。何度わたしが助けに入ったことか。
一方で警備隊の者達は全くお話しになりません。よくぞあの腕前で例え一頭でも倒せたものだと逆に感心してしまう程でした。
……よっぽど平和だったのですね……。
彼等のことは弟妹達に任せていましたが、時折メイ達から「自分達だけでやる方がましー!」との悲鳴が上がっていましたが、これは貴女方に取っての修練でもあるのです。頑張りなさい。人を使える様になって一人前。自分の力だけでは限界がありますよ。
……この子達も鍛え直さねばなりませんね……。
今後やらなければならない課題を色々と突き付けられた夜でした。
……しかし、これから色々と忙しくなりますね……。
そんなみんなが悪戦苦闘した結果、なんとか日が昇る頃には襲い来た魔獣共を仕留め終えられました。
……ふぅ……なんとかなりましたね。みなさんお疲れ様です。さ、治療をしてあげましょう。アリシア、イザベラさま、お願い致しますね。
「ひー、ふー、みー……えっ?」
もう動いている魔獣はいなくなりましたので討伐した数を数えているのですが、全部で二十四頭でした。一頭たりません。
───これは不味いです!
急ぎ数え間違えをしていないか他の者にも数えさせましたが、それが間違えでないとわかるとみんな大慌て。
すぐにも動ける者には再度周辺の捜索・警戒に当たらせる様に指示を飛ばします。そしてベッツィー達にどう言い訳すれば良いのか、市井の者達の安全策等を焦りながら考えつつ、頭の中の三人へは探しものが得意な妖精に心当たりはないかと無茶振りをしていました。
そんな大混乱の中、突然声を掛けられたので驚きました。
「ミリねえ見つけた!」
「あー! おかあさんいたー!」
「ライナ! ミスティ! どうしてここに!?」
夜明けに目が醒めたらわたしがいないことに気が付き、部屋の外で番をしていた手の者に尋ねた所、わたしが街中で魔獣の討伐中とことを聞きつけ様子を見に来たのだそうです。
……マダリンはまだ寝ていたのですね……。
彼女が起きていたら二人の好きにさせてはいない筈です。
手の者達は二人の実力をよく知っていますから、危険はないと判断して好きにさせたのでしょう。しかし流石に放任過ぎるのではと少しカチンと来ましたが、しかし二人の背後にある建物の陰から、隠れてはいますがわたしの色の魔力が立ち上っているのが見えています。ちゃんと手の者が見張っているのがわかりました。
……まぁ、ならば良いでしょう。
二人はわたしが魔獣の討伐中なのだから、手伝ってくれるべく来てくれたのだと思います。なんと優しい娘に妹でしょうか。その気持ちだけでも嬉しくなってしまいます。
討伐は既に大方は終わっていますがまだ一頭だけ残っています。小さな子供をこき使うのは気が引けますが魔獣の捜索は二人にはうってつけ。これは渡りに船です。大人として情けなくは思いますが、早速捜索を手伝ってもらおうと考えて二人に向くのでしたが、二人して上目遣いでわたしのことを見ているのに気が付き一旦その考えを追いやります。
「どうかされましたか?」
「ねぇおかあさん、おねがいがあるの」
「あたしも!」
普段あまりおねだり等はして来ない子達です。何もこんな時にとも思いましたが、珍しいことですから聞くだけ聞いてみることにしました。
「なんでしょう? 見ての通りわたしは今はとても忙しいのですよ。手短にお願いします」
するとライナは手に持っていた紐を引っ張ると、ミスティと左右に分かれて背後に置いていたモノを前に出して来ました。途端に周りの者がそれを見て騒然としまいます。
「おかあさんみて! これさっきひろったの。あたしかいたい!」
「あたしも!」
そこにあったのは、頭が二つある犬型の魔獣でした。




