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其の194 魔獣型の人 

 これは最早様子見をしていたり、なりふりを構っている場合ではありません。


「ミスティ! ライナ! 行きなさい! 自身の身の安全を最優先に!」

『はい!』


 手の者達にも急ぎ指示します。


「貴女方の中で得物を持っている者は討伐に向かいなさい! それ以外の者は来賓達の身の安全を確保! 会場内から連れ出しなさい! みなさん、命を大事に!」

『ハッ!』


(イザベラさま! これから風魔法で各所に連絡をします。準備を! アリシアは戦闘体制に入って下さい! すぐに向かいますよ! アンナさまはまだ他にも魔獣がいないか確認! 先程の様に腑抜けた返答は許しませんからね! みなさん宜しいですね!)


 頭の中の三人に指示を伝えながら、杖を振りかざして立ち向かいました。







 ……やはり屋内での戦闘は勝手が違って面倒でしたね……。


 これが山中や原野ならば自由に気兼ねなく動けます。広範囲で大規模な攻撃も可能ですから戦術の幅も広がりますし戦い易いのですが。何より邪魔な人がいません。


 人が密集している所に魔獣が出現したものですから、人を避けながら攻撃をするのが大変でした。正確にはその中にいた者が魔獣と成ったのですが同じことです。やりずらいったらありゃしません。


 ……下手に魔法で攻撃すると、人にまで当たってしまいますからね……。


 流石の魔法巧者のアリシアも苦労していました。


 その為、魔獣一頭一頭はそう強くはありませんでしたが、倒すのがとても面倒。先ずは近付くと杖で威嚇攻撃。意識をわたしに向けさて人から引き離した所を魔法で仕留めます。一々個別に叩かなくてはならなず手間が掛かりました。


 苦戦していたのは他の者も同じこと。最初ミスティ達は逃げ惑う者達を避けるのに苦労していましたが、仕舞いには人の頭や天井、壁等を踏み台にして飛び回り闘っていました。


 ……魔獣達よりも、あの子達の方が沢山調度品を壊したのではないかしら?


 有事の際ですから勘弁願います。踏まれた本人達も、あの混乱の中では気付いてないでしょう。見なかったことにします。


 手の者達や、レニーに連れられて入って来た警備の者達も同様に困惑していました。


 何せ人が相手なのではありません。初めは魔獣相手に果敢に挑む者もいましたが、殆どの者は魔獣の相手なぞしたことが無かった様で攻めあぐねてしまい、ならばと来賓達の身柄の安全を確保するべく指示をしたのですが、腰が抜けて動けない者や怪我人が多い為に、一人を助けるのに数人の人手を有することに。そんな風に悠長に救出作業をしていると、そこへ魔獣が襲い掛かりまたそれを捌くのに人出が必要でした。


 現場は大混乱。


 レニーとわたしから呼び付けられた近衛達や弟妹達が慌ててやって来た頃には騒動も終わっていました。


 ……途中で、わたしが面倒になりましたからね……。


 ある程度の段階で、会場内に救出しなければいけない者がもういないのを確認すると、アリシアに頼んで広範囲攻撃。多少巻き込んでしまった者もいましたが気にしません。怪我ならば後で治せば良いのです。それでやっと目が覚めたミアなぞは自業自得。文句をいわれても知りません。後でちゃんと治してあげますよ。もちろんイザベラが、ですけれどもね。


 しかしいくら光の魔法とはいえ、怪我は治すことは出来ても死者を蘇らすことは出来ません。結果として少なくない犠牲者を出してしまいました。これは魔獣側の思い通りにことが進んでしまったと見た方が良いのでしょう。


 ……さて、これからどうしますか……。


 今わたしは、目の前に並んでいる死体を見下ろしながら、各国の重鎮達と共に頭を抱えていました。








「……それは間違いないでしょうか」

「……はい……」

「ならばこれは狙って行われたのかも知れませんね」

「……恐らくは……」


 生存者達の証言と残っている死体を確認するに、まず間違いなく突然現れた魔獣達はパンラ王国側の者が変異していました。


 人が何故魔獣に、どの様な過程でそうと成ったのかはわかりませんが、それを起こした目的は推測出来ます。


 三カ国の重鎮が一同に集まっていたのです。丁度良い機会でした。


 会場内で魔獣化し、要人を殺害することを計画していたのでしょう。行動を起こす前にそれがバレて一人が始末されてしまったことは想定外のことだったでしょうが。


 今回、死者が何人も出てしまいましたが、まず初めに両国の首相が狙われて共にすぐ息絶えています。恐らくわたしが初めに狙われていたのでしょう。ライナがことを起こしてくれなければ危うかったかも知れません。これはライナに感謝しなければいけませんね。後で壊した調度品の請求が来ても喜んで払いましょう。


「あぁ……何故こんなことに……」


 ニカミ国の副首相は大怪我を負いましたが命は取り留めました。彼も役職的に狙われていた者の一人なのでしょう。その際にかなり血を流したせいのか、遺体の前で跪き絶望して泣いているその顔は真っ青です。


「おじい様、嘆くのは後にして下さい。先ずはここに残っている者だけででも、今後のことを早急に決めなければなりません」


 同じく生き残ったベッツィーですが、彼女は泣き顔を腫らして項垂れている彼とは異なり、顔を上げて涙一つ見せずに前を向いています。


 わたしの周りには副首相の様に人前でみっともない姿を晒す者は殆どいませんが、また彼女殆どに気丈な者もそうはいません。思わず感心してしまいました。


 ……わたしも彼女を見習ってしっかりせねばいけませんね……。


 彼女のいう通り。これはパンラ王国からの宣戦布告ともいえましょう。死者を悼んでばかりいては彼らの思う壺。即急に対策を立てねばなりません。


 これからどうするべきか、三人で話し合いをしようとしたのですが、ふと彼女の異変に気が付きました。


 ……あれは、脂汗ではないですかね?


 よく見ると足元には赤いシミが見えています。


「……ベッツィー、貴女もしや……」


 慌てて背中に回ると、ザックリとした大きな傷痕が。魔獣の攻撃を避けきれなかったと恥ずかしそうにしています。


 ───気丈にも程がありますよ!


 慌ててイザベラに頼み処置を施しました。


 ……これ以上、わたしの大事な国民予定者を減らさないで下さいね……。

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